成果概要

子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する[3] 個性を守る学校の実現

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本プロジェクトでは、多様な子どもが共に生活する「学校」に着目し、本来の好奇心に基づいた学びを促進し、子どもの高い精神的幸福度を目指す。金沢大学と加賀市が連携して「学校における子どもたちのこころの安寧と知的好奇心の見える化」「教育システムの検討」「発達障害ELSI」の3つのテーマを柱として研究事業を進めている。

心の安寧と知的好奇心の「見える化」
〇対象
小学校通常学級・特別支援学級に在籍する児童生徒
〇方法
学校での活動時間にウェアラブル高精度心電計測器および対面検知アプリを装着してもらい、心拍データと活動量データを取得する

2. これまでの主な成果

対面検知・同調性検出アプリによる「好奇心探求の時間」の子どもの活動量の特徴の分析

発達障害のある児童を対象に、特に興味・関心のある活動を実施し、活動中の身体活動を計測した。計測の結果、身体周波数(2Hz以上)の指標が、通常の教科学習に比べて高い値を示していた。加えて、実際のビデオ映像の分析においても、対象児において好奇心探求の時間に特にポジティブな反応が見られたことが確認された。これらの結果は、好奇心や内発的動機づけに基づく「前向きな覚醒状態」を反映している可能性を示している。

「主体的に学ぶ」
授業中の児童の行動ダイナミクスの可視化

石川県加賀市が取り入れている、個々に合ったペースや形態で学ぶ「マイプラン学習」(単元内自由進度学習)と通常の授業スタイルの違いについて、ビデオ分析と加速度データから分析を行った。加速度データによるネットワークの指標「集団の意識」では、マイプラン学習(下図:青線)では通常授業(下図:赤線)に比べ、特定の人とのやり取りが活発な状態から、全体が活発な状態まで授業中のネットワーク構造のバリエーションが大きい授業であることが観察された。

マイプラン学習
心拍の分析:
「マイプラン学習」では一斉授業に比べ平均値が有意に高く、分散も大きいことが示された。「わくわくする」などの情動的高揚状態がマイプラン学習では多いと考えられた。自律神経系の活動性と連動した心拍変動は、心理的興奮および身体的活性の指標として、今後も収集することの意義が確認された。
唾液の分析:
授業前後の唾液中のコルチゾールの変化割合を比較したところ、「マイプラン学習」では一斉授業に比べ授業前後でのコルチゾールが大きく変化しない一方で、一斉授業では、あまり変化しない子どもがいた。マイプラン学習における授業前後でのコルチゾール変化が小さかったという結果は、学習状況や活動の選択が子どもの主体性に基づいていることにより、生理的ストレスを感じにくい、もしくは情動的な負荷が低いことが示唆される可能性がある。この結果は、個別化された教育(マイプラン学習)が、一部の学童にはかなり保護的である可能性を示唆している。今後は、他の生理学的指標である心拍や主観的評価などを合わせ、より簡便な “教育ストレスモニタリングシステム”を開発することが、より大きな規模で研究を展開するために有用であると考えられる。
図

3. 今後の展開

今後はムーンショット事業(細田プロジェクトマネージャー)のもとで、心の安寧や好奇心を育む教育分野における社会資本の一つとして提案する。継続的に加賀市と大学関係者による情報共有会議を開催し、地域における教育や発達障害に関する支援の状況、計測データから得られた結果を共有していく。子どものこころの研究・技術にかかわる議論を市民と議論し、インクルーシブ教育の理解推進のための機会を設ける。