成果概要

逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現3. 前向きELSIと社会応用

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマは、前向きのELSIと社会応用を担っています。この研究開発テーマの達成により、様々な社会状況下での前向きを評価し、様々な属性・状況の集団(児童・成人・高齢者といった異なるライフステージ、緩和ケア患者や躁・うつといった異なる精神状態)において、望ましい心身の状態につながる前向きの要素と程度を明らかにすることで、プロジェクトが目指す前向き推定技術とアシスト技術の開発に貢献します。
この達成に向けては、ライフステージや健康状態により、前向きの定義が異なると同時に、身体機能や体格が異なるため、同一基準による前向きの客観的評価法を行うことが難しいということが課題となっています。また、前向き技術に関するELSIへの対策を検討する上で、「前向きとはどんな状態か」を明確化することも課題となっており、この点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。従来とはまったく異なる、前向きを個人の状況、ニーズに合わせてアシスト・訓練するという発想で、ELSIへの対策を講じた前向きを身体姿勢、脳・生理反応などから客観的に評価する方法を開発することで、介入法の開発に取り組んでいます。

図1. 発達期、高齢期、患者の前向きを姿勢、歩行から評価
図1. 発達期、高齢期、患者の前向きを姿勢、歩行から評価

2.2022年度までの成果

  • ① 前向きの多角的定義:文献調査・ディスカッションを進め、年度中計9回の研究会を開催しました。前向き概念とレジリエンス研究との関連性から、前向きの「中動態」(medio-passive)的な捉え方に着目しました。これは、前向きアシスト技術のELSIを考える際にも重要な観点であると考えられます。
  • ② 緩和ケア患者を対象にしたインタビュー調査:がん患者に直接インタビューを行うことで、がん患者特有の心理状態と前向きの捉え方について整理を行いました。
  • ③ 精神神経疾患患者を対象にしたインタビュー調査:うつ状態・躁状態・依存症の患者に直接インタビューを行うことで、精神疾患患者特有の心理状態と前向きの捉え方について整理を行いました。
  • ④ 患者を対象とした実験環境整備:診療科、関係各所との調整を行い、緩和ケア患者・精神神経疾患患者を対象とした調査、計測を行うために必要な、リクルート体制、実験サポート体制を関連部署との協力体制を構築することで整備しました。
  • ⑤ 発達期を対象としたインタビュー調査:小学校低学年から高校生を対象に、直接インタビューを行うことで、発達期における心理状態と前向きの捉え方について整理を行いました。
  • ⑥ 発達期を対象とした実験環境の整備:小学校、中学校、高校の校長ならびに関係者と打ち合わせを行い、発達期を対象とした姿勢計測、前向き質問紙調査を行うための実験環境の整備を行いました。
  • ⑦ 簡易姿勢計測システムの構築:デジカメ2台とAI動画解析による身体モーション計測ソフトを組み合わせ、一人あたり短時間で姿勢計測を可能にし、大規模なデータを収集できるシステムを構築しました。
図2.AIによるモーションキャプチャーと足底センサー
図2.AIによるモーションキャプチャーと足底センサー

図3. 大学生を対象とした姿勢計測
図3. 大学生を対象とした姿勢計測

3.今後の展開

今後、緩和ケア患者、精神神経疾患患者、発達期を対象としたデータ計測を本格系に開始する。これらのデータが取得されることで、患者特異的、ライフステージ特異的、発達期の年齢特異的な特徴が見出され、それぞれの「前向き」の評価法が開発される予定です。また、ELSIも並行して検討を進めることで、社会からのニーズを踏まえた「前向き」アシスト・トレーニング法の開発が期待されます。
課題推進者:
田口茂:北海道大学
藤森麻衣子:国立がん研究センター
松田哲也:玉川大学
高橋英彦:東京医科歯科大学