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- 井上光不斉反応プロジェクト
総括責任者 井上 佳久
(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
研究期間:1996年10月~2001年9月
医薬などキラル化合物のニーズの高まりを背景に、光を用いる新規不斉合成法の開発と、光不斉反応を制御するための指導原理の解明を目指した。
その結果、円偏光のみを物理的不斉源とする絶対不斉合成ではBonnerらによる「宇宙におけるホモキラリティー創成仮説」を支持する知見を得、また、多光子過程を利用した絶対不斉合成にも成功した。光不斉増殖系では、「光不斉反応の多次元制御」による光学収率の飛躍的向上(従来の7%から100%を達成)と「光不斉反応のエントロピー制御」という新概念を提案した。超分子を用いる光不斉合成でも、最高41%の光学収率を得るとともに、キラル化合物の絶対配置の新決定法の開発に成功した。
これらの成果は、従来のエンタルピー化学から、弱い相互作用を制御するエントロピー化学への発展とその応用に結びつくと期待される。
生命進化上の謎である生体物質のホモキラリティーの起源の解明を目指し、円偏光シンクロトロン放射光を用いた脂肪族アミノ酸の光照射を行い、酸性条件下でのみNorrish type II反応を経る絶対不斉合成が可能なことを明らかにした。
不斉光増感反応の生成物の光学収率とキラリティーが温度・圧力・溶媒・濃度などのエントロピー因子で制御可能なことを実証し、これら諸因子による多次元的制御により、初めて100%の光学収率を得ることに成功した。
アキラルな亜鉛ポルフィリン2量体に光学活性化合物が配位するとキラル構造をとり、円二色スペクトルで分裂型のコットン効果を示すことを見出した。この現象を利用する光学活性アルコールやアミンの新しい絶対配置決定法を開発した。
新しい可逆的光異性化を利用した絶対不斉合成系を見出し、原系・生成系双方での鏡像体富化を実現した。さらに、この系で円偏光2光子励起による絶対不斉合成にも成功した。これらは新しい光記録材料への展開が可能である。
弱い分子内結合ネットワークを利用したキラルな八面体遷移金属錯体の新しい不斉合成法を開発し、それを利用してキラルな新規ルテニウム錯体を多数合成した。これらは、不斉光反応触媒やフォトクロミック材料への応用が期待される。
シクロデキストリンや血清アルブミンをキラルテンプレート(鋳型)とするアントラセンカルボン酸の光環化二量化で41%、DNAによるシクロオクテンの光増感不斉異性化で29%と超分子光不斉反応として最高の鏡像体過剰率を達成した。
▲絶対不斉合成の概念図
▲シクロオクテン系における生成物のエナンチオマー過剰率(ee)と温度・圧力の三次元関係図