成果概要
多様な環境に適応しインフラ構築を革新する協働AIロボット[5] 河道閉塞緊急調査のシステムインテグレーション
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本研究プロジェクトでは、「協働AIロボットシステムによる多様な環境に適応したインフラ構築」の実現を目指しております。ここでは、特に河道閉塞という自然災害現場で活用可能なロボットシステムの実現という具体目標を設定し、「河道閉塞緊急調査のシステムインテグレーション」「河道閉塞応急復旧作業のシステムインテグレーション」「河道閉塞対応を支える技術」の三分野で、研究開発を分担して進めています。一つ目の河道閉塞緊急調査では、現場の迅速な状況把握が必須ですが、河道閉塞災害で必要な情報としては、現場の画像情報のみならず、水位や地形形状、地盤強度などがあります。しかしながら、対象環境は通常山間部に存在するため、これらの情報を人が現地に入って取得することは容易ではありません。そこで、本プロジェクトでは、ドローン技術を中心とした各種データの遠隔収集技術の開発ならびに、このデータを集約するシステムの実現を目指すこととしました。河道閉塞環境における緊急調査技術ならびに、データを集約するシステムの概観を図3に示し、以下に、2024年度の「河道閉塞緊急調査のシステムインテグレーション」の主要な成果について記します。

2. これまでの主な成果
本研究開発項目では、2024年度、プロジェクト概要の図1に記した河道閉塞災害対応シナリオの緊急調査/モニタリング(上段)の技術開発を統合した緊急調査システムを構築すると共に、実フィールドにおける情報取得試験を実施しました。
このシステムは、ドローン空撮で取得する画像/三次元地形情報収集技術(国際航業株式会社が担当)、ドローンによる遠隔設置による湛水部の水位/水深調査技術(東京大学が担当)、ドローンによる遠隔設置による地形変位調査技術(千葉工大が担当)、河道閉塞崩壊部リスク評価(東京大学/理化学研究所が担当)により構成されます。さらに、取得されたデータや評価結果は、Cesium(Cesium GS, Inc. が提供する3D地図プラットフォーム、国土交通省のPLATEAU:日本全国の都市デジタルツイン実現プロジェクトにも採用)を用いた情報共有プラットフォームに集約します。構築したシステムを検証するため、2024年10月、中越の芋川にて、ドローン空撮試験やドローンによるセンサデバイスの配備ならびにデータ取得の実験を実施しました。特に、湛水部の水位/水深調査デバイスについては、400m以上離れた離着陸地点より、ドローンによるデバイスの自動運搬、着水/アンカーによる固定、データ送信という一連の試験に成功し、Technical Readiness Level 5(TRL5:模擬的な環境下にて、技術・システムの基本的な機能・性能が実証された状態)をクリアしました(図4)。なお、この試験で得られたデータについても、情報共有プラットフォームに集約し、データの可視化を行いました。結果を図5に記します。この例では、実験を行った中越芋川の三次元地形上に、設置した水位センサから得られた時系列データを可視化したものを示しています。


また、ドローン空撮で取得した画像情報を分析し、画像情報より、AIを用いて対象とする河道閉塞崩壊部の崩壊リスク評価(生じ得る二次災害と、その生じやすさを定性的に出力)を行うシステムを開発し、情報共有プラットフォームに統合しました。一般に、AIを活用するシステムは、学習データを大量に必要としますが、本研究開発で対象とする斜面崩壊については、専門的知識を必要とする分析タスクが必要であり、そのためのデータが大量には存在しません。そのため、従来のLLM(Large Language Model)やVQA(Visual Question and Answering)を用いたシステムでは、斜面崩壊リスクに関する適切な評価を行うことができませんでした。そこで、本研究プロジェクトでは、AIの学習に適した斜面崩壊リスクに関するデータセットを新たに作成すると共に、少ない学習データから専門知を効率よく学習し、斜面崩壊リスクを評価するAIシステムを新たに構築しました。このシステムを、過去に斜面崩壊を起こした写真に適用したところ、災害種別や原因の同定ならびに将来リスクについて、従来手法と比較し高い性能を有することが分かりました。
3. 今後の展開
本プロジェクトの2030年の目標は、自然災害環境に代表される多様な環境におけるインフラ構築を実現することであり、 2025年目標は自然災害の模擬環境で、これを実現することです。そこで2025年には緊急調査技術のシステム統合を完了し、夏には、九州大学内の河道閉塞模擬環境においてデモンストレーションを実施することで、提案する緊急調査技術のTechnical Readiness Level 5(模擬的な環境下において、技術・システムの基本的な機能・性能が実証された状態)を達成する予定です。