成果概要
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逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現[1] 前向き指標の作成と計測
2025年度までの進捗状況
1. 概要
研究開発項目1では、「前向き」の構成要素を明確化し、心理・認知・身体・生体データを統合した指標作成と計測技術の開発を進めています。大規模オンライン調査により主観尺度の項目削減・因子抽出・項目改訂を行うとともに、トップアスリートやがん患者を対象とした実環境での評価を進めました。さらに、フロー体験、ネガティブ・ケイパビリティ、ユーダイモニック・ウェルビーイングなどの関連指標を整備し、実験室・実環境データおよび生成AIを活用した解析により、前向き状態の客観的評価と予測モデルの構築を進めています。
2. これまでの主な成果
身体化された 「前向き」の機序
山田真希子PI(量子科学技術研究開発機構)は、これまでに作成した「前向き尺度」を用いて、大規模調査(横断・縦断)を実施し、認知・行動・身体データを統合した解析を行いました。さらに、前向きの認知機能を評価する認知課題を複数作成し、その一部について気分や記憶との関連性を見出し、論文投稿と学会発表に至りました。
また、機械学習手法を用いて、ポジティブ・イリュージョンに関する個人差データから、錯視量とメタ認知特性を推定するモデルを構築しました。同手法の適用により、ユーダイモニック・ウェルビーイングの因子構造を特定し、得られた4因子を前向き尺度項目から一定の精度で予測できることを示しました。これにより、尺度の構造的妥当性と予測可能性を統合的に検討し、「前向き尺度」の基盤を整備しました(図1)。これらの成果は、心理・認知・身体データを統合した前向きモデルの構築に向けた基盤となるものです。

「前向き」のコア:ネガティブ・ケイパビリティ
前向きの中核構成要素として、不確実性や曖昧さに向き合う力の重要性が示されました。この力を評価する指標として、ネガティブ・ケイパビリティ尺度(24項目・5因子)を確立しました。さらに、LLMを活用した項目検討と国際比較による信頼性・妥当性の検証を進め、「前向き」を国際的に評価するための基盤を構築しました。

実環境センシング:アスリートとがん患者
柏野牧夫PI(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)は、多人数のアスリートに前向き尺度原案を用いた調査とインタビューを行い、さらにアスリートや競技団体と連携し、日常および実戦場面での評価に向けた環境整備とデータ収集を行いました。特にスノーボード競技において、試技直前の脳波αパワーと競技ランキングの有意な相関を確認し、脳状態が実戦パフォーマンスと関連し、成績予測に利用できる可能性を示しました。さらに、瞬目や脳波指標などを統合することで、心理・生体・行動を横断した実戦場面における評価基盤を構築しました。
2,000人を超えるがん患者を対象に、前向き尺度原案を用いた調査とインタビューを行いました。その結果、逆境下の心理適応に関わるネガティブ・ケイパビリティ関連項目が、がん患者のこころの状態を理解する上で重要な指標となる可能性が示されました。これにより、前向き概念を心理適応やレジリエンスの観点から捉え直す手がかりが得られました。
フロー体験による前向きの循環と汎化
下條信輔PI(カリフォルニア工科大学)は、フロー体験と前向きの関係を統合的に解析し、両者の関係をパス解析によりモデル化しました。その結果、フロー体験が前向きの形成に関与する可能性が示されました。さらに、EEGハイパースキャンを用いた研究により、脳活動および瞳孔・呼吸の個体間同期を指標としてチームフローを定量化し、フロー状態を客観的に評価するための方法論を整備しました。
前向きセンシングと予測
濱田太陽PI(株式会社アラヤ)は、複数の身体・生体データを統合した前向き予測モデルを構築し、個人のこころの状態を可視化するアプリケーション基盤の開発へと展開しました。また、自宅でも実施可能な日常簡易計測・モニタリングの仕組みを整備しています。これらを通じて、前向きセンシングから前向きアシストへとつなげるための基盤構築を進めています。
3. 今後の展開
2025年度までに確立した前向き尺度、実環境データ、AI解析およびアプリケーション基盤を統合し、前向き状態の可視化・予測・支援を一体化した技術の実装を進めます。現在、身体情報を活用してこころの状態を推定するAI基盤「Body2Positive」の試作版を開発しており、今後は精度検証と汎化評価を進めるとともに、個人の状態に応じた支援技術として社会実装を目指します。