成果概要
子どもの虐待・自殺ゼロ化社会[1] 若年成人の被虐待/自殺傾性の脳内AMPA-PET・末梢血エピゲノムデータの構築・解析
これまでの進捗状況
1. 概要
私たちが世界で初めて開発したヒト生体脳内AMPA受容体可視化陽電子断層撮影(Positron Emission Tomography: PET)用トレーサー技術(Miyazakiら, Nature Medicine 2020)を用いて、幼少期に虐待歴のある若年成人の対象者に対しAMPA-PET撮像を施行し、脳内 AMPA 受容体密度を測定します。これを同年齢の健常者のAMPA-PETデータ(構築済)と比較し、被虐待歴と自殺行動歴に関連してAMPA受容体量が変化する脳領域を特定します。これにより、過去の虐待歴がもたらす自殺に至る情動不安定性の脳基盤を明らかにしたいと考えます。上記対象者については網羅的DNAメチル化データも同時取得し、後天的なストレス負荷蓄積の反映であるエピゲノムデータと脳内AMPA受容体変化の関連についても検討します。
2. これまでの主な成果
横浜市立大学臨床研究審査委員会にて、特定臨床研究の承認手続きが完了し、対象者のAMPA-PETデータ及び網羅的DNAメチル化データ取得を開始しました。
中間解析結果として、過去に苛烈な被虐待歴及び現在の自殺傾性を有する症例3例全例のAMPA-PETにおいて、健常群に比して「全脳的にAMPA受容体密度が増加している」ことが確認されました(中でも逆境体験スコアが最も高い症例で、AMPA受容体密度増加が最も顕著でした)。
これは私たちがこれまで他の精神~身体疾患患者のAMPA-PET研究で認めてきた所見とはまったく異なるAMPA受容体変化であり、今後、他の被虐待歴・自殺傾性の症例でも同様の変化が確認された場合、「若者の被虐待~自殺傾性の生物学的基盤には、他の精神疾患等の影響から独立した全脳レベルのAMPA受容体増加が関与している」という新規的知見の獲得に至る可能性があります。
3. 今後の展開
被虐待歴/自殺傾性にフォーカスした若年者コホートのAMPA-PET撮像という、世界的にも類を見ない先進的な研究内容であり、若者の被虐待~自殺傾性に特有の中枢神経系変化を世界に先駆けて見出せる可能性があると考えます。下記のような募集要項を掲示するなどして、リクルートの促進を徹底し、さらなるデータの蓄積を目指します(今後、多施設共同研究も計画中です)。また同時に取得した末梢エピゲノムデータとの相関解析を実施し、脳内AMPA受容体変化の末梢マーカーとしてのエピゲノムデータの有用性についても検討していきます。
(宮崎 智之:横浜市立大学、大塚 郁夫:神戸大学)