成果概要

多様な環境に適応しインフラ構築を革新する協働AIロボット3. 現場を俯瞰するセンサポッドシステム

2022年度までの進捗状況

1.概要

「協働AIロボットシステムによる多様な環境に適応したインフラ構築の実現」のためには、時々刻々と変化する環境情報を正確に取得し、その情報に基づいて環境の評価や予測を行う必要があります。特に、土砂災害現場では土質情報が非常に重要です。このような状況下での遠隔からの土質情報取得技術や、時々刻々と変動する環境情報の収集技術、また、そこから将来の環境推移を予測する技術は、これまでに実現されていませんでした。
そこで本研究開発テーマでは、まず、土質情報を含む環境情報や各建設ロボットの状況を取得するための要素技術を開発し、据置型センサシステム「センサポッド」を環境内に設置することを目指します(図1参照)。さらに、得られた情報を集約し、各建設ロボットに提供するシステムを構築します。また、この情報を解析して河道閉塞環境や土砂崩れ環境における地盤変動の未来予測を行う「環境評価AI」も構築します。
開発された技術は、地球上の自然災害等にも応用できます。

図1 センサポッドによる環境情報ならびに建設ロボットの作業情報の取得イメージ
図1 センサポッドによる環境情報ならびに建設ロボットの作業情報の取得イメージ

2.2022年度までの成果

2022年度には、九州大学によって、据置型センサシステム「センサポッド」の要素技術開発の一環として、2021年度に開発された振動波形の乱れを用いた地盤強度の推定手法の検証のためのフィールド実験が実施されました。この実験の結果、提案手法は、振動ローラーに取り付けた振動センサを使用する従来手法と比較し、地盤の固さの増加に従って収束する指標が顕著に計測できることがわかりました。また、複数のLiDAR搭載センサポッドを使用して、複数の建設ロボットの位置をリアルタイムで推定する技術の開発を行い、その推定に使用するアルゴリズムの動作確認実験を行いました。実験の結果、建設ロボットに見立てた複数の建設機械の位置をリアルタイムで追跡できることを確認しました。(図2を参照)

図2 複数のセンサポッドによる複数建設機械の位置推定
図2 複数のセンサポッドによる複数建設機械の位置推定

一方、奈良先端科学技術大学では、土壌表面の温度変化を利用して土壌内部の含水状態を推定する技術の開発に取り組み、曇天時などの日照が不安定な場合にも対応できる含水状態推定技術を開発しました。さらに今年度は、上述の技術を含む複数センシング機能を搭載したセンサポッド初号機の改良を行いました。これにより、ネットワークの通信障害に対する信頼性と動作安定性の向上を実現しました。
また、「センサポッド」から得られた環境データを利用した環境評価を行う技術の研究開発にも取り組んでいます。その一つ目は、河道閉塞が生じた際、配備した「センサポッド」が取得した地表面の変位データを使用し、堤体内部の状態を推定する技術です。2022年度には、これまでに構築した有限差分法による河道閉塞の「仮想現場モデル」を使用し、地下水位変動による変形解析と崩壊危険度解析の順解析PINN(Physics Informed Neural Network)および連続体弾性解析のPINNを構築し、その動作を確認しました。これにより、将来的には堤体の安定度を評価することが期待されます。二つ目は、災害環境の画像データからその災害の評価を行うAIの研究開発です。本研究では、画像記述において比喩表現を利用することが可能なV&L(Vision and Language)モデルと、その性能評価の方法を開発しました。現在、このAIフレームワークの妥当性を検証するために、過去の災害に対してこのフレームワークを適用し、斜面崩壊現場における画像-言語データセットの構築を進めています。さらに、Large Language Model(LLM)との連携を見据えて、ルールベースでの言語化を進めています。

3.今後の展開

本研究開発の2025年の目標は、空中から配置された「センサポッドシステム」を使用して災害環境の情報を収集し、環境評価を行いつつ、「協働AIロボット群」への情報提供を実現することです。そのため、2023年までには、これまでに研究開発を進めてきた様々なセンシング技術を「センサポッド」上に統合して、情報の集約と配信を行うシステムを構築します。また、環境評価や未来予測を行うための環境評価AIのプロトタイプも実現します。