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- 青野原子制御表面プロジェクト
総括責任者 青野 正和
(理化学研究所 主任研究員)
研究期間:1989年10月~1994年9月
原子を一個の単位で操作する様々な技術の開発、その基本となる物質機構の解明、そしてそれらの応用について研究を行いました。
これらの研究により、走査トンネル顕微鏡(STM) の探針を用いて、原子一個を「引き抜く」、「与える」ための技術とそれらをリアルタイムで検出する方法を確立し、STM探針による単原子操作の物理機構を理論と実験の両面から解明しました。また、STM像の理論計算法を確立し、シミュレーションによる安定原子配列の理論的予測を可能にしました。さらに、STM探針先端における化学反応を利用したり、探針先端の構造と組成を制御することによって試料表面に異種原子を一個ずつ連続供給する方法も開発しました。その他、有機分子を構造単位として持ち、室温で動作するシングル・エレクトロン・トランジスターを可能にする基礎実験に成功するなど、新規な人工物質、デバイスの実現に手掛かりを得ました。
STM の W 探針と Si(111)-7×7 表面の間にパルス電圧をかけて Si の単原子を表面から除去したり、表面に付与する方法を開発し、原子単位での新物質構造の創製の可能性を示した。
第一原理からの理論計算により表面局所電子状態、さらにトンネル電流分布を求め、それから STM 像の予測をする方法を確立すると共に、シミュレーションによる安定原子配列の理論的予測を可能にした。
STM 探針先端における化学反応を利用した単原子の連続供給、例えば白金探針と水素との化学反応を利用して、シリコン結晶表面に水素原子を連続供給することに成功した。
超高真空中における STM 探針と Si(111)-7×7, Si(001)-2×1 表面の間に正または負電圧をかけた時の Si 原子の除去が電界蒸発によることを実験的、理論的に明らかにした。
STM による単原子の除去及び供給を試料と探針との間隔をモニターする電気信号によってリアルタイムで検出する方法を確立した。また、ナノメーター領域の電気計測を行う方法を開発した
有機分子を構造単位としてもつトンネル二重結合が、室温で単一電子チャージング現象を示すことを確認した。これを利用して室温で動作するシングル・エレクトロン・トランジスターを作成することができる。
▲Siの表面において、あらかじめ定めたSi原子を「引き抜いた」[(a)-(b)]、Si原子を「与えた」[(c)-(d)]、Si原子を「動かした」[(e)-(f)}例。
▲探針によって試料から原子が引き抜かれる物理機構の膜式図。
▲上図の方法を用いてSiの表面に描かれた文字[(a)]および極微小電子デバイスを想定したパターン[(b)と(c)]。(a)、(b)、(c)の横幅はそれぞれ100nm、40nm、40nm。