成果概要
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子どもの虐待・抑うつ・自殺ゼロ化社会[3] センシティブイシューや当事者に配慮した指標実装技術の設計
2025年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目では、虐待・抑うつ・自殺リスク等に関わるセンシティブな生体・心理情報を、当事者や支援者に対して安心・安全かつ効果的に提示し、理解促進、心理的負荷の低減、行動変容につなげるためのヒューマンインタラクション技術の開発を進めています。医学・工学技術の発展により、ストレス、心身状態、生物学的年齢、行動傾向など、人間の内面に関わる情報を計測・推定できるようになってきた一方で、これらの情報は提示方法を誤ると、不安の増大、自己否定、回避行動、スティグマ化などを引き起こす可能性があります。そのため、本テーマでは、センシティブな個人データを「どのように測るか」だけでなく、「どのように伝え、どのように支援につなげるか」を重要な課題としています。具体的には、(1)センシティブな個人データ提示が心理・生理反応に与える影響の定量的評価、(2)生成AIを用いて「望ましい行動をとっている自分」を事前に視聴可能とするポジティブムービー生成技術、(3)オンライン・AR環境における自己像・他者像の改変提示を通じた心理的負荷低減技術、の研究を進めています。
2. これまでの主な成果
第一に、センシティブな個人データ提示時の心理・生理反応を定量的に評価するための実験プロトコルを確立しました。本研究では、「エピゲノム年齢」等のセンシティブな情報を本人に提示した際に、心理的ショック、不安、前向きな受容などがどのように生じるかを明らかにすることを目指しています。そのために右上図に示すように、従来は直接情報を患者に伝えるしかなかったところ、特性把握と整理反応計測プロセスにより、情報を伝えたときの反応を事前に予測します。特性把握には「科学への信頼度」等を含むアンケート項目を作成しました。これにより、情報提示に対して不安を示しやすい人、前向きに受け止めやすい人など、個人差を説明する要因の探索を開始しました。また、類似の説明ビデオ等を視聴している際の生理反応を計測することで、実際に情報を伝えたときの反応が予測できると考えました。初期的な実験では、概念説明映像閲覧時の皮膚電気活動反応が、その後の結果提示時の反応を予測し得る可能性が示されました。この成果は、センシティブな情報提示の心身影響を事前に見積もり、提示内容・表現・タイミングの調整の基盤となります。

第二に、生成AIを活用したパーソナルAI介入コンテンツ生成技術として、ポジティブムービー生成手法を開発しました。本技術は、本人の顔、全身、声を用いて、「望ましい行動をとっている自分」や「未知の相手と円滑に対話している自分」の映像を生成し、本番前に視聴することで、緊張や不安を軽減し、行動への動機づけを高めることを目的としています。特に、未知のカウンセラーと会う前に、「そのカウンセラーとスムーズに会話している自分」の映像を事前に視聴することで、その後の実際の対話時における不安や緊張が低減するかを検証する実験計画を具体化しました。この技術は、カウンセリング、教育、福祉、医療相談、ソーシャルスキルトレーニング等において、当事者が支援場面に入る前の心理的ハードルを下げる介入手法として期待されます。
第三に、オンライン・AR環境における自己像・他者像の提示技術を開発しました。オンライン会話では、対面会話に比べて視線、表情、顔の向きといった非言語情報が制限されるため、相手に与える印象や会話の円滑さが低下する場合があります。そこで、話し相手の顔動作をリアルタイムに認識し、対応する動作をユーザの顔映像に自動合成する自動ミラーリング技術を作成しました(下図)。また、オンライン上の加工顔と対面時の実顔との印象差を低減するため、ARを用いて加工顔から実顔へ段階的に移行させるシステムを開発しました。これらの成果は、オンライン相談や遠隔支援において、対人不安や違和感を抑え、より自然で受容しやすいコミュニケーション環境を実現するための基盤技術です。

3. 今後の展開
今後は、センシティブな個人データ提示時の心理・生理反応に関する評価実験を拡大し、個人特性や提示内容に応じた安全な情報提示方式の設計指針を整理していきます。生成AIによるポジティブムービーについて、カウンセリング、教育、福祉等の具体的な場面を対象に、視聴前後の不安、緊張、行動意欲の変化を評価し、実用化に向けた介入プロトコルを確立します。これらを統合し、当事者と支援者の双方が安心して利用できる情報提示・介入技術を発展させていきます。
(寺田 努:神戸大学)