成果概要

逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現2. 前向きアシストと訓練

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは、持続的な「前向き」要素向上を可能にする訓練技術、「前向き」要素向上を補助するためのアシスト技術を開発します(Fig. 1)。個人の状況に合わせた形で使用可能な「前向き」アシスト・訓練・教育技術の確立を目指します。

Fig. 1「前向き」アシスト・訓練の概要
Fig. 1「前向き」アシスト・訓練の概要

2.2022年度までの成果

計画初年度となる2022年度は、「前向き」アシスト・訓練のための技術基盤構築や、次年度以降の本実験開始に向けた予備実験の実施に注力しました。

● 「前向き」アシスト・訓練のための技術基盤の構築

実験室内で自然な歩容を計測するためにトレッドミル上での歩行と連動した形で映像が投影されるCG(computer graphics)を作成しました(Fig. 2a)。当該CG映像を使用することで、実験室内にも関わらず、森の中を歩いているような体験ができます。また、CG映像の利点を生かし、「前向き」操作候補となる視覚刺激を映像内に実装しました。

● 身体への介入に向けた技術基盤の構築・予備実験

こころの「前向き」と身体の関係性検証の準備として山田真希子PI(量子科学技術研究開発機構、以下量研機構)、平尾貴大PI(量研機構)、佐渡夏紀PI(筑波大学)で連携し、脳波、視線行動、心電図、呼吸、歩容といった複数の生体信号を同時測定できる多次元計測環境を構築しました。また、佐渡夏紀PIは、姿勢の精細な評価法の確立を目指し、多数のモーションキャプチャーカメラ、フォースプレート、筋電図を使用する形で、歩行時の「前向き」に関わるバイオメカニクス的指標に焦点を当てた姿勢計測環境も構築しました(Fig. 2b)。予備的に歩容データの取得・解析を行い、計測精度を高めるための取り組みも進めています。
CG映像を使用した身体姿勢介入の予備的データも取得できました。CGの特徴を生かした形の視線誘導が身体姿勢および「前向き」要素に与える影響に関するデータを集めることができました。現在、解析を進めており、解析結果は、来年度以降の本実験の計画立案に生かされる予定です。

Fig. 2 (a) トレッドミルと連動し投影されるCG映像。(b) バイオメカニクス的指標に焦点を当てた歩行計測環境。
Fig. 2 (a) トレッドミルと連動し投影されるCG映像。(b) バイオメカニクス的指標に焦点を当てた歩行計測環境。

3.今後の展開

こころの「前向き」に対する介入効果検証を目的としたデータ集積を進める予定です。また、2022年度に構築した技術基盤を利用する形で、複数の生体信号を用いたバイオフィードバックシステムの構築を進めています (Fig. 3)。
さらに、来年度より、本研究開発テーマにおいて、南本敬史PI(量研機構)、井上謙一PI(京都大学)の研究が始動する予定です。両名は、脳内に⼈⼯受容体を埋め込み、⾃在に神経活動を操作する技術(Designer Receptor Exclusively Activated by Designer Drugs: DREADD)の研究に従事しており、サルを対象として薬理学的および化学遺伝学的な神経伝達物質操作がこころの「前向き」にどのような影響を与えるのか評価することができます。2050年のヒト応用を念頭に置いた斬新で効果的な「前向き」アシスト法に関する研究知見の集積が期待されます。

Fig. 3 構築予定のバイオフィードバックシステム
Fig. 3 構築予定のバイオフィードバックシステム