成果概要

一人に一台一生寄り添うスマートロボット1. スマートロボットの身体と制御システムの構築

2022年度までの進捗状況

1.概要

現在のロボットハードウェアは、その精度と耐久性(剛性)を重視するがゆえに極めて硬く重くなり、例えば接客、家事、福祉、看護、医療など、日常生活において人の支援を行うための安全性の問題を本質的にクリアできません。そのため、ロボットハードウェアを構成部材、表皮、関節などを含めて本質的に“柔らかく”し、人の全身を支えられるパワーを有しつつ、衝突しても人間に危害が加わらない受動柔軟性を備えたアーム・移動機構および各種の道具を使うことが可能なハンドを有するロボットの身体を設計・製作します。具体的には、柔軟関節、柔軟皮膚、磁性流体アクチュエータ、高精度触覚センサに加えて、油剤・冷却剤・潤滑剤などの体液を身体に循環させることで自己修復・維持機能を持たせた、人と共存可能なドライ・ウェットハイブリッドスマートロボットを開発します(図1)。

図1 隙間のないウェットロボットメカニズム
図1 隙間のないウェットロボットメカニズム

2.2022年度までの成果

研究開発課題1-1: 人間との接触を伴う作業が可能なロボットシステムの構築

本プロジェクトで開発した世界最高水準の人共存型ドライロボット(Dry-AIREC)による人との物理的接触を伴う動作に関する各種実験を行うとともに、人の生体を模した新しいドライ・ウェットハイブリッドスマートロボットの実現に向けて、以下の研究開発を実施しました。

  • 画像処理による骨格認識に基づき、Dry-AIRECが身体に接触して行う介護・リハビリ動作として、関節の可動範囲拡張などに関する機能訓練の模擬動作実験を実施(図2)。
図2 関節可動範囲拡張動作と移乗介助動作図2 開発したDry-AIRECと机拭き動作
図2 関節可動範囲拡張動作と移乗介助動作
  • ハンド部のアクチュエータとなるMRFベーンモータ(モーター軸が回転する形式の磁気粘弾性流体モーター)を開発するとともに、ハンド部の機構設計を実施(図3)。
  • 自己修復用カプセルの製作方法を確立し、カプセル形状を得ることを確認(図4)。さらに、カプセルの吸着が可能な流路を製作する手法を構築し、ポンプを用いて流路内部で液体を循環できることを確認。
  • 伸縮型皮膚センサの信頼性向上のため、コイル状の銅線およびシリコンを使用することで、繰り返し引張に対する出力の安定化を確認(図5)。

図3 MRFベーンモータ駆動ロボットハンド
図3 MRFベーンモータ駆動ロボットハンド
図4 自己修復用カプセルの製作
図4 自己修復用カプセルの製作
図5 伸縮性を有する皮膚センサ
図5 伸縮性を有する皮膚センサ

研究開発課題1-2:スマートロボット用ミドルウェアの構築

OpenRTMとROS間の連携を行い、開発を進めているソフトウェアフレームワーク上でDry-AIRECの動作を実現しました。マニピュレータの手先座標を用いた学習により物体把持を行うモジュールなどをDry-AIRECに適用することにより、ロボットを変更しても同一の学習モデルが利用できることを確認しました。

研究開発課題1-3:

スマートロボットに搭載する低消費電力AIアクセラレータプロセッサチップに関して、その基本構成の設計を行い、さらにFPGA上の設計検証兼予備評価環境を構築しました。また、基本構成設計から次年度のチップ製造に向けた設計情報を作成しました。

3.今後の展開

介護分野を中心に、人との接触を伴う各種応用場面を想定したDry-AIRECへのAI実装、流体駆動型上半身やハンドによる重量物ハンドリングの実験、自己修復機能におけるカプセルの吸着が可能な流路製作や造形精度の向上などを進めます。さらに、チップ製造に着手しているコンパイラ協調低消費電力AIプロセッサのDry-AIREC への導入など、ロボットハードウェア、ミドルウェア、AIチップの開発を統合的に進める予定です。