成果概要
子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する[2] 芸術介入効果の「見える化」
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本課題では、自閉スペクトラム症(ASD)の特性や社会性に課題のある思春期の児童生徒が、安心しながら参加し、社会性を向上させる芸術活動を提供することを目的に、芸術活動がもたらすこころの安寧や社会的好奇心の向上を捉えることができる内分泌的、生体工学的な客観的指標の確立を目指す。

- 子どもを対象に美術または音楽の対面/リモートアートワークショップ(AWS)を開催し、唾液中ホルモンの変動や身体同調、心拍データ収集を継続
- ウェアラブル小型心電計測システムの小型化、実装応用
- 対面検知アプリのアップデート、リアルフィードバックシステムの開発
- 成人を対象とした対面AWSにおける唾液中ホルモンの変動について、論文にまとめ、投稿
- 芸術活動のコンテンツや実施プロトコル検討
- 地域のホールと連携しAWSイベントにて保護者カフェを開催し、作品展示や知見のフィードバック
2. これまでの主な成果
<アートワークショップ>
定型発達の同年代の子どもに比べ、ASDの子どもは、対面/リモートAWSに参加した際の唾液中オキシトシン、コルチゾール濃度変化が大きいことが2022年度までの取り組みでわかってきている。2024年度までに、ASDの子どもを対象としたAWS中の唾液中オキシトシン、コルチゾール濃度変化のデータ収集を継続した。その結果、ASDの特性のある子どもの場合、リモートのAWSは4名以下の人数で実施することでストレスが緩和し、またより満足感が得られる可能性が示唆された。これにより、少人数でよりインタラクションが生じやすい環境での芸術作品作りが、内在性のオキシトシンの分泌を高めると考えられる。
また音楽コンテンツ(Desktop Music)を用いた対面形式のAWSを個別、協働創作の2種類実施した。個別と協働創作いずれにおいても、参加前後に実施したVisual-Analog Scaleでは、創作活動後に幸福度が高まり、リラックス度が増したと回答した。特に、じっくり創作し、かつファシリテーターとのやり取りが多くなる個別創作活動において、唾液中オキシトシン濃度が有意に上昇した。この成果をまとめ、論文として発表した。(Sugiyama et al. Front Psychol. 2025)

さらに、様々なAWSにおいて、小学生の仲良しグループで活動を行った場合に、唾液中A物質とB物質の濃度に相関が見られることがわかった。アート活動中のA物質と
B物質の内分泌の連動が見られるのは、前例の無い新発見であり、活動後には速やかにその連動が見られなくなることから、同じ目標を持って活動を共にする際の同期性を反映していると考えられた。

<対面検知アプリ>
スマートウォッチ版の対面検知アプリを開発し、コミュニケーションデータと同時に心拍データも取得できるようにした。
<心電計測器>
子ども向け、またプライバシーに配慮した計測への応用のため、計測機器やソフトウェアの改変を行ない、外注により量産し、小学校や芸術活動現場での実証実験を繰り返した。
3. 今後の展開
今後はムーンショット事業(細田プロジェクトマネージャー)のもとで、心の安寧や好奇心を育む環境として、仲間と共にあることやコンテンツの提供の仕方、ファシリテートの在り方を、社会資本の一つとして提案する。被災地などの地域で定期的なアートワークショップを提供していく。誰でも気軽に取り組める内容を中心に継続的に実施し、不安やうつ傾向、QOL、対人コミュニケーション、満足感等に関する心理行動学的指標より得られるデータと生理学的指標との関連を調べ、中・長期的なのこころの変化や社会性の変化を客観的に捉えられるか検討する。