成果概要

一人に一台一生寄り添うスマートロボット[4] スマートロボットの実用化方策

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目は、スマートロボットの実用化方策の提案を目的としています。この研究開発テーマの遂行により、プロジェクトが目指す「一人に一台一生寄り添うスマートロボット」がグローバル社会において実現可能となり、ムーンショット目標3で目指すスマートロボットと共に暮らす未来の人間社会のよき実現に貢献します。この達成に向けては、地域や文化によるスマートロボットのニーズおよび社会受容性の差異が国際的な課題となっており、この点を挑戦的なテーマとして取り組んでいます。従来とはまったく異なる「ヒューマンファーストイノベーション」の発想で、倫理的・法的・社会的な課題(ELSI)の視点から、ケンブリッジ大学やスタンフォード大学などと連携し、理論的研究と国際比較調査を用いて取り組んでいます。
プロジェクトが目指すスマートロボットの世界的な受容には、次の4つステップが必要となります。

①国際比較調査により、地域や文化の違いによるスマートロボットに関するニーズの抽出、社会受容性の理解。②多様性とインクルージョンならびに倫理的・法的課題に配慮したスマートロボット開発原則の作成。③実証実験による設計・制御への反映。④利用者のスマートロボットリテラシーを向上するためのツールキットの開発。

ヒューマン・ファースト・イノベーション

2. これまでの主な成果

ELSIの視点から世界に通用するスマートロボットの社会実装を実現する要件を明らかにするために、以下の3つの課題に取り組んできました。

1)実践的課題:ELSI観点の分析と方策の策定
  • AIロボット実装におけるELSI観点の分析と具体的方策の策定を行いました。この研究により社会実装における倫理的課題への対応指針を示しました。
  • 介護・コンビニ・家事等の導入場面ごとに、倫理的・法的・社会的側面からユースケースを分析し、倫理リスクアセスメント(ERA)と、チェックリストを作成しました。
  • ERAでは物理的・心理的・プライバシー・環境等のリスクを体系的に抽出し、AIRECの設計に反映する予定です。
2)法的課題:自律・責任の再検討
  • AIの自律性と責任を法的側面から考察しました。
  • AIロボットが意思決定に関与することで生じる「自律の揺らぎ」を指摘し、自律を抽象的属性ではなく、他者や文脈との関係性の中で再構築する必要性を提示しました。
  • AI規制の国際比較を行いました。欧州、米国、日本、等を比較したうえで、AIロボットの開発・利用に求められる国際的コンセンサスを確認しました。
3)理論的課題:AIロボットと人間の関係性のモデル構築
  • 技術的人工物の道徳的行為者性をめぐる技術哲学的研究、及び自律性と責任に関して研究を進めました。
  • 技術多様性論や、マルチスピーシーズ/モア・ザン・ヒューマンの人類学やデザイン研究をはじめとした、近代西洋中心主義的な人間観・技術観・自然観・生命観の限界を批判的に乗り越える試みを参照しつつ、AIロボットと人間の善き関係をめぐる価値観提示の道筋を示しました。
  • 理論的自律性と実践的自律性の概念的区別を用いることで、社会システムに組み込まれたAIロボットのデザインをめぐる問題と解決の指針として、メディア・アプローチを採用し、双方の関係性のモデルを構築しました。
AIロボットの社会実装のための倫理的・法的・社会的課題(ELSI)研究/研究の主要課題と成果

3. 今後の展開

今後の3つの課題に対するアプローチを記載します。

  1. 実践的課題:人との相互作用の観点からAIロボットの現状分析を行い、大阪万博でのAIRECデモンストレーションに反映させる実践的方策を作成します。
  2. 法的課題:AIロボットに支援されながら意思決定する際の個人の自由や自律性を確保する方法を検討し、適切な法規制や、ガイドラインの方向性を提示します。
  3. 理論的課題:西洋中心主義的な人間理解を再考し、2050年にふさわしい人間の善き生を助けるAIロボットとの関係について、オルタナティブな価値観を提示します。