成果概要
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子どもの虐待・抑うつ・自殺ゼロ化社会[2] 虐待・抑うつ・自殺による生体影響を可視化する指標の開発
2025年度までの進捗状況
1. 概要
被虐待歴のある子ども・若者(自殺念慮/行動歴なし・自殺念慮/行動歴あり)および対照群について、末梢試料より網羅的DNAメチル化データを取得し、私たちが若年自殺者の方の末梢試料において発見した「エピゲノムレベルの生物学的老化」の所見が、①健常な子どもに比して被虐待歴のある子ども・若者で、②さらに被虐待歴のある子ども・若者の中でも、自殺念慮/行動歴を有する群で、それぞれ有意に生じているかを検討します。また私たちが世界で初めて開発したヒト生体脳内AMPA受容体可視化陽電子断層撮影(Positron Emission Tomography: PET)用トレーサー技術(Miyazakiら, Nature Medicine 2020)を用いて、幼少期に虐待歴のある若年成人の対象者に対しAMPA-PET撮像を施行し、脳内 AMPA 受容体密度を測定します。これを同年齢の健常者のAMPA-PETデータ(構築済)と比較し、被虐待歴と自殺行動歴に関連してAMPA受容体量が変化する脳領域を特定します。

2. これまでの主な成果
被虐待歴のある子どもおよび対照群の子どもの血液試料を用いた中間解析では、健常対照群に比して、被虐待歴ありの子どものエピゲノム年齢が老齢化し、中でも、自殺念慮・行動のある子どもほど、エピゲノム年齢の老齢化が著しいことが確認されています(若年日本人における生物学的健康度を鋭敏に捉えられる新たなエピゲノム年齢測定アルゴリズムの開発を順調に進めています)。
私たちはさらに、「心理的ストレスを抱える若年うつ病患者へのケア介入により、血液中のエピゲノム年齢が数ヶ月程度の短期間で若返りの方向へ変化する」ことも見出しています。これは、中間解析で認められた「被虐待〜自殺傾性のある子ども・若者における健康を損なうような生物学的老化」が、ケア介入により「回復可能である」というメッセージの証左となりうる重要な知見と考えています。

また、これまでに虐待経験があり、強い自殺傾性を示している若者において、多くのケースで脳全体でAMPA受容体の密度が増加していることが確認されました。特に、幼少期の逆境体験が最も深刻であったケースで、その増加はより顕著でした。このような変化は、これまで私たちがうつ病など他の精神疾患や身体疾患の患者で見てきた結果とは異なっており、虐待経験と自殺傾向をもつ若者に特有の脳の変化である可能性があります。今後、同様の傾向が他のケースでも見られれば、「若者の虐待経験や自殺リスクには、特別な脳の変化が関わっている」という新たな発見につながるかもしれません。

3. 今後の展開
多施設での症例同意および試料取得環境を整備し、想定を超える規模で、アジア最大の子ども・若者の被虐待〜自殺傾性の症例のエピゲノムデータを構築できています。一部の対象者についてはAMPA-PET解析も行います。
これらにより「生物学的老化の指標」や「こころの健康状態を精確に反映するマーカー」の開発を目指します。特にエピゲノムの知見については、企業との共同開発を行い、製品化・社会実装に向けて準備を進めています。
併せて、デジタルコンテンツ開発および萌芽的科学技術の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の専門家と密に連携して、苛烈なストレスに曝されている子どもをバイオマーカーで探知した場合のベネフィットとリスクを考慮した情報提示システムの開発や環境整備も徹底して慎重に行っていきます。
(大塚 郁夫:神戸大学、宮崎 智之:横浜市立大学)