成果概要
逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現[1] 前向き指標の作成と計測
2023年度までの進捗状況
1. 概要
前向きの指標作成と計測を目指す研究開発項目1では、様々な調査プラットフォームを用いて前向き指標の作成と計測に取り組みました。前向きの主観尺度原案を用いた大規模オンライン調査を実施し、前向きの主観尺度の項目削減、因子抽出を行い、前向きの主観尺度の項目改訂を行ないました。トップアスリートを対象にした実環境計測では、異なる競技アスリートに対する前向き尺度と多次元身体計測を実施しました。さらに、前向き尺度のフロー体験項目を、文化差を考慮した質問紙尺度として進め、英語版が完成しました。また、実験室データおよびオープンデータを使用して、前向きを推定するモデルの開発を進めました。
2. これまでの主な成果
●身体化された 「前向き」の機序
前年度作成した「前向き尺度」を用いて、大規模調査(横断・縦断)を実施しました。さらに、前向きの認知機能を評価する認知課題を複数作成し、その一部について気分や記憶との関連性を見出し、論文投稿と学会発表に至りました。前向きの主要素であるポジティブ・イリュージョン(優越の錯覚の個人データ)から、錯視量とメタ認知量を推定可能な機械学習モデルの作成に成功しました(図1. Matsuyoshi, Isato, Yamada. 2024)。さらには、縦断的大規模調査データから、ポジティブ・イリュージョン(楽観主義バイアス)と気分との因果関係について検討した結果、楽観主義バイアスが気分に影響を及ぼすことが明らかとなりました(図2. Isato et al., 2023)。


●実環境センシングとスポーツパフォーマンス評価
多人数のアスリートに前向き尺度原案を用いた調査とインタビューを行い、さらに、アスリートの日常および実戦場面での計測のために、計測対象競技のアスリートや団体と連携しつつ、計測システム準備・環境整備・データ収集を行いました。フォーミュラカー運転中のドライバーの瞬目解析から、認知状態の変化を捉えることに成功しました(図3. Nishizono, Saijo, Kashino, 2023)。また、eスポーツ対戦中の脳波解析においては、勝敗と直接関連する脳活動が試合直前に出現することを明らかにしました(図4. Minami et al., 2023)。


●フロー体験による前向きの循環と汎化
前向き尺度におけるフロー体験項目の作成および文化差の検討では、カリフォルニア工科大学の学生を対象にインタビューを行い、西欧文化での項目の妥当性を検討し、前向き尺度に必要と思われる項目を選定しました。さらに、フロー尺度とも統合し、フロー・前向き統合尺度英語暫定版を完成しました。
前向きの循環と汎化実験については、様々な状況下でフロー体験を生み出す認知・行動タスクを作成し、予備的検討を行いました。卓上・画面上のゲーム以外に全身を使うeゲーム、企業と共同開発したeゲームなど、ソロ/チームフローを生み出す、複数のフロー体験タスクを選定し、EEG、3Dキャプチャ、瞳孔・視線計測、心拍呼吸計測など、マルチモジュールの生体計測を実施しました。
3. 今後の展開
2023年度の成果を基盤として、2024年度以降では、Well-going指標として「前向き尺度」の暫定版を作成し、心理・脳・身体の多次元計測実験を継続しデータ収集を行います。それらの調査・実験結果をもとに、身体情報から主観的な「前向き」を推定する「Body2Positive」を試作し、個々人の「前向き」を読み取る技術と、アシスト・訓練できる技術へと繋げていく予定です。