成果概要
主体的な行動変容を促すAwareness AIロボットシステム開発[3] Awareness AIの社会実装
2023年度までの進捗状況
1. プログラムにおける位置づけ
「Awareness AIの開発」や「Awareness AIの応用」で作られるシステムを、実際に社会実装していくにはどうしたら良いのでしょうか。そしてその結果としてつくられる、ロボットと共存していく社会とは私たちにどのような恩恵をもたらしてくれるのでしょうか。本研究開発項目は、そのような問題を実際に開発している私たちのシステムを用いて検討。実証していくことを大きな目的としています。
特に、我々の目指している「気づき」の管理は、その評価が特に難しいものです。「Awareness AIの応用」の中でも述べた通り、脳深部で起きる無意識下での変化が気づきを引き起こす主な対象であるため、意識的に感じる変化が、実際の変化とは必ずしも一致しません。また、「Awareness AIの開発」の研究開発項目でも議論した、空気を読むといった能力は、意識ではよく理解できないものに、一定の論理性を与える手法であるとも言えます。
したがって、意識では感じられない変化をどのように評価し、どのような形で実装していくべきなのかは、従来の人間工学的・心理学的な評価方法を越えて検討していかなければならない問題です。それに加えて、その変化は対象者が「潜在的に望むもの」でなければならず、望む方向に主体的な変化を促すことが最終的な目的となります。そのためには、アンケートのような形で対象者の変化を確認するのではなく、本人は明示的には感じていない生体信号や行動の変化から評価しつつ、適切な気づきを促していくということを行っていかなければならないのです。
2022年は、他の研究開発項目と連携しながら、運動麻痺や疼痛といった変化の定義がしやすく、かつ臨むべき方向も、疼痛の改善や運動麻痺の低減といったように、比較的分かりやすい疾患患者を対象に、生体信号・行動の変化の評価方法を確立し、効果的な介入方法についての検討を進めました。
2. 研究開発の概要及び挑戦的な課題
他の項目でも述べた通り、私たちの日常的で自然な歩行には、様々な情報が含まれています。「Awareness AIの応用」の研究開発項目で設置したAwareness AI Labには、複数台のカメラで撮影することで歩行の詳細を計測できますが、多くの人を計測することは困難です。それに対し、多くの人の方向を同時に計測するには、インソールのような足底圧を測る方法があります。歩行中地面に接するのは足裏のみです。したがって足裏にかかる力を計測することで歩行の特徴が比較的簡単に良く分かるのです。 我々は図1に示す歩行計測システムを構築し、健常者500人以上の計測から、変形性膝関節症のような変更被害をもたらす歩行へのなりやすさ、を定量化することができるようになりました。
また図2に示す通り、慢性的な腰痛患者にRobotic Nimbusを用いて介入することで、歩行の軌跡が「まっすぐになる」という結果も見られました。意識としては、「体が軽くなった」といった感覚でしたが、行動としてもしっかりとその成果が表れていることが確認されました。これにより、極めて抽象的な体が軽くなったという表現を、工学的に定量化できるようになりました。
3. 今後の展開
今後は、「なりたい自分」を実現するための評価・介入方法の検討を深めていく予定です。健康維持をするためであっても、「健康のために歩きましょう」と言われると、やる気がなくなります。これをReactance Theoryと呼びますが、勉強しなさい、と言われると勉強したくなくなるのと同じです。それに対し、内的報酬という考え方があります。いわば、本能的に得られるうれしさです。それを満足させることが、継続的に介入を続ける最も重要な点であり、それが可能なシステムを開発していきます。

