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コラム

<6> ST&I Policy、SATREPSそしてFE

プログラムアドバイザー  安岡 善文

プログラムアドバイザー  安岡 善文

1999年、国連教育科学文化機関(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)の主催で開催された「世界科学会議」においてブダペスト宣言(「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」)が採択され、それまでの科学の役割として明示されていた「知識のための科学」に加え「社会のための科学・社会における科学」が追加された。それが直接のきっかけとなったかどうかは別として、社会の期待に応えるための科学技術を推進する動きが加速しているように思える。

タイトルに挙げた3つは私自身が関係する研究プログラムの英語頭文字をとった略語であるが、ST&I Policyは「科学技術イノベーション政策(Science, Technology and Innovation Policy)」、SATREPSは「地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)」プログラム、そしてFEは「フューチャー・アース(Future Earth)」プログラムの略称である。3つのプログラムの共通点は、科学技術を如何に社会的課題の解決そして社会実装に結びつけるか、を指向している点である。ST&I Policy は本プラグラム自身が対象とするもので、ここで説明の必要は無いであろう。社会に働きかけるための接点である「政策」に科学技術を活用するためのプログラムである。

SATREPSは、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)の連携の下で、科学技術外交推進の一環として2008年より開始された。日本と海外の相手国研究者が共同して

・日本で開発された科学技術を発展させるとともに

・その科学技術を相手国に社会実装することにより地球規模での課題解決を目指す

ことを目的としている。環境、エネルギー、生物資源、防災、感染症の5分野で研究が開始され、現在、アジア、アフリカ、南アメリカの約40ヶ国において80近いプロジェクトが展開されている。新たな科学技術の展開のみならず、その成果を相手国へ社会実装することにより課題解決を図ることが指向されており、相手国の行政機関や執行機関が研究計画の段階からメンバーに組み込まれることが特徴の一つといえよう。

FEは、これから開始される予定の国際プログラムで、こちらは2国間というよりはより広い国際的枠組みを指向している。世界気候研究計画(World Climate Research Programme:WCRP)、地球圏/生物圏国際共同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme:IGBP)、生物多様性科学国際共同研究計画(DIVERSITAS)、地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画(The International Human Dimension Programme on Global Environmental Change:IHDP)の4プログラムを改組し、社会との繋がりをより強化して、地球規模での課題に取り組むことを目指している。上記の4つの国際プログラムからは気候変動や生物多様性減少に関する多くの価値ある論文が発表されてきた。このこと自身は科学コミュニティでは高く評価されている。しかしながら、現実の課題解決には至っていない、何が足りなかったのか、どうすれば課題の解決に向けて科学技術の力を集約化していくことができるのか、これが4プログラムをFEとして組み替えて開始することになった動機といえよう。新たな概念としてtrans-disciplinary(まだ正式な訳語は決まっていない)が挙げられ、「学界を越えて社会と繋がる」ことが指向されている。現在、ICSUやファンディング機関の集まりであるベルモント・フォーラム(Belmont Forum)が中心となって計画を進めており、日本では学術会議・JST、また関係する研究機関を中心に、国際事務局の誘致を含めてプログラム推進方策の検討が開始された。

これら社会的課題を解決するための科学技術プログラムが国内外においてほぼ同時期に開始されたことは決して偶然ではない。「社会のための科学・社会における科学」を実践する必要に迫られているという現実があるからであろう。

ここで一点注意しなければならないことがある。社会的課題を解決するためにも基礎研究が重要だ、ということである。気候変動や地球温暖化に関する最初の論文が発表されたのは1859年といわれている。生物多様性減少に関係する進化論がダーウインによって発表されたのも同じ1859年である。以降の100年近く、関連する分野の研究の多くは、あくまで研究者の好奇心から行われていたのではないだろうか。これらの課題が社会的な課題として意識され始めたのはここ50年ぐらいではないだろうか。しかしながら、地球温暖化や生物多様性減少といった今日の社会的課題の解決には当初の100年間の研究成果が必須であったことはいうまでもない。

研究を提案し実施する研究者も、研究を評価しアドバイスする支援者もともに、「知識のための科学」と「社会のための科学・社会における科学」の双方を追求しなければならない。力量が問われる。

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