成果概要
子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する[1] 子どものこころの「見える化」
2023年度までの進捗状況
1. 概要
研究開発課題「脳の個性の評価と介入効果の評価」の役割は、自閉スペクトラム症(以下ASD)などの生まれもっての個性が、認知心理学および脳科学(例:幼児用脳磁図計)の両方で説明されるようになり、養育者が子どもをより客観的に見る事ができるようにすることである。子育てで悩んでいる家族が「育て方で発達障害になった」などの誤解を解消し、家庭内の不協和音(例:親の不適応や、虐待なども含む)を防ぐための学術的エビデンスを構築することが目的である。



研究開発課題「子どもに最適化した脳磁測定システムの先進的要素開発」の役割は、ASD診断システムをより安価で実用的なものにするために、光ポンピングセンサー(OPM-MEG)の幼児への応用可能性も検証するOPM-MEGでSQUID-MEGでの先行研究の結果を再現出来るかも検証する。
2. これまでの主な成果
「脳の個性の評価と介入効果の評価」においては、被験者を公募しデータの蓄積を開始している。本プロジェクトにおける公募を円滑に行うためのホームページ、被験者専用サイトを作成した。子どもの個性を反映する脳指数をえるために、脳内ネットワーク特性を、グラフ理論を活用して分析してきた。
この解析手法により、ASD傾向のある子どもたちは、定型発達児と比較して、スモールワールド性が低下していることを報告してきた(Shiota et al. 2022 Front Psychiatry)。同様の解析技術を活用し、過去の経頭蓋直流電流刺激の臨床試験のデータを試験的に解析したところ、成人男性におけるワーキングメモリ向上へのレスポンダーを予測できる可能性を示した(Hirosawa et al. 2023 Front Psychiatry)。
「子どもに最適化した脳磁測定システムの先進的要素開発」については、最新世代のOPMセンサ(Quspin社製QZFM Gen.3)を用いて、成人被験者において聴性誘発反応等の感覚反応を検出した。さらに、センサー位置と脳構造データとの位置合わせ法を構築した上で、12台と従来MEGと比べてかなり少ないセンサー数でも情報を有効に生かす推定アルゴリズムを採用することにより、脳内の活動発生場所を特定することに成功した(左図)。また、子どもの計測を見越して計測時の体動を許容するための磁場勾配制御システムの開発にも取り組んでいる。シールドルームにより地磁気等の環境磁場を遮蔽しても残存する磁場勾配を、シールドルーム内に導入した電流コイルによってキャンセル磁場を印加して消去し、その効果を評価するシステムを構築して、磁場勾配消去の原理実証を行った。

3. 今後の展開
今後も脳磁計のデータの高い時間分解能、および脳波よりも高い空間分解能の利点を最大限にいかし、脳のネットワークをグラフ解析により分析を進めていき、ネットワークの特徴量を、ノードデグリー、オード効率性、クラスター指数、平均パスレングス、スモールワールド性、ネットワーク脆弱性などで表す。そして、子どもをはじめとする、人の個性との関連を明らかにしていく。
また、子どもにより適した脳磁計測のためにOPM計測の最適化をさらに進めていく。とくに、磁場勾配や時間変動を抑えるシステムの構築に注力する。そのために、シールドールーム内での空間的・時間的変動の傾向を補助センサーなども使いながら把握しつつ、各方向の磁場勾配を同時に消去することでOPMを安定的に動作させ、信号処理や信号源推定などの手法を組み合わせることで、脳神経活動由来の信号を抽出する。これらの技術により、子どもの計測についても実証する。