成果概要

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逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現[4] 逆境の克服

2025年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、逆境下で人がどのように制御可能性を感じ、ストレスに対処し、レジリエンスやウェルビーイングを維持するのかを検討します。また、ネガティブ・ケイパビリティに関わる認知・感情プロセスと脳内プロセスを明らかにします。これらの研究を通じて、逆境下のこころの状態を多面的に理解し、将来的な評価手法および支援アプローチを開発するための基盤構築を目指します。

2. これまでの主な成果

今年度もライプニッツ・レジリエンス研究所(LIR)のMichele Wessa PIとKlaus Lieb氏が引き続きプロジェクトに参加し、逆境下における制御可能性の知覚が、前向きさ、レジリエンス、メンタルヘルス、ウェルビーイングにどのように関わるかについて、国際共同研究を進めました。また、2025年度からモナッシュ大学の土谷尚嗣PIが参画し、ネガティブ・ケイパビリティに関わる認知・感情プロセスおよび脳内プロセスの研究を開始しました。

制御可能性の知覚とストレス反応・レジリエンスとの関連

Wessa PIの研究グループは、メンタルヘルスおよびレジリエンスにおける制御可能性の役割を検討するため、fMRIを用いたストレス課題と心理・生理指標を組み合わせた研究を実施しました。その結果、逆境下で制御感を高く保つ傾向のある群では、主観的な無力感、生理反応、脳活動に特徴的なパターンが見られました。これらの知見は、制御可能性の知覚がストレス反応の調整過程と関連し、レジリエンスを理解する上で重要な要因となる可能性を示しています。今後の前向き研究において、制御信念やストレス対処を含む支援法・予測モデルの検討に資する基盤となることが期待されます。

ポジティブな心的状態と健康・レジリエンスとの関係

ポジティブな心的状態と心理社会的資源の関連を明らかにするため、Wessa PIの研究グループは、山田PIおよび濱田PIとの共同で、システマティックレビューおよびメタ分析の実施に向けた理論的枠組みと研究計画を策定しました。本研究では、収入、楽観性、ソーシャルサポートなどの心理社会的資源と、生活満足感、幸福感、前向きな態度などのポジティブな心的状態との縦断的関連を検討します。さらに、これらの関連が文化的背景によってどのように調整されるかについても検討する計画です。

制御可能性に関わる神経・身体指標の検討

制御可能性知覚の神経的・身体的側面を検討するため、Wessa PIと山田PIが連携し、昨年に引き続き対面およびオンラインでの会議を重ねながら、研究デザイン、データ収集方法、予備的知見に関する議論を進めました。これらの協働的取り組みにより、今後実施予定の共同研究に向けた研究計画の具体化が進みました。

制御可能性とレジリエンスに関する縦断研究基盤の構築

縦断研究に向けたスタディプロトコルとベースライン測定の検討、およびこれまでの成果共有を目的に、2026年3月に日本でワークショップ「がんサバイバーのための『前向き』の科学」を開催し、藤森PI、山田PI、濱田PIの研究グループとの連携を深めました。また、ドイツ国内のがん診療施設との連携や、今後の研究対象者の選定に向けた準備も開始されています。

ネガティブ・ケイパビリティに関わる認知・感情プロセス

2025年度からモナッシュ大学の土谷尚嗣PIがプロジェクトに参加し、ネガティブ・ケイパビリティの認知効果と脳内プロセスに関する研究を開始しました。大規模オンラインサンプルを対象とした研究では、多様な感情刺激に対する主観的な感情評価と自己モニタリングの関係を検討しました。その結果、感情経験そのものの強弱だけでなく、感情をどのように評価し、自分の状態として捉えるかという自己モニタリング過程が、個人差を理解する上で重要である可能性が示されました。これらの知見は、ネガティブ・ケイパビリティに関わる認知・感情プロセスを理解するための手がかりとなります。

ネガティブ・ケイパビリティの脳内プロセスに関する解析基盤

本研究では、ネガティブ・ケイパビリティが知覚・注意・感情の各レベルを通じて、逆境下のこころの状態にどのように関わるのかを定量的に検討します。これまで蓄積してきた主観報告に依存しない行動・脳活動データの解析手法を応用し、判断を急がず不定な状態にとどまる過程を、神経科学的状態および数理モデルと対応付けることを目指しています。予備的な脳波実験を実施して検討準備を進めるとともに、既存データに時系列解析手法を適用し、神経活動の特徴抽出と候補指標の検討を行う解析基盤を整備しました。

3. 今後の展開

今後も、制御可能性の知覚およびそれに関連するポジティブな心的状態が、レジリエンス、メンタルヘルス、ウェルビーイングにどのように関わるかについて検討を進めます。既存データの再解析、メタ分析、文化間比較研究などを通じて理論的知見を深めるとともに、共同研究によるパイロットスタディや共通測定バッテリーの開発を進め、ストレスと対処に関する縦断的研究を支える体制を構築します。また、一般集団と実生活上の困難を経験している方々を対象に、制御可能性に関わる要因を検討し、将来的な支援法や評価指標の開発につなげます。