成果概要

多様な環境に適応しインフラ構築を革新する協働AIロボット1. 土工を革新するAIロボットシステム

2022年度までの進捗状況

1.概要

本プロジェクトの目標は、「協働AIロボットシステムによる多様な環境に適応したインフラ構築」の実現です。この目標を達成するには、(自然災害現場に代表される)刻一刻と変化する環境下でも動作するシステムが必要です。しかしながら、これまでの機械設計の思想は、使用環境を限定したものでした(図1左)。そこで本研究開発テーマ「土工を革新するAIロボットシステム」では、このシステムを実現するために「開いた設計」(図1右)という設計法の体系化を進めながら、革新的な土工作業技術、革新的なロボット移動技術、ロボットプラットフォーム開発、河道閉塞対応技術の開発、月面着陸拠点構築技術というサブ課題を設定し、研究開発を進めています。以下では、令和4年度における本研究開発テーマの主要な成果について記します。
開発された技術は、地球上の自然災害等にも応用できます。

図1 閉じた設計と開いた設計
図1 閉じた設計と開いた設計

2.2022年度までの成果

革新的な土工作業技術では、大阪大学のグループが河道閉塞などの災害時に排水ホースを遠隔設置可能な、排水ホース敷設ロボットの研究開発を進めました。河道閉塞とは、地震や豪雨によって土砂崩れが起こり、それが川の流れを堰き止めて天然のダムを形成する現象です。川の水の供給継続により起こる天然ダムの崩壊に伴う土石流を防ぐためには、上流側の湛水を下流域に移動させる必要があります。現状、水路工事が完了するまでの間は、排水ホースが使用されていますが、その設置は非常に不安定で危険な環境下で人手によって行われています。この問題を解決するため、不安定な環境において、遠隔で排水ホースを設置できる「i-Centipot Hose」試作機を開発しました(図2)。

図2 排水ポンプ敷設ロボット i-CentiPot-Hose試作機
図2 排水ポンプ敷設ロボット i-CentiPot-Hose試作機

このロボットは、クローラロボットを用いて排水ポンプとホースの運搬を行いますが、大きな特徴は、ホースを引きずる際に生ずる地面との摩擦を軽減するため、複数の小型ロボットが間に入ってホースを支えながら、環境との相互作用を利用しつつ、運搬を補助する点です。このロボットは、国際会議IROS2022の展示ブースでデモンストレーションも実施され、コンセプト実証が行われました。
また、月面着陸拠点構築用のロボットプラットフォームの改良も進めました。月面の低重力環境下では、地球上の転圧とは異なり、ローラの自重を用いた締固め効率が低下すると考えられます。そのため、図3に示すように、小型ロボットプラットフォームの直下に転圧ローラを搭載し、車両自体の重量も転圧に活用できる、転圧の力制御も可能な機構を開発しました。これにより、低重力環境でも、効果的な締固めが実現できると期待されます。

図3 転圧ローラ搭載型 月面着陸拠点構築用プラットフォーム
図3 転圧ローラ搭載型 月面着陸拠点構築用プラットフォーム

ここには、今年度の成果のごく一部しか掲載できませんでしたが、この他にも、「クローラ形状を変更することが可能な柔軟双胴クローラの機能検証機」、「アーム先端の精密制御が可能な3tクラスの電動型ツール交換ロボット」、「水没対応も可能な排水ポンプ設置を行う3tクラスの小型油圧ショベル」ならびに、「地形計測および水文観測用の遠隔設置型センシング機器」の開発も行いました。

3.今後の展開

本研究プロジェクトの2025年の目標は、複数台の小型ロボットを使用して、環境が時々刻々と変化する状況下でも目標とする土工作業を実現することです。そのため、2023年までに、「土工を革新するAIロボットシステム」というテーマの中で考案した新しいロボットのアイデアに基づき、複数のプロトタイプロボットを製作し、模擬環境において性能評価試験を進めていく予定です。