成果概要

一人に一台一生寄り添うスマートロボット3. スマートロボットの福祉・医療への展開技術の構築

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは、介護、看護、医療(診断・治療)が行われる施設、病院において、働く人や訪れた人たちを支援するスマートロボット(AIREC, AI-driven Robot for Embrace and Care)の実現を目指した研究開発を行なっています。このような場所では人とAIRECが互いに触れ合うため、AIRECはやさしく安全に動かなくてはならず、さらに、AIRECは治療などに使われる専用の各種道具を上手に使いこなさなければなりません。このような人との親和性、安全性などを考慮し、医療や福祉の現場で働けるAIRECの実現を目指し研究開発を行なっています。

2.2022年度までの成果

①健康モニタリングを実現する情報基盤システムの開発

AIRECが日常生活の中で人に近づき、触れ、自然な形で生体情報を取得し健康管理を行うために、大容量・超高速データ処理の負荷に耐えうる高機能なサーバーを構築し、他のデータベースとの互換性が高いデータ形式でデータを蓄積しています。介護老人保健施設等での情報取得に関する実証実験を開始しました。

②人に寄り添い、支えるロボットハンドスキンの開発

人の手に代わるバイオハイブリッド型ロボットスキンの実現を目指しています。水素結合性材料の特徴に着目し、人と接するのに適した弾性や接着力、高い伸展性や自己修復性を持つ材料(ゲル)の開発と開発したゲルの特性評価を実施しました。(図1左)

③病院の検査・施設案内をする機能の開発

検診施設で、ロボットが各検査室への案内を行う実証実験を実施しました(35件)。本実証実験により、AIRECが人に“やさしく”案内する際の要求機能や課題などが明確になりました。

④5R(正しい;患者、薬剤、用量、用法、時間)を守って与薬・薬管理が可能な機能の開発

現状の介護・医療現場での看護師や介護士の与薬に関するニーズ調査と開発する与薬管理システムの要件定義を行い、システムのプロトタイプを開発しました。

⑤様々な場所で活用できるロボットハンドの開発

AIRECに専用のハンドを取り付け、口腔ケアを行うシナリオを作成し、機能の模擬動作を実施しました。(図1中)
また、診察(触診・手当)を可能とするハンド開発のため、皮膚科での触診動作を解析し患部の重症度の判定に不可欠なやわらかさ5段階や表面特徴3種類を触診判定可能なAIの構築(図1(右))と視触覚センサの原理検証を行いました。

図1 (左)開発したハイドロゲル (中)口腔ケア用ハンドと実機テストの様子 (右)構築した触診AI
図1 (左)開発したハイドロゲル (中)口腔ケア用ハンドと実機テストの様子 (右)構築した触診AI

⑥福祉・医療ロボット設計と品質保証・国際標準化・リスク管理

AIRECによる支援についてのシナリオの作成とリスクマネジメントのためのリスクリストの作成、標準化を意識したAIREC導入後の実証実験における検証項目の検討を行いました。特に人に寄り添った支援において今後需要が高くなる医療機器を取り扱うホームロボットは新たな標準の枠組みが必要であり、そのあり方に関するガイドライン準備委員会を発足しました。また、実際の介護施設のインシデントレポートを元にリスクマネジメントにおける課題を整理しました。介護老人保健施設に複数人を対象とした位置検知システムを設置し、リスクマネジメント・安全性、品質保証のための継続的なデータ収集および解析を可能としました。さらに、同施設にAIRECを導入し、体操支援、会話機能の一部を実施・評価するとともに(図2(左))、支援対象となる高齢者の身体的な特徴を評価するための要素技術研究(図2(右))を実施しました。

図2 (左)介護老人保健施設にAIRECを導入した様子(右)AIRECハンドで腕の状態評価を目指した硬さ計測法
図2 (左)介護老人保健施設にAIRECを導入した様子(右)AIRECハンドで腕の状態評価を目指した硬さ計測法

3.今後の展開

今後は、これまで行ってきた環境整備や基盤開発成果のAIRECとの連携及びAI導入を行うことで、各機能を正確に自律的に行えるようにし、さらにAIRECが社会で活躍するための社会倫理を考慮した研究開発を進める予定です。