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コラム

<4> インパクトの大きさに投資する

RISTEX シニアフェロー  奥和田 久美

RISTEX シニアフェロー  奥和田 久美

最近ではNature のような科学誌もオンラインで必要な文献だけにアクセスするほうが一般的になり、雑誌を手に取るような形で読むような方は少数派になったのだろうが、もし、2013年10月17日号Nature誌の表紙をご覧になった方がいれば、「これがNature?」と驚かれたのではないかと思う(下図参照)。この号は、研究インパクトに関する特集号であり、「(Nature, Science, Cellなどで指数が高い)インパクトファクター(IF)は、インパクトの意味をミスリードしている」とか「研究グラント側は、広い意味の科学的・社会的インパクトを評価しはじめた」とか、そういった記事が並んでいる。実際、米国ではNSFが研究評価基準を「知的メリット」と「より広いインパクト」を等しく評価するように全面改訂したほか、NIHなどでも成果のインパクトに注目したファンドが始まっている。

最近は日本でも、産業界などから「DARPAモデルの研究ファンドを日本にも」という要請があり、総合科学技術会議では「ImPACT」という研究支援の検討を始めている。DARPAはご存じの方も多いと思うが、米国国防総省の科学技術開発費の1/4程度を使って、国防高等研究計画局が「固定観念に囚われない自由度の高い研究」への投資しているファンドのことである。DARPA予算は米国連邦政府の科学技術予算の約半分を占めており、規模的にも対象範囲の広さの点でも存在感が大きい。もちろん国防総省下のファンドということで先端技術の軍事応用が含まれるという面もあるのだが、注目されているのはそういう側面ではなく、DARPAのファンドモデルの以下のようなユニークさと数々の大きな成功例であり、それらが「日本のファンドに決定的に欠けているのではないか?」という点が議論されているのである。

 ① インパクトの大きい研究に投資する
基本的に「ハイリスクだがインパクトが大きい」とみなされる研究を支援する。「インパクトが大きい」ということは、英文ではHigh-pay offまたはHigh-rewardと表現される(DARPAではHigh-pay off、NIHではHigh-rewardが使われている。NSFが好んで使うTransformativeにもやや近いニュアンスがある)。すなわち、「できるかどうかわからないけれど、できたらすごい」という研究を支援する。

 ② プロジェクトマネージャーに全部任せる
一人のプロジェクトマネージャー(PM)に全部任せる。任されたほうは、他職は休職してでも期間中はプロジェクトに専念する。結果的にうまくいかなくても、PMを務めあげたこと自体が、その後のキャリアにおいて高く評価される。

ちなみに、日本の科学者の方々がよく「ハイリスク研究に支援を」と言われるのを聞くのだが、米国の研究支援では「ハイリスク」という言葉が単独で使われているケースを見かけない。特に、DARPAモデルでは研究の成功確率が低いことは、研究投資の判断材料にはならない。チャレンジする価値は、狙えるインパクトの大きさのほうにあるのだから。目標が達成できたとしてもそのインパクトが小さいと見なされる研究は、成功確率が高くてもチャレンジする価値が無いし、ましてやインパクトが大きいか小さいか判断できない研究に対して、成功するかしないかを考える必要すらない、というのが、このモデルの前提である。

また、蛇足ながら、日本でインパクトを「波及効果」と訳している場合があるが、これを「目標以外の応用も生まれうる」というような意味で捉えるのはあまり適当ではない。もちろん、そういう意味も含有されてはいるが、DARPAモデルで真に目指す「波及効果」とは、「達成した成果が、提案者の意図をはるかに超える大きな影響力を、社会や後の科学に対して与える」ということであろう。



Reprinted by permission from Macmillan
Publishers Ltd.
Nature Vol.502, 17 October 2013,
copyright 2013
 

Reprinted by permission from Macmillan
Publishers Ltd.
Nature Vol.502, p287, 17 October 2013,
copyright 2013
 
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