成果概要
一人に一台一生寄り添うスマートロボット[2] スマートロボットの知能システムの構築
2023年度までの進捗状況
1. 概要
現在の人工知能技術において、最大の課題の一つとして「モラベックのパラドックス」が存在します。このパラドックスは、大人になって可能になる対話や論理推論に比べ、子供でも半無意識的に実行可能な作業が、最新の人工知能にとって非常に困難であるという矛盾を指摘しています。この問題は、近年のChatGPTなどのLLM(大規模言語モデル)の発展によってより顕在化し、Google DeepMind、OpenAI、テスラなど世界のAIのトップ企業が、LLMの次のターゲットとしての”(人型)ロボット”に着目し、2023年には非常に大きな分野に発展しました。これは、本PJが2020年にスタートした時点での予測通りの進展ですが、その速度は予想を超えるものがあると言えます。
本研究では、脳神経科学の知見を背景とした独自のアプローチである「深層予測学習」を活用し、人間の手作業、特に家事を支援するロボット知能の実現を目指します。深層予測学習は、深層学習技術を応用し、リアルタイムで高次元の感覚と運動の変化を予測し、予測誤差を最小化するためのフレームワークです。既に本手法によって、衣類や食材のハンドリング、家屋内での移動などのタスクを実現しており、今後も研究成果を拡大していく計画です。
2. これまでの主な成果
プロジェクトで開発した人間協調ロボットDry-AIREC、その他のロボット群を用いて、複数の動作学習研究を展開しました。以下にその一部を示します。
1)衣類のハンドリング:
これまで継続的に行なってきた衣類のハンドリングに関する研究を拡張し、AIRECの双腕アーム協調による”スーツのハンガー掛け”という高難易度タスクを実現し国際ロボット展2023にて披露しました。西村経済産業大臣(当時)の訪問を受けるなど、複数のメディアを通して成果発信を行いました(図1)。このタスクには2023年6月に公開した深層予測学習モデルのライブラリEIPL(Embodied Intelligence with Deep Predictive Learning)が利用されています。

2)調理における長期計画:
英国アランチューリングインスチチュートとの共同研究において、食材のカッティングを含む長期動作計画について、ロボティクス分野におけるトップ会議であるICRA2023にて発表しました(図2)。またDry-AIRECを用い、パスタとスープを注いだりかき混ぜたりする調理作業タスクの学習を一定レベルで実現しました。

3)多様な環境下での物体把持:
研究成果の社会実装に向けて、お台場にある産業技術総合研究所のコンビニ模擬環境で形状の異なる複数商品の把持を実現しました。さらにDry-AIREC頭部のセンサからの物体姿勢推定に基づき,日用品を把持することに成功しました(図3)。最終成果に向け、日用品操作タスクの中で実証する実装を進めています。

4)その他の成果:
当研究開発項目リーダーである早大尾形哲也が、ムーンショットPJの成果を含む業績において、令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞しました。またIEEE RSJ IROS2023 Keynote、SICE2023 Plenaryなど28件の有力国内外会議で基調講演、招待講演を行いました。また日経サイエンスでの単独インタビューなど、複数メディアにおいてムーンショットPJの成果発信を行いました。
3. 今後の展開
2024年度から世界トップAI機関である英国アランチューリング研究所に参画頂きました。この共同研究を進め、Dry-AIRECでの成果に繋げることで、国際的な成果発信をしていきます。さらに、同じく2024年度から株式会社日立製作所にも参画いただくことになり、より現実的な社会実装に向けて、AIREC簡易モデルであるAIREC-Basicを開発し、多様なタスクの学習とデモンストレーションを行う予定です。