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- 近藤誘導分化プロジェクト
総括責任者 近藤 寿人
(大阪大学 大学院生命機能研究科 教授)
研究期間:1998年10月~2003年9月
1個の受精卵から体ができるまでの発生のプロセスは、細胞間の相互作用がくり返され、そのたびに新しい分化が誘導されて次の相互作用をひきおこすという連綿としたものであり、また柔軟性に富んだものです。
細胞分化とその誘導の分子機構について、それらの基本的なモチーフと変容、そのモチーフをちりばめるプロセス全体の骨格を明らかにする研究を展開しました。メダカなどの小型魚を用いて発生にかかわる多彩な突然変異体を沢山つくり、それらを手がかりとして個々の分子機構とプロセスの全容を明らかにする挑戦です。
分化機構の主要モチーフであるWnt蛋白質を介した細胞間シグナルについては、分子生合成から分化制御に至る一貫した研究を実施し、また発生の柔軟な性質を反映する組織再生機構の研究では、トランスジェニックイモリなどを使った新しい研究を行いました。
これらの研究成果は特に脳の領域形成という具体的な課題の中に結実して、新しい発生像をもたらしています。この発生像は今後私達の健康の諸問題にも貢献することを期待します。メダカという日本で育まれた実験動物を駆使して新たな研究を展開できたのも、ERATOのプロジェクトに相応しいものでした。
脊椎動物の胚発生の基本機構を解明するために、世界で初めてメダカ突然変異体の網羅的な大規模作製と選別を行った。形態的な変化を伴うもののほか、生殖細胞の移動や神経走行にかかわる突然変異体も得た。胚発生にかかわる300の突然変異体の中には脳領域の形成にかかわるものが豊富で、ゼブラフィッシュの突然変異体では見られなかったものも多く、研究対象としての貴重なコレクションが得られた。
メダカの突然変異体を駆使して脳の領域化の機構を研究した。突然変異体群を相補性によって帰属する遺伝子に分類し、また表現型を脳の特異的な領域の成立にかかわるもの、領域間の境界の確立にかかわるものなどに分類して、脳の領域化についてのモデルを構築するとともに、主要な突然変異体の遺伝子座の確定と対応遺伝子のクローニングを実施した。
突然変異体を駆使した研究に基盤を与えるために、メダカ胚の個別の細胞を生体蛍光標識し、それらの細胞の胚発生にともなった変遷を連続追跡し、細胞群としての領域化過程を解明した。またメダカの脳神経核と神経束の走行・投射について詳細を明らかにした。
ゼブラフィッシュでは、母性効果突然変異体、尾芽の形成に関する突然変異体などの新しい突然変異体を単離し、初期卵割の調節や体幹部の形成について新しい情報を得た。メダカとゼブラフィッシュの突然変異体は総じて、その種類においても生物学的特性においても相補う。これら2種の小型魚の突然変異体から脊椎動物の発生の全体像が得られるであろう。
脳の発生に深くかかわるWntシグナル分子について生合成から分化制御機構に至までの一貫した研究を実施した。Wnt蛋白質は分泌前に脂質修飾を受けて活性をもつこと、神経系の増殖因子であると見なされてきたWnt蛋白質が、前脳の神経幹細胞に対してはニューロン分化促進因子として作用し、感覚系では分化ニューロンのタイプを直接的に制御することなど、通説を覆す大きな発見をした。
イモリをはじめとする両生類で顕著な水晶体再生を例として、また新たに開発したトランスジェニックイモリ・アフリカツメガエル幼生を駆使して、発生過程と再生過程における遺伝子作動を比較した。再生開始機構以外では、同一の制御機構が働いていることを明らかにした。また水晶体再生の開始にFGFファミリー因子が関与することを示した。
▲絶え間ない組織間の相互誘導によって新しい細胞が分化し、発生が進行する。相互作用や細胞分化は多種多様であるが、それらは、相互作用に関わるシグナル物質の種類によっていくつかの基本パターンに分類される(図では、赤系、青系、緑系の3種類の基本パターンとして模式的に示した)。アルファベットは異なった組織の生成を概念的に表している。A-Fには、胃の粘膜、肝臓の実質細胞、膵臓の分泌細胞などが、G-Lには、心臓、筋肉、骨格などが、M-Rには、脳、脊髄、皮膚、水晶体、下垂体などが相当する。