昭和・戦争・失敗の本質
半藤一利
新講社 2009年
半藤の多数の著書と同じく、「帝国陸海軍―天皇制政府」の組織論が主題であるが、兵器関連の科学技術問題もまれに顔を出す。ゼロ戦とグラマンのコントラストもそれである。ゼロ戦とグラマンは設計思想が根本的に異なった。操縦性、防御性能、航続距離、銃器の破壊力などである。ゼロ戦の20ミリ機関砲は発射持続が短く、命中精度も低かったので高度に熟練した飛行士による、高い操縦技術でのみ可能な接近戦でしか効果を発揮せず、グラマンは短期養成の初心飛行士でも操縦が容易で、高い操縦技術を要さない遠くからの12.7ミリ機銃集中連続砲火で防御能力のないゼロ戦を叩き落とせた。こうした設計思想の違いが日米航空戦の勝敗を分けた。ミッドウェーがその転機である。これらの詳細のすべてが本書に記載されているわけではないので、読者は類書に視野を広げる必要があるが、社会―科学技術開発にかかわる思想の文化による違いとその影響を再考するに示唆的である。ゼロ戦グラマン問題の日米社会比較技術論については、『零戦 アメリカ人はどう見たか』(辻俊彦、2007年、芸立出版)から詳しく知る材料が得られる。
(大井 学:金沢大学人間社会研究域学校教育系 教授)