成果概要

一人に一台一生寄り添うスマートロボット[3] スマートロボットの福祉・医療への展開技術の構築

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、介護、看護、医療(診断・治療)が行われる施設、病院において、働く人や訪れた人たちを支援するスマートロボット(AIREC, AI-driven Robot for Embrace and Care)の実現を目指し研究開発を行なっています。このような場所では人とAIRECが互いに触れ合うため、AIRECはやさしく安全に動かなくてはならず、さらに、AIRECは治療などに使われる専用の各種道具を上手に使いこなさなければなりません。このような人との親和性、安全性などを考慮し、医療や福祉の現場で働けるAIRECの実現を目指し研究開発を行なっています。

2. これまでの主な成果

①健康モニタリングを実現する情報基盤システムの開発

介護老人保健施設等での情報取得に関する実証実験を行い、体温や脈拍などの生体情報を取得し、管理するシステムのプロトタイプを構築しました。AIRECが日常生活の中で人に近づき、触れ、自然な形で生体情報を取得するためのAIREC用計測センサの開発を行いました。

②人に寄り添い、支えるロボットハンドスキンの開発

人の手に代わるバイオハイブリッド型ロボットスキンの実現を目指しています。元の15倍以上の高伸展性、30%の自己修復能を有するハイドロゲル(図1)と、伸縮性があり、かつ水中に浸すと溶解する高分子ゲル(図2)を開発しました。

図1 開発したハイドロゲル
図1 開発したハイドロゲル
図2 開発したハイドロゲル
図2 開発したハイドロゲル
③病院の検査・施設案内をする機能の開発

AIRECに、話す機能・自動で施設のマップを作成しその中での自分の位置を推定する機能・NFCを活用した個人認識機能・非接触自動充電機能を実装し、実験環境での案内を実施しました。

④5R(正しい;患者、薬剤、用量、用法、時間)を守って与薬・薬管理が可能な機能の開発

5Rのうち、薬剤・用法・時間を確認して記録するシステムのプロトタイプを開発しました。AIRECによる配薬支援を実現するため、介護施設の現状の業務シナリオおよびロボットが代替する作業・動作・所作を抽出しました。

⑤様々な場所で活用できるロボットハンドの開発

皮膚科医の触察を再現する2指ハンドの試作(図3)、触診柔らかさを判定可能なAIの構築とセミウェット視触覚センサの開発を行いました。また、AIRECによる超音波画像撮像に向けて、超音波プローブ制御用ハンドを設計試作し、プローブの接触力を記録するシステムを構築し、ファントムを対象に評価を実施しました(図4)。

図3  皮膚科触察再現ハンド
図3 皮膚科触察再現ハンド
図4  AIRECによる自動超音波診断
図4 AIRECによる自動超音波診断
⑥福祉・医療ロボット設計と品質保証・国際標準化・リスク管理

仰臥位→側臥位体位変換支援における、支援者・非支援者の動作解析とAIRECの介護動作を生成しました。日本ロボット学会研究専門委員会を立ち上げ、AIRECのような汎用的なホームケアロボットが医療機器を操作する場合の安全性の考え方を、超音波(操作)ロボットを例に議論を実施しました。

ロボットによる施設案内時のリスク抽出を行いました。支援対象によるアクションが必要なタスクにおいては、支援対象や環境の状況把握が必須であり、これについてリスクの依存度の指標を追加しました。また、AIRECが支援時に接触する際のリスク評価を見据え、人の腕などを想定した複合材料からなる生体モデルを対象に、硬さ計測の原理確認を実施しました。

3. 今後の展開

今後は、これまでの環境整備や基盤開発成果のAIRECとの連携及びAI導入を行うことで、AIRECが人と触れ合いながら各機能を正確に自律的に行い、社会で活躍するための研究開発を、社会倫理を考慮した上で進める予定です。