成果概要
子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する[4] 内受容感覚評価による子どもへの音楽芸術介入効果の評価
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本プロジェクトでは、内受容感覚評価により子どもへの音楽芸術介入効果を、生理学―心理学的側面で評価することが目的である。「学童期の集団音楽体験がもたらす内受容感覚と感性の亢進」においては、小学校低学年の児童生徒とし、リズム音楽活動中の、対人ネットワークや生理学的データを取得し解析する。「親子関係評価指標の確立と音楽介入効果の検証」および「音楽の短期介入が親子の内受容感覚への気づきに与える影響を検証」においては、乳幼児および幼児とその親が音楽を介した同調遊びをすることによって、生理動態や親子関係にどのような影響が生じるかを調査する。
2. これまでの主な成果
「親子関係評価指標の確立と音楽同調介入効果の検証」
就学前の幼児とその親を対象に、音楽を用いたリズム同期課題(タッピングなど)を実施し、親子間の「同期性」が養育態度や子どもの特性とどのように関連するかを検討した。質問紙で評価される親子関係(TK式診断的新親子関係検査など)とタッピング位相やリーダー・フォロワー傾向との比較分析により、親子特有の相互作用パターンを抽出した。また、ハイパースキャニングMEGの手法を用いて、親子がリズムを合わせる際に脳活動がどのように変動するかも調べ、前頭部α帯域などに成人同士の同期とは異なる現象が見られた。音楽介入が親子関係の改善や情緒的安定につながる可能性を示唆した。

「学童期の集団音楽体験がもたらす内受容感覚と感性の亢進」
小学校でドラムサークルなどの集団音楽体験を実施し、対面検知アプリや心拍計測、唾液ホルモン分析を併用して、子どもたちと保護者が同時に活動する際の情動変化や身体的同期を調べた。保護者ではオキシトシンの上昇とコルチゾールの低下が一貫して示され、一方で子どもの反応は個人差が大きいものの、全体として協働的な状態が高まる傾向が見られた。令和5年度と6年度に実施したドラムサークルを比較すると、活動経験が重なるほど参加者間での体動同期度やコミュニケーションネットワークの広がりが上昇するケースが確認された。
「音楽の短期介入が親子の内受容感覚への気づきに与える影響を検証」
実施内容①:世界各国の童謡コーパス208曲を集め、オンライン調査システムを構築して親子約300名を対象に楽曲の知名度やValence/Arousal評価を確認した。その解析結果から、BPM110を基準にした9曲を選定し、実験に用いる準備を進めた。また、予備実験では遠隔環境でも問題なく音楽を聴取できることを確認し、簡易計算モデルを用いて曲間の類似度を分析した。こうした基盤整備により、多様な親子を対象とした短期介入の大規模実験を実施し、個々の「身体生理特性」と音楽の予測誤差(計算論的観点)との関連を検討する下地を作った。
実施内容②:生後12か月までの乳児と親を対象に、家庭で1週間音楽を聴取・介入したのち、大学で再調査を行う短期介入実験を実施した。親子が音楽を介して自由に遊ぶ条件と、親子が別々のタスクを行いつつ音楽を流す条件とを比較した結果、親子が積極的にリズム運動を共有するときに脳波や心拍変動が同期しやすくなり、とりわけ母親がおこなう特定の行動で脳間位相同期が向上した。
保育園のリズム運動活動でも、同様に保護者のポジティブ感情が上昇する傾向が確認され、子どもの活動を見守る姿勢が生理的な同期を高める可能性を示した。

3. 今後の展開
今後もクラウド解析基盤とウェアラブル計測デバイスを連携させ、日常環境でのリアルタイム・フィードバックにより、社会システムに発展させていく。2025年度からはムーンショット事業に採択されていないが、今後もひきつづき、各研究者のフィールドで、リズム共有による情緒安定・親子関係改善効果のエビデンスを構築し、社会実装を目指していく。