成果概要
一人に一台一生寄り添うスマートロボット[1] スマートロボットの身体と制御システムの構築
2023年度までの進捗状況
1. 概要
現在のロボットハードウェアは、その精度と耐久性(剛性)を重視するがゆえに極めて硬く重くなり、例えば接客、家事、福祉、看護、医療など、日常生活において人の支援を行うための安全性の問題を本質的にクリアできません。そのため、ロボットハードウェアを構成部材、表皮、関節などを含めて本質的に“柔らかく”し、人の全身を支えられるパワーを有しつつ、衝突しても人間に危害が加わらない受動柔軟性を備えたアーム・移動機構および各種の道具を使うことが可能なハンドを有するロボットの身体を設計・製作します。具体的には、柔軟関節、柔軟皮膚、磁性流体アクチュエータ、高精度触覚センサに加えて、油剤・冷却剤・潤滑剤などの体液を身体に循環させることで自己修復・維持機能を持たせた、人と共存可能なドライ・ウェットハイブリッドスマートロボットを開発します(図1)。
2. これまでの主な成果
研究開発課題1-1: 人間との接触を伴う作業が可能なロボットシステムの構築
本プロジェクトで開発した世界最高水準の人共存型ドライロボット(Dry-AIREC)による人との物理的接触を伴う動作に関する各種実験を行うとともに、人の生体を模した新しいドライ・ウェットハイブリッドスマートロボットの実現に向けて、以下の研究開発を実施しました。
- 人の状態に応じ接触点や関節の固さを適応調整する動作生成アルゴリズムを開発し、Dry-AIRECによる関節の可動範囲拡張動作や体位変換支援動作などに関する模擬動作実験を実施(図2)。
- 直動式油圧アクチュエータ型上半身システムの製作と重量物把持機能やバックドライバブル機能等の確認。回転式油圧アクチュエータハンドの一次試作機の設計製作(図3)。
- カプセル(人工血小板)の型を製作し、その型内で刺激応答性ハイドロゲルを重合することで、刺激に応じて変形する人工血小板を作製(図4)。
- 伸縮型皮膚センサとして、液状のシリコーンゴムを流し込み硬化させることで弾性を持たせたものと伸縮性の布に導電糸を縫うことにより薄さと伸縮性を持たせたものの2つを作製(図5)。
研究開発課題1-2:スマートロボット用ミドルウェアの構築
開発を進めているロボットソフトウェアフレームワークにより、異種ロボット間での深層予測学習の適用を行い、多様な条件下における評価を行いました。また、バイタルデータを活用した日常的な健康モニタリングに関するシステム構築を行いました。
研究開発課題1-3:
スマートロボットに搭載する低消費電力AIアクセラレータプロセッサチップに関して、開発した基本構成の設計と検証を進め、その情報に基づき実チップの製造を行うとともに、実チップ搭載評価ボードを開発・製造しました。
3. 今後の展開
引き続き、介護分野を中心に、人との接触を伴う各種応用場面を想定したDry-AIRECへのAI実装、回転式流体アクチュエータによる上半身システム開発、自己修復機能におけるカプセルの吸着が可能な流路製作や造形精度の向上などを進めます。さらに、コンパイラ協調低消費電力AIプロセッサのDry-AIREC への導入など、ロボットハードウェア、ミドルウェア、AIチップの開発を統合的に進める予定です。