成果概要

子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する2. 芸術介入効果の「見える化」

2022年度までの進捗状況

1.概要

本課題では、自閉スペクトラム症(ASD)の特性や社会性に課題のある思春期の児童生徒が、安心しながら、社会性を向上させるような芸術活動を提供することを目的に、芸術活動がもたらすこころの安寧や社会的好奇心の向上を捉えることができる内分泌的、生体工学的な客観的指標の確立を目指す。

  • 子どもを対象に対面/リモートアートワークショップ(AWS)を開催するためのフィールドを準備し、唾液中ホルモンの変動データ収集を開始
  • ウェアラブル小型心電計測システムの開発
  • 対面検知アプリ、動作可視化システムの開発
  • 成人を対象とした対面AWSにおいて心拍計測、対面アプリによる加速度計測を開始し、実施プロトコルを検討
  • 芸術活動に関するアンケート調査とコンテンツ強化

2.2022年度までの成果

ASDの特性や社会性に課題のある思春期の児童生徒を対象とした芸術活動中に生体情報を記録するプロトコルの検討を行った。具体的には唾液中ホルモンや身体リズム、心拍変動の指標、動作可視化システムの運用について、必要な機器の選定や測定回数などの検討を行った。
<アートワークショップ> COVID-19 の感染拡大状況の変動の影響などから、2022年度はリモートAWS中の唾液中オキシトシン、コルチゾール等ホルモンの濃度変化の計測と、ビデオ録画と質問紙や聞き取りによる心理行動学的データの取得を行った。また唾液中オキシトシン濃度の変動を捉えるために必要な計測ポイントを確認した。これまでの子どものリモート芸術活動参加時の唾液中オキシトシン濃度について、活動直前、活動開始後30分、活動終了後の3点の変化率を解析し、定型発達(TD)と比べ、ASDの子どもでオキシトシン濃度がより高まることを確認した。

また子どもを対象とした心拍および対面アプリによる同調性実測に向けた準備調整段階として、成人を対象としたトライアル実施にて、唾液中オキシトシン、コルチゾール等ホルモンの濃度変化の計測と、心拍、同調性の計測およびビデオ録画と質問紙や聞き取りによる心理学的データの取得を開始した。
<心電計測器> ノイズを除去する小型ウェアラブル心電計測器を開発し、日常生活下でも心拍数、自律神経指標をリアルタイムに解析・表示ができるソフトウェアの試作を完成した。個別の自律神経活動のゆらぎを分析するため、芸術活動及び日常生活1週間分を測定した。

<対面検知アプリ> 機能開発を追加しより運用に適した形に改善した。対面データとバイタルデータを統合し、対面データとの連携した分析及び可視化が出来ることを目指し開発を継続している。
<動作可視化システム> 体の向き推定機能開発や計算処理高速化を実施した。

3.今後の展開

これまでのトライアルでAWSとして適切に強化された芸術内容をもってASDの特性を持つ思春期の子どもを対象とした対面/リモートAWSを開催する。唾液中ホルモンの変動データ、対面検知アプリや動作可視化システムによる計測データおよび心拍変動データは、活動前後の質問紙により得られた参加者の特性や活動参加時の満足度、不安や社会性の変化と合わせて分析する。これにより、芸術活動がもたらす効果を示す指標としての有用性を検討する。
(田中早苗、合田 徳夫:金沢大学
駒米愛子:東京藝術大学、神吉輝夫:大阪大学)