中村活性炭素クラスタープロジェクト

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研究総括 中村 栄一
(東京大学 大学院理学系研究科 教授)
研究期間:2004年11月~2009年10月

 

「化学の力によって炭素に内在する性質を引き出し、新しい性質を付与する」という考え方を基本におき、化学機能,物性機能,生物機能などを付加した「活性炭素クラスター」化合物群を創出するとともに、産業に役立つ技術基盤を築くことを目指しました。

高分解能電子顕微鏡(TEM)を用いた研究では、「有機分子の動き」観察に成功し、分子同士の反応における様子を観察できることを実証しました。また、光電変換機能、発光機能などを有する有機太陽電池や有機EL素子として有用な新規化合物群の創出に成功しました。さらに、電子供与体/電子受容体のナノ階層構造をデザインするという合目的的な設計指針を提案し、新規フラーレン誘導体を用いて有機薄膜太陽電池の高効率化を実現しました。このほか、パネル写真展やビデオの受賞など、中高校生や一般の人々に科学の面白さを伝える活動においても顕著な成果を挙げてきました。

現在、これらの成果を基盤とした実用化研究「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」(JST)がスタートしています。

研究成果集

A: ナノ構造解析グループ

分子の姿や動きを見ることは科学者の長年の夢でありました。本グループでは、有機小分子の構造を高分解能電子顕微鏡によって観察する実験手法、およびそのために必要と考えられる機能を持った電子顕微鏡を開発することを目的として研究を開始しました。

東大や産総研の研究グループと共同して、観察対象となる有機分子を合目的に設計・合成して研究を進めたところ、研究開始1年余で、「有機分子の動き」の 観察に世界で初めて成功しました。この成果は、「電子顕微鏡では個別有機分子の観察は困難である」という常識を覆すもので、カーボンナノチューブに単分子 を固定して観察する手法の開発により、分子が直接観察できることを実証しました。また、アルキル鎖、アミド結合、π共役縮合環といった有機分子の基本骨格 を直接可視化することや、有機分子が実時間で構造変化する様子を捉えることにも成功しました。

さらに、フラーレンの化学的相互作用の単分子レベルでの観察に成功し、これまで科学者が知りたかった分子どうしの反応における原子の組み替えの様子を電 子顕微鏡で観察できる事を初めて実証しました。今後、ナノチューブの内側や外側の空間を利用した「有機分子の動的構造解析」が、化学反応,生体分子の相互 作用などに関する学術研究における新しい手段として発展するものと期待できます。

「有機分子の動き」の観察

  1. “Imaging Single Molecules in Motion”, M. Koshino, T. Tanaka, N. Solin, K. Suenaga, H. Isobe, and E. Nakamura,Science, 316, 853 (2007).
  2. “Imaging of conformational changes of biotinylated triamide molecules covalently bonded
    to a carbon nanotube surface”, E. Nakamura, M. Koshino, T. Tanaka, Y. Niimi, K. Harano, Y. Nakamura, and H. Isobe, J. Amer. Chem. Soc., 130, 7808-7809 (2008).
  3. “Imaging the Passage of a Single hydrocarbon Chain Through a Nanopore”, M. Koshino, N. Solin, T. Tanaka, H. Isobe, and E. Nakamura, Nature Nanotech., 3, 595-597 (2008).
  4. “Analysis of the Reactivity and Selectivity of Fullerene Dimerisation Reactions at the atomic Level”, M. Koshino, Y. Niimi, E. Nakamura , H. Kataura, T. Okazaki, K. Suenaga, and S. Iijima, Nature Chemistry, 2, 117-124, (2010).

 

B: 機能素子グループ

本グループでは、フラーレンの世界に精密有機および無機合成を導入して、新しい分子や新しい形式の分子集合体を創出し、従来の有機分子には知られていなかった物性機能を引き出すことを目的としました。

精密有機合成化学、有機金属化学、錯体化学を基盤に、数多くの新しい機能をもつ新規フラーレン誘導体を合成することに成功しました。

新規なフラーレン誘導体を得るための新規反応の開発から行い、高効率反応、一段階多重付加反応、複数の官能基を導入する反応、安価な試薬を用いる反応など、学術的にも意義深く、実用に耐える新規反応を数多く開発し、フラーレンの化学を先導する成果をあげてきました。

また、新規環状π電子共役系の構築による新規発光材料、新しい概念に基づくフラーレン含有液晶、ナノ金属炭素複合材料、フラーレン金属錯体を用いたスイッチング光電流発生素子などへの応用研究を行い、機能物質化学の発展に資する成果をあげました。

フラーレンの光・電子機能や分子集合体の高次集積構造の精密構築に関する研究は、有機薄膜太陽電池に用いる新規フラーレン誘導体、ビスシリルメチルフ ラーレン(SIMEF)の開発に結びつき、エネルギー変換効率5.4%を示すp-i-n三層構造を有する低分子塗布型有機薄膜太陽電池の開発に大きく貢献 しました。

フラーレン誘導体の機能と応用

  1. “Photocurrent-Generating Properties of Organometallic Fullerene Molecules on an Electrode”, Y. Matsuo, K. Kanaizuka, K. Matsuo, Yu-Wu Zhong, T. Nakae, and E. Nakamura, J. Am. Chem. Soc., 130, 5016-5017 (2008).
  2. “Regioselective Synthesis of 1,4-Di(organo)[60]fullerenes through DMF-assisted Mono-addition of Grignard Reagents and Subsequent Alkylation Reaction”, Y. Matsuo, A. Iwashita, Y. Abe, C.Z.-Li, K. Matsuo, M. Hashiguchi, and E. Nakamura, J. Am. Chem. Soc., 130, 15429-15436 (2008).
  3. “Efficient Bidirectional Photocurrent Generation by Self-assembled Monolayer of Penta(aryl)[60]fullerene Phosphonic Acid”, A. Sakamoto, Y. Matsuo, K. Matsuo, and E. Nakamura, Chem. Asian J., 4, 1208-1212 (2009).
  4. “Luminescent Bow-Tie-Shaped Decaaryl[60]fullerene Mesogens”, C.-Z. Li, Y. Matsuo, and E. Nakamura, J. Am. Chem. Soc., 131, 17058-17059 (2009).

 

C: デバイス創製グループ

本グループは、フラーレン誘導体を初めとする新規化合物に特有な光電変換機能、配向性、化学的安定性などに着目し、デバイス応用に必要な物性を明らかにするとともに、有機薄膜太陽電池及び有機EL素子への応用を検討することを目的としました。

有機薄膜太陽電池の開発では、低分子材料であるテトラベンゾポルフィリン(BP)分子は可溶性前駆体から熱変換により結晶化させることができ、結晶化後 に不溶化するという特徴を生かして、p-i-n型三層構造を構築しました。LUMO準位と熱物性を分子設計により制御した新規フラーレン誘導体 (SIMEF)を用いることで、5%を越える高効率有機薄膜太陽電池を塗布プロセスで実現しています。

実際のp-i-n構造のSEM観察により、平板なp-層BPの上にカラム状のi-層を形成するBPが結晶成長しているユニークな剣山構造を明らかにしました。

有機EL素子に関しては、高い正孔移動度を有する一連の新規ベンゾジフラン誘導体(CZBDF)の分子骨格にカルバゾール基を導入することにより、正孔 輸送性に加えて電子輸送性を付与することができ、純粋な青色蛍光を有する画期的な両極性化合物を創出することに成功しました。

これらの成果を基盤とした実用化研究「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」(JSTイノベーション創出推進事業)がスタートし、実用化へ向けて大きな一歩を踏み出しています。

フラーレン誘導体のデバイス応用

  1. “Culumnar Structure in Bulk Heterojunction in Solution-Processable Three-Layered p-i-n Organic Photovoltaic Devices Using Tetrabenzoporphyrin Precursor and Silylmethyl [60]fullerene”, Y. Matsuo, Y. Sato, T. Niinomi, I. Soga, H. Tanaka, and E. Nakamura, J. Am. Chem. Soc., 131, 16048-16050 (2009).
  2. “Penta(organo)[60]fullerenes as Acceptors for Organic Photovoltaic Cells”, T. Niinomi, Y. Matsuo, M. Hashiguchi, Y. Sato, and E. Nakamura, J. Materials Chem., 19, 5804-5811 (2009).
  3. “Tetraaryl-substituted Benzo[1,2-b:4,5-b’]dipyrroles: Synthesis, Properties, and Applications to Hole-injection Materials in OLED Devices”, H. Tsuji, Y. Yokoi, C. Mitsui, L. Ilies, Y. Sato and E. Nakamura, Chem. Asian J., 4, 655-657 (2009) .
  4. “Bis(carbazolyl)benzodifuran: A High Mobility Ambipolar Material for Homojunction Organic Light-Emitting Diode Devices”, H. Tsuji, C. Mitsui, Y. Sato and E. Nakamura, Adv. Mater. , 21, 3776-3779 (2009).

 

研究成果

評価・追跡調査

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