健康帝国ナチス
ロバート・N・プロクター
宮崎尊/訳
草思社 2003年
アメリカの科学史家である著者は、ナチス・ドイツの医学について、ユダヤ人虐殺への協力や強制収容所における人体実験、安楽死や断種手術などのしばしば糾弾の対象となる側面ではなく、がん研究の推進をはじめ、たばこの規制・禁煙運動、有機農法の推奨などによる食品安全の追求など食生活改善運動などを進めた医学・保健政策を描いている。両者は矛盾したものとしてあったわけではなく、一言で言えば、ナチス社会は「健康を義務とする社会」として捉えられるのである。「社会のための科学技術」という時、どういう意味で「社会のため」になるのかが問われると同時に、その「社会」とはいかなる社会のことを意味するのかが問われるのではないだろうか。
(柿原 泰:東京海洋大学海洋科学部海洋政策文化学科准教授)