成果概要

逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現1. 前向き指標の作成と計測

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは、「前向き」を学術的に定義した上で、その主観的な指標(「前向き尺度」)を作成し、脳・身体情報から主観的な「前向き」の度合いを推定する手法を確立することを目指しています。

Fig.1 本研究開発テーマの概要
Fig.1 本研究開発テーマの概要

研究開発の初年度にあたる2022年度では、「前向き」の概念化およびその主観的指標(「前向き尺度」)の作成に着手しました。また、主観的な「前向き」を脳・身体情報から推定するための実験室実験開始に向けた準備を行ないました。

2.2022年度までの成果

●「前向き」の概念化および「前向き尺度」原案の作成

「前向き」の概念化に関しては、さまざまな分野の専門家(認知神経科学、臨床心理学、スポーツ心理学、生体力学、精神医学、哲学など)によって構成されたワーキンググループによる議論や、類似概念の文献調査といった演繹的(トップダウン)アプローチに加えて、一般成人(山田真希子PI:量子科学技術研究開発機構、以下量研機構)やトップアスリート(柏野牧夫PI:NTTコミュニケーション科学基礎研究所)を対象とした「前向き」に関するインタビュー調査といった帰納的(ボトムアップ)アプローチによって、「前向き」の概念化を進めました(手続きに関してはFig.2参照)。

Fig.2 「前向き」の概念化の手続き
Fig.2 「前向き」の概念化の手続き

なお、インタビュー調査の結果に関しては、従来の質的研究手法に加えて、山田真希子PIおよび濱田太陽PI(株式会社アラヤ)が協働し、トピックモデルや共起ネットワークなどの自然言語処理手法(Fig.3)も活用して「前向き」の概念化を進めました。

Fig.3 トピックモデル等の解析ステップ
Fig.3 トピックモデル等の解析ステップ

これらの手続きにより、「前向き」の主観的指標となる「前向き尺度」原案を作成しました(現時点では非公開)。

● 実験室実験開始に向けた準備

主観的な「前向き」を脳・身体情報から推定するための実験室実験に関して、山田真希子PI、平尾貴大PI(量研機構)、佐渡夏紀PI(筑波大学)が連携し、実験室実験の準備を行ないました。
具体的には、本研究開発プロジェクトでは、同一個人に対して、心理指標、脳指標、身体・生理指標を計測する予定であるため、それぞれの指標の選定や、予備実験による微調整を行ない、次年以降に本格始動する実験室実験の準備は万全となりました。

3.今後の展開

2022年度の成果を基盤として、2023年度以降では、(1)「前向き尺度」の信頼性・妥当性の検討、(2)心理・脳・身体の多次元計測実験を予定している。それらの調査・実験の成果をもとに、身体情報から主観的な「前向き」を推定する「Body2Positive」を試作し(Fig.4)、個々人の「前向き」をアシスト・訓練できる技術へと繋げていく予定です。

Fig.4 今後の展開
Fig.4 今後の展開