人類が新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) パンデミックに直面した2020年。安全、自由、信頼、協調... さまざまな価値が揺らぐ今、これからの科学技術と人・社会との関係をどのように見定めるのか。

  • 濵口 道成  国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 理事長
  • 唐沢 かおり RInCAプログラム総括 / 東京大学 大学院人文社会系研究科 教授
  • 小林 傳司  JST社会技術研究開発センター (RISTEX) センター長 / 大阪大学 名誉教授

科学技術と人・社会の関係の変容

科学技術と人・社会の「今」を、どのように見つめていますか。

濵口道成(以下、濵口): 科学は、もともと19世紀ごろに、非常に素朴な人間の疑問から発展してきました。宇宙とは何か、人間とは何かという、シンプルな好奇心から科学を探究し、さまざまな技術を生み出すことで、人類社会は発展してきたのです。しかし、20世紀末から21世紀にかけて見えてきたのは、科学技術の光の部分とともに、影の部分があるということでした。
いま私たちが直面している最大の課題は、人類そのものの存続性が問われるようになってきた、というものです。人類社会が発展しすぎたために、地球全体が不安定になっています。温暖化や食料危機の問題があり、ハリケーンや台風が巨大化し、未曽有の大災害が頻発する状態にあります。新興感染症のパンデミックも起こっている。社会全体がそういった不安を抱いている中、科学技術も、キュリオシティ・ドリブン、つまり純粋な好奇心のみに基づく作業から脱却していかなければならない。研究と同時並行で、社会に対する責任や、研究の進む先に何があるのかについて考える必要が出てきています。
また、今年は、9.11米国同時多発テロから20年、東日本大震災からちょうど10年です。人間自体が起こすリスクも従来の想定を超えてきているものがありますし、科学技術の影の部分をどう考えていくかという問題に、研究開発と並行して取り組まなければなりません。
ウェル・ビーイング、すなわち一人一人の幸せが実現できるような社会にしていくために、どのような科学技術を適用・応用すべきか。そうした観点で考えることが必要な時代になってきたと感じています。

唐沢かおり(以下、唐沢): 科学技術自体の変容も大きいと思います。とくに、新興科学技術(エマージング・テクノロジー)は加速度的に進歩していて、研究開発から社会実装までのスピードが非常に速い。また、ITやAI、バイオテクノロジーなどで顕著ですが、科学技術による影響が圧倒的なインパクトをもって、私たちのものの見方すら変えてしまうということが現実に起こっています。それとともに、これらの科学技術が萌芽的であるうちは、人や社会に与える影響そのものが不確実であったり、多義的であったりして、リスクやベネフィットの予見が難しいという側面も持っています。
科学技術は、私たちの生活を豊かにしてきましたが、一方でさまざまな課題も生んできました。そして今、SDGsのようなグランドチャレンジに貢献することも求められています。
2020(令和2)年度、JST社会技術研究開発センター(RISTEX)に新設された「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム」(RInCA)は、こうした背景をもとに、科学技術が人や社会と調和しながら、持続的に新たな価値を創出する社会の実現を目指しています。ELSI ―倫理的・法制度的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Implications/Issues)― に包括的・実践的に取り組む、科学技術イノベーション志向の研究開発プログラムとして推進しています。

社会技術が取り組む「社会のための科学」

社会技術研究開発の歩みについて、教えてください。

小林傳司(以下、小林): RISTEXは、1999年の世界科学会議が発表したブダペスト宣言において、21世紀の科学のあり方として提案された「社会の中の科学・社会のための科学」(Science in/for Society)というコンセプトの強い影響下で設立された組織です。英語では"Research Institute of Science and Technology for Society"と表記します。
この「社会のための科学」をどう考えるかというのが、20年間のRISTEXの苦労の歴史だと思います。社会的課題を解決するというのはわかりやすいテーマなのですが、そのために既存の科学技術をただ適用するというやり方で本当にいいのだろうかとずっと悩んできました。
RISTEXで取り組んできた「社会技術」研究開発とは、社会の課題と科学者の思いがインタラクションを起こす仕掛けをつくることによって、社会の側の科学に対する見方が変わり、科学の側の社会への意識も変わるという、双方の進化・深化を促すことにトライしてきたのだと思います。つまり、研究の側から言えば、社会とインタラクションすることで、新しい課題を発見するとともに、新しい研究スタイルを模索する、ということです。近年「トランス・ディシプリナリー」と呼ばれている研究スタイルを、当時から実践してきたわけです。

濵口: 米国のNSFでは、特定の課題に関して、複数の領域を超えた専門家が協働して研究にあたって解決策を具体化するという、「コンバージェンス」という統合的研究アプローチの研究支援策が始まっていますね。また、EUでは今年から、Horizon Europeというフレームワークプログラムがスタートします。全体で10兆円という規模で、その半分が社会課題の解決に向けられています。
こうした動向を見るに、現在の科学技術研究は、課題を解決するためにどう貢献するのか、という方向に向かっているように思います。その際に、どのような課題があるかということを、しっかりと分析して提示するのが、人文・社会科学の役割です。個別の技術分野におけるピンポイントの分析では限界があります。逆に言うと、人文・社会科学と自然科学が協働しないと解決できないような問題が増えてきているのです。

唐沢: おっしゃるとおりですね。また、課題解決に向けた議論は、科学研究や技術開発に携わる人たちだけではなく、研究開発の初期から、多様なステークホルダー間の対話など共創的な営みに基づく必要があります。経済合理性、持続可能性、公平性など、時として対立する可能性があるさまざまな価値のバランスも考慮せねばならず、人や社会がどうあるべきかという、より根源的なテーマに関する議論も重要になってきます。
科学技術に関する研究開発や社会実装の場に、このような観点がいわば必然として組み込まれることが必要ではないかと感じていますが、まだ日本にはその土壌が育っていない、という問題意識があります。いくつもの実践を積み重ね、またそれに関わる人材を育成し、日本の取り組みを国際社会にも発信していきたいという思いで、RInCAプログラムを立ち上げ、運営しているところです。

科学技術基本法の改正

科学技術基本法が25年ぶりに本格的に改正され、2021年4月、「科学技術・イノベーション基本法」として施行されました。何が変わるのでしょうか。

濵口: 注目すべきは、科学技術の規定について、「『人文・社会科学(条文では「人文科学」と記載)のみに係るものを除く』という文言を除く」ことが決まったことです。これは時代の要請そのものだと思いますね。社会課題を起点に、基礎まで立ち戻りながら研究を進める、まさに総合科学を実装していかないといけない。自然科学のリアルな研究が進んでいる現場に、人文・社会科学の研究者も集って研究開発ができる環境は、重要な結節点になるのではないでしょうか。社会技術研究開発を担うRISTEXを内包し、挑戦的・革新的な技術シーズの基礎研究を推進しているJSTだからこそ、その核になり得ると考えています。

小林: 法律の名称も、「科学技術基本法」改め「科学技術・イノベーション基本法」となりましたね。そして、本法の下に振興する対象に関して、「イノベーションの創出」が柱のひとつに据えられました。つまり、科学技術の対象が人文・社会科学まで含むことになったと同時に、「イノベーション」の対象範囲も拡張され、社会全体の仕組みを考えるようになった印象を強く受けます。時代の要請に応えるような言葉遣いへと変わったということです。それは、RISTEXがやろうとしていることと非常に平仄が合っています。

本法に基づく第6期科学技術・イノベーション基本計画では、人文・社会科学の知と自然科学の知の融合による「総合知」の創出・活用が重視されています。

濵口: 日本に限らず、研究開発の世界はタコツボ的に細分化してしまっていますが、そのような研究文化を壊そうとするニーズが働き始めていますね。
ひとつは、イノベーション。たとえば車の自動運転ひとつとっても、技術的にはある程度解決されていることがほとんどですが、社会に実装するところで、正義や責任の分担をどうするのかについての、論理的整合性のある議論が必要になります。これは技術単体で扱える範囲を超える問題です。従来の、日本で言えば明治以来ずっと作ってきた法律や社会システムの中では扱いきれない問題が、次々と顕在化し始めています。もうひとつは、ITの発展が社会をものすごく変えていること。たとえば医療の現場ではよくあることですが、医者よりも、その病気にかかって長いこと闘っている患者のほうが、その病気について詳しいことがある。つまり、専門家と一般の人の境界がなくなっていくのです。専門家の役割というものが、リアルに責任を伴うかたちで問われるようになっています。
それらが日常化していく時代の中で、ELSIは単なる抽象概念ではなく、現場で求められるものになってきている。つまり、市民に向かってどう説明するのか、いま目の前にいる人たちに、科学技術に関してどのように責任をもって説明するのか、結果責任をどうするのかというところまで踏み込んで考えていかなければならない時代になってきています。社会全体の現場力が上がってくる中で、科学技術のあり方が変わってきている。この変化には、スピード感をもって応じていく必要があります。

唐沢: RInCAプログラムでは、既存の科学技術とともに新興科学技術を対象として、研究の初期段階から、ELSIに対して予見的・包括的に取り組もうとしています。また、そこから生まれる知見を、研究・技術開発の設計等に機動的・有機的にフィードバックすることを通じて、責任ある研究・イノベーションの実践的な協業モデルの開発を目指しています。そこでは、「現場」と「スピード」が重要です。責任ある研究・イノベーションというのは、RRI(Responsible Research and Innovation)と呼ばれています。
本プログラムの英語名称であるRInCAは、Responsible Innovation with Conscience and Agilityを略したものですが、RRIを、誠実に良心をもって(Conscience)、また迅速に行うこと(Agility)が重要だという認識を表したものです。

小林: ELSI/RRIは、科学技術が社会に対する感度を上げるという側面を、より強調して打ち出しています。つまり、社会実装することが科学技術にとって重要であるとしたときに、その社会というものを研究者が意識しているか、また意識するとはどういうことか、そうしたことを考えるのがELSIの視点であり、この営みを実践することがRInCAプログラムのひとつの狙いです。時代に応じ、取り組む課題や研究の分野によって、さまざまなタイプの相互作用が起こるのだろうと思いますが、それをどれだけ丁寧にフォローしていけるかが、ポイントだと思います。
また、これも指摘されて久しいのですが、日本はグローバルな枠組みづくりや標準化などの議論に参画するのが不得手で、すぐフォロワーになってしまうのです。イノベーションという文脈において、それをそろそろ変えなくてはいけない。そのためには、国際的なルールメイキングの場に出ていって、納得させる理念を伴う強いメッセージを持った議論ができるかどうかが重要です。それは、今や市場競争に勝つということだけではなく、よりよい価値を追求する社会イノベーションをも含むことなのです。
RISTEXでは、RInCAプログラムなどを通じて継続してそうしたことにも挑戦していく。やや大風呂敷を広げましたが、このような志を持っています。

「総合知」における人文・社会科学の役割

総合知の活用、そして共創による科学技術・イノベーション創出に向けた研究開発のあり方について、どのようにお考えですか。

濵口: 従来の科学技術研究のモデルでは、ステップワイズに研究・イノベーションを行おうとしますよね。基礎研究、応用研究、社会実装化、そして実装化したあとでELSIの議論をする。それではダメだと思う。最初から一緒になって、渾然一体と進まないと、本当に中身の濃い仕事にはなりません。

唐沢: そうですね。RRIでは、それを予見性(Anticipatory)、省察性(Reflective)、熟議牲・包摂性(Deliberative, Inclusive)、応答性(Responsive)といった要素で説明しています。日本では「共創」という言葉で表されるアプローチです。
RInCAプログラムでは、人文系や社会科学系の研究者が重要なプレーヤーとして参画することを期待していますし、それを実現すべく運営も進めているところです。それは、社会課題を解決していく際に、各分野が個別に取り組んでいたのでは不十分だという問題意識からです。個別分野の知を超えた総合知が求められる中で、人間とは何か、社会とは何かといったことを考えてきた人文・社会科学の果たす役割は、大きいと思っています。
とりわけ期待していることのひとつは、よりよい人や社会のあり方に関する考察の蓄積を踏まえた上で、不確実な未来を探索的に考えシナリオを描く力と、人間にとって重要な価値をはらむ諸概念を再構築する力です。新興科学技術がもたらすさまざまな結果に対応するためには、予見的な取り組みが必要であることは先に述べたとおりですが、そこでは、よりよい人や社会のあり方や、その実現がどのようなシナリオの上に成り立つか、という議論が求められます。予防的に、ディストピアに至るシナリオも考えねばならないでしょう。また、そのような議論の際には、科学技術と人、社会のあり方を考える上で重要なさまざまな概念、たとえば責任、信頼、公平性などを問い直す必要も出るでしょう。
人間や社会を研究対象としてきた人文・社会科学系が担う役割は大きいのですが、従来、とくに人文系は、科学技術の現場と連携し、ともに未来を創る議論に関わろうという志向が弱かったかもしれません。むしろ、そのような議論に対してブレーキをかけるのが人文系の役割だと考える方も多いかと思います。確かにブレーキ役も大事です。しかし、ステアリング、つまり未来を展望する議論に関わる責任を引き受けることも、求められるということだと思います。このプログラムを通して、そうした意欲をサポートすることもできればと考えています。

言説化―「言葉にすること」への挑戦

濵口: 10年前の東日本大震災では、「釡石の奇跡」と呼ばれる現象がありました。岩手県釡石市では、地震と津波によって1,000人以上の方が亡くなった中で、とある小学校では、児童・生徒のほぼ全員が自律的に避難し助かったのです。結果を分けたのは、人文・社会科学的な視点を有する研究者が現場に入って、開発・実装に取り組んできた防災教育プログラムが活きたことでした。これはまさに、RISTEXで支援してきた研究成果のひとつでもありますね。これは決して、自然科学の分析視点だけでは生まれない結果です。また、津波が来たら「てんでんこ」(てんでんばらばら)にとにかく逃げろという三陸地方の経験知は、地震や津波に常に直面しながら、長きにわたって多くの犠牲を払いつつ、生き延びてきたところから生まれています。そういった、必ずしも言葉にならない価値観や理解を培ってきた風土、文化、伝統というものがあります。災害が多発する今の時代に、それをもっと言語化して次世代につなぐということと、それをさらに自然科学の研究現場に届けて展開させることが必要です。

唐沢: 濵口先生がおっしゃった「言葉にしていく」ということは、いま、とても重要なことだと思います。RInCAプログラムでもそのことを重視し、「言説化」の活動に取り組んでいます。哲学者、法律家、実務家などで専門家チームを組んで、議論の成果をきちんと言葉に落とし込み、社会と共有していくための戦略を練ることをミッションとして活動しています。技術実装ありきではなく、「この技術をなぜ必要と考えるのか?」など、技術開発の前提自体を根源的に問い直すことにも取り組んでいます。その中で、各研究開発プロジェクトをつなぎ、普遍的な価値や望ましい社会のあり方についての議論を構築していくことも目指しています。各研究開発プロジェクトの多様性や交流も重視したダイナミックなプログラムとして運営し、人文・社会科学系が果たす役割を高め、総合知が生まれる場をつくることができればと思っています。

小林: RInCAプログラムの「言説化」の専門家チームには、外部専門家として哲学者にも入ってもらっています。先端的科学技術の現場では、なかなか交流のない専門分野ですね。彼らもはじめての試みだということで、どうなるかは未知数です。しかし彼らにも、そういう現場に参画する経験をしてもらいたい。人文・社会科学系の多くの方は、研究開発の現場で自然科学系の人たちと本気で話をするという経験がほとんどないのではないでしょうか。一方で、自然科学系の研究者も、ELSIには何となく拒否感があったり、手続き的にELSIに対応すればよいと思っていたりするような雰囲気もまだ残っているように感じます。この構造を変えるための仕掛けなんです。JST全体として取り組むべき大事な課題なんですよ。

唐沢: その意味では、RInCAプログラムに関心をもっていただいている研究者の方々は、コンシャンスな(良心をもった)方が多く、日本のポテンシャルに対する期待は大きいです。多様な研究者によるチームビルディングも大変なチャレンジですが、研究者コミュニティ以外との共創関係を築いていくことが、次なる課題ですね。ELSIに取り組む営みを責任ある研究・イノベーションのスタンダードにしていけるよう、本プログラムに参画していただく方々には、先導的な役割を果たしていただきたいと思っています。

コロナ禍の科学技術と人・社会

人類がCOVID-19に直面した2020年。世界中で、これまでの社会のあり方や価値観が、大きく揺らいでいます。

濵口: COVID-19パンデミック下の今、スピードが求められています。ワクチンひとつを見てみても、アフリカや東南アジア、南アメリカは、中国のワクチンが主流になっている。それはコストが安いからではないのです。中国のワクチンも、ヨーロッパのワクチンもコストは大体同じですが、普及・展開が速いかどうかが、決定的なファクターになっています。
しかし、なぜスピードが必要かというと、単純に利便性を高めることだけではありません。コロナ禍の現実を見つめると、我々が今立っているのは、世界全体、人類の次の社会のあり方を決定的に決める、分かれ目かもしれないからです。ヨーロッパやアメリカ的な民主社会のブリリアントなモデルが消え始めている中、数年後には、ひょっとすると民主主義は消えているかもしれない。次の人類社会をどう設計するかということのベースラインが、リアルなCOVID-19の対策において顕在化してきているのです。
たとえば、人々の行動抑制などの感染症対策は、強権的に管理するほうが効率的です。実は、これには民主主義をめぐる大きなうねりが背景にあります。イスラム社会が「アラブの春」で民主化しようとして、ことごとく失敗していきました。その結果、かなり強権的な政治体制にシフトしていった上に、今このパンデミックを経験しているわけです。COVID-19の制圧は、全体主義社会の強権的な管理のもとでしか解決できないのではないかという極端な見方さえ、現にあるのです。人類社会は今、我々がどう生きるべきか、人間の価値をどう重んじるかという点でも、ものすごく危機的な、スリリングなフェーズへ入っていると感じます。

唐沢: 今おっしゃったことは、人・社会を対象としてきた学問に対する課題でもあります。COVID-19パンデミックは、社会の特徴をあからさまにもしました。日本社会の中にある、相互監視や同調圧力などは、文化的特徴としてネットなどでも話題になっていました。ただ、そのような議論には注意が必要で、ともすると、安易なステレオタイプ的理解を生み出してしまうかもしれません。まずは、コロナ禍での人や社会のふるまいについて、きちんとした事実を残し、アーカイブ化する必要があり、そのための手法を持つ人文・社会科学系諸学門の貢献が求められています。
その上で、COVID-19が人と社会に対してもたらしたことや未来について考察を示すことになります。各領域それぞれの切り口があるかと思いますが、コロナ前とは異なる社会を模索せざるを得ない状況で、学術界、とくに人文・社会科学がどのような提言を出せるのか、そして、それを一定のスピード感のもとタイムリーに行えるのか、問われている状況だと理解しています。

小林: 次の世代に関わる長期のレンジで人類社会のことを考えるというレベルになると、科学技術と社会の関係を考える場が必要になります。日本もそういったことを普通に考えるようなカルチャーになっていかないといけません。

濵口: 初期設計の段階から、バックキャストで考えることが必要です。しかも、それをスピーディーにやらなければならない。この先、COVID-19はそう簡単に克服できないかもしれません。そうすると、人や社会にも大きな変革が起こる。身近な例でも、在宅勤務が当たり前になってくると、満員電車に揺られ毎朝早くから夜まで働くような生活が、日本人はもうできなくなるかもしれない。そうなると、生活がものすごく変わってきますね。そのような近未来でさえ、科学技術は未だ視野に入れられていないのではないでしょうか。

小林: ヨーロッパでは、コロナ禍からの復興のあり方として「グリーンリカバリー」という考えが提出されていて、ただ元の生活に戻るのではないはずだと議論していますね。何を戻すべきかを考えないといけないし、諦めるものは何かを考えないといけない。

濵口: そう。セレクションしないといけないわけです。ただ戻るのではなく、新しく創るものなのだと。目に見えない恐れに対して、日本社会として、いかにスピーディーに次のフェーズを準備できるかが重要です。その設計を皆で議論しないといけない時代に入ってきました。より望ましいかたちに近いものに設計していかなければならないし、それができるポテンシャルがあるのに、それがどういうものか形にならず、ずっともやもやしたままきている気がします。
それは、日々の実践と知の蓄積の先にしか生まれないのではないでしょうか。釡石の奇跡のように、エンパワメントによって個人や集団が判断力を持ち、恐れに対してきちんと備え、行動できる社会をつくれますよというモデルが出せるかどうかが、とても大きな意味をもっているように思うのです。

唐沢: 先ほど、スリリングなフェーズとおっしゃいましたが、私たちは今その時代に立ち会っているわけですよね。その中で、自分の学問は何ができるのか、どのような役割を果たせるのか、すべての研究者が問われていると思います。
総合知の重要さについてもお話がありましたが、たとえば、理系と文系を同じ場に置けば何かが生まれるだろうというものではなく、総合知を「創る」という意識的な努力が要求されると思います。とくにELSI/RRIの実践においては、その不断の努力が不可欠ですし、さらには、歴史的な出来事や、個人固有の経験から生まれた学び、現場に伝承される知恵などともダイナミックにつながることが必要かもしれません。RInCAプログラムの運営にあたっては、そのようなことも意識していきたいと考えています。

*当鼎談は、新型コロナウイルス感染症予防対策としてマスク着用、アクリル板設置の上行っております。写真撮影時のみ会話のない状態にてマスクを外し撮影いたしました。

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