成果概要

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子どもの虐待・抑うつ・自殺ゼロ化社会[1] ストレスとレジリエンスにまつわる新規機序解明

2025年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、ストレスの感じ方や影響の受け方の違い(「ストレスの質」)を、体の中の仕組みから明らかにすることを目的としています。また、ストレスに適応する力(レジリエンス)が低下する仕組みの解明も目指しています。具体的には、抑うつや自殺傾性のある子ども・若者と健康な方々の血液を比較し、細胞や遺伝子の違いを解析するとともに、マウス実験によりストレスが脳や血液に与える影響を調べます。さらに、幼少期の体験や発達特性にも着目し、遺伝情報や脳画像などを統合的に解析します。さらに、自閉スペクトラム症を「小児期逆境への発達脆弱性モデル」と位置づけ、幼少期体験が免疫系と脳回路形成に及ぼす影響を解析します。これにより、ストレスの状態を客観的に捉える指標を可視化し、将来的な早期発見や予防、適切な支援につながる基盤の構築を目指しています。

研究概要:ストレスの質とレジリエンス低下の生態メカニズム解明

2. これまでの主な成果

 強いストレスや自殺傾性を抱える若者の血液を、細胞一つひとつのレベルで細かく解析しました。その結果、外敵から体を守る免疫細胞において、過剰な炎症反応などの変化が起きていることが分かりました。さらに、免疫細胞の一種である「NK細胞」において、こうした心の状態を客観的に見分ける特定の目印(バイオマーカー)となる物質を特定しました。心の不調を免疫の異常として捉えるこの画期的な発見は、早期発見技術として特許出願済みです(特願2026-070783)。また、長期間のストレスを受けると気分が落ち込んだり不安が強くなったりしますが、これには白血球の一種である「好中球」が深く関わっていることをマウス実験で突き止めました。ストレスによって異常に活発化した好中球が、脳を守るバリア機能を弱めてしまうことで、心や行動への悪影響を引き起こす原因と考えられます。

血液検査でわかる「自殺の予兆」の正確さ(遺伝子発現パターンに基づくROC曲線)

さらに、自閉スペクトラム症の児童思春期および成人コホートから、幼少期逆境と関連するT細胞、NK細胞、マクロファージの共通免疫異常を同定し、発達脆弱性を示す免疫・脳回路マーカーとして社会実装への展開が期待されます。

3. 今後の展開

今後は、発見した特定のバイオマーカーについて、臨床現場で広く普及している検査手法を用いた検証を多施設と共同で進め、指標としての再現性を高めていきます。さらに、他の精神疾患との比較や、治療の前後での目印の変化を調べることで、早期発見だけでなく、新しい治療標的としての可能性も探っていきます。あわせて、自閉スペクトラム症で同定した免疫・脳回路マーカーを、小児期逆境を有する子ども・若者へ展開し、発症前予測、リスク層別化、個別化予防介入へ橋渡しします。加えて、基礎研究として、遺伝子改変マウスを新たに導入し、最新の脳内画像解析などを駆使して、免疫細胞の異常が心や行動に悪影響を及ぼすメカニズムをより詳細に明らかにしていきます。
こうした基礎研究から臨床応用へのスムーズな橋渡しを通じて、一人ひとりのストレスの「質」を的確に把握し、虐待・抑うつ・自殺を未然に防ぐ具体的な技術の確立と、誰もが健やかに過ごせる社会の実現に貢献します。

ASDを発達脆弱性モデルとした小児期逆境の生物学的影響の解明ASDを発達脆弱性モデルとした小児期逆境の生物学的影響の解明

(古屋敷 智之:東京科学大学、熊本大学:牧之段 学)