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- 河内微小流動プロジェクト
総括責任者 河内 啓二
(東京大学 先端科学技術センター 教授)
研究期間:1992年10月~1997年9月
微小な生物の飛行や泳ぎのメカニズムの解明を行いました。これらの運動の多くは、運動器官がその目的だけに進化しているため、その形状や作動原理を解明しやすいのです。
メートルのサイズの生物や機械は、翼や鰭の断面が美しい流線形をしていて、揚力を利用して運動しています。ミリメートルのサイズの昆虫では、非常に薄くギザギザで反りのついた翼断面が使われ、この形状の翼の性能がこのサイズでは優れていることを確かめました。また、はばたき運動特有の急加減速運動と後流中の渦のふるまいを利用して、大きな流体力が発生できます。さらに小さなサイズでは、揚力(翼)は利用せず、パラシュートのように抗力を利用して運動しています。このように生物はそのサイズにふさわしい運動メカニズムを採用し、与えられた環境を上手に利用していることが明らかになりました。将来開発が期待されている微小な機械類の設計にも、この視点が重要であると思います。
流体の運動を記述する運動方程式をコンピュータで解き、昆虫などの微小生物の運動メカニズムの解明を進めた。これにより3次元非定常流体力発生のメカニズムが可能となった。
世界で初めて昆虫の脳内の神経活動の可視化に成功した。これにより、神経活動の同時多点計測が可能となり、昆虫などの微小生物の運動神経ネットワークの解明に向け大きく前進した。
昆虫サイズの翼型で、翼厚、反り、ギザギザ形状の各パラメータが、翼性能の与える影響を定量的に明らかにした。また、レイノルズ数10の領域以下のサイズでは、翼ではなく、抗力を利用する方が有効であることを見いだした。
はばたき運動の非定常性によって、定常値の2倍以上の流体力が発生することを見い出した。翼の加速度運動、安定な翼の前縁渦、翼と後流中の渦の干渉がそれぞれ重要なメカニズムであることを確かめた。
ミリメートルサイズの生物を対象に、流速の多点同時計測にPIV法、器官の形状・運動・流体力計測にレーザーを用いた各種新計測法、構造解析に有限要素法、筋肉中の酸素分圧の測定に微小電極法等を確立し、その有効性を示した。
翼のサイズの下限領域に、支柱と多数の毛で出来た毛状翼が存在するが、アザミウマの翼を用いて、毛状翼も通常の膜翼と同様に揚力を用いて飛行すること、また膜翼と比べて長所と短所を持つことを明らかにした。
▲運動器官の大きさとレイノルズ数との関係
▲トンボの翼周りの流れ