成果概要

子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する1. 子どものこころの「見える化」

2022年度までの進捗状況

1.概要

研究開発課題「脳の個性の評価と介入効果の評価」の役割は、自閉スペクトラム症(以下ASD)などの生まれもっての個性が、認知心理学および脳科学(例:幼児用脳磁図計)の両方で説明されるようになり、養育者が子どもをより客観的に見る事ができるようにすることである。子育てで悩んでいる家族が「育て方で発達障害になった」などの誤解を解消し、家庭内の不協和音(例:親の不適応や、虐待なども含む)を防ぐための学術的エビデンスを構築することが目的である。

(幼児用MEG)
(幼児用MEG)
(OPMセンサー)
(OPMセンサー)

研究開発課題「子どもに最適化した脳磁測定システムの先進的要素開発」の役割は、ASD診断システムをより安価で実用的なものにするために、光ポンピングセンサー(OPM-MEG)の幼児への応用可能性も検証する。OPM-MEGでSQUID-MEGでの先行研究の結果を再現出来るかも検証する。

2.2022年度までの成果

「脳の個性の評価と介入効果の評価」においては、被験者を公募しデータの蓄積を開始している。本プロジェクトにおける公募を円滑に行うためのホームページ、被験者専用サイトを作成した。子どもの個性を反映する脳指数をえるために、脳内ネットワーク特性を、グラフ理論を活用して分析してきた。
この解析手法により、ASD傾向のある子どもたちは、定型発達児と比較して、スモールワールド性が低下していることを報告してきた(Shiota et al. 2022 Front Psychiatry)。同様の解析技術を活用し、過去の経頭蓋直流電流刺激の臨床試験のデータを試験的に解析したところ、成人男性におけるワーキングメモリ向上へのレスポンダーを予測できる可能性を示した(Hirosawa et al. 2023 Front Psychiatry)。

「子どもに最適化した脳磁測定システムの先進的要素開発」については、磁気シールドルーム内にて、OPM計測環境を整え、センサ(Quspin社製QZFM Gen.2)の基本動作やその安定性の確認、数百フェムトテスラ(100fT=10-13T)程度の脳磁計測の可能性と課題の精査を行った。その結果、現行の測定環境は脳磁計測が可能な範囲にあることが分かった。一方で、実測から0.1nT/cm程度と推定される磁気シールド内に残存する環境磁場の空間勾配がとくに無視できない計測阻害要因になることが分かった。OPMによる体動ノイズ除去を目指し、その準備として、センサを固定した状態での環境磁場把握やヘルメット試作を進めている。

3.今後の展開

今後も脳磁計のデータの高い時間分解能、および脳波よりも高い空間分解能の利点を最大限にいかし、脳のネットワークをグラフ解析により分析を進めていき、ネットワークの特徴量を、ノードデグリー、オード効率性、クラスター指数、平均パスレングス、スモールワールド性、ネットワーク脆弱性などで表す。そして、子どもをはじめとする、人の個性との関連を明らかにしていく。
脳磁計測のより低コスト化を目指すためにOPM計測の最適化を進めていく。3次元のセンサ(Quspin社製QZFM Gen.3)を14個設置し、この新規センサが実際に幼児の脳活動が測定し、将来の応用可能性を検証していく。そのためにも計測室内の磁場空間分布や、周辺機器由来のノイズ、人の筋電などの様々なノイズを除去する技術を開発する。計測室内の磁場空間分布の影響が非常に大きく、また、とくにセンサを動かしながらの計測を実施する際、センサ自身の動作が不安定になることも考慮する必要が分かってきている。したがって、複数センサアレイとしての計測データから、空間的・時間的特徴を使って磁場分布に由来するノイズや脳活動以外の信号成分を除去する手法を開発する。ノイズ除去に加え、センサ位置特定手法、頭部表面での磁場から脳内部での活動を推定する手法、を組み合わせることで視覚、聴覚、運動等の誘発反応の活動部位をある程度特定した形で検出する技術を開発する。
(廣澤徹、森瀬 博史:金沢大学)