成果概要
多様な環境に適応しインフラ構築を革新する協働AIロボット[1] 土工を革新するAIロボットシステム
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本プロジェクトの大目標は、「協働AIロボットシステムによる多様な環境に適応したインフラ構築」の実現です。この目標を達成するには、(自然災害現場に代表される)刻一刻と変化する環境下でも動作するシステムが必要です。しかしながら、これまでの機械設計の思想は、使用環境を限定したものでした(図1左)。そこで本研究開発項目「土工を革新するAIロボットシステム」では、変化する環境でも動作するシステムを実現するため「開いた設計」(図1右)という設計法の体系化を進めながら、革新的な土工作業技術、革新的なロボット移動技術、ロボットプラットフォーム開発、河道閉塞対応技術の開発、月面着陸拠点構築技術というサブ課題を設定し、研究開発を進めてきました。以下では、令和5年度における本研究開発項目の主要な成果について記します。

2. これまでの主な成果
研究開発項目「革新的な土工作業技術」では、大阪大学のグループが河道閉塞などの災害時に排水ホースを遠隔設置可能な、排水ホース敷設ロボットの研究開発を進めました。河道閉塞とは、地震や豪雨によって土砂崩れが起こり、それが川の流れを堰き止めて天然のダムを形成する現象です。川の水の供給継続により発生する天然ダムの崩壊に伴う土石流災害を防ぐためには、上流側の湛水を下流域に移動させる必要があります。現状、水路工事が完了するまでの間は、排水ポンプが使用されていますが、その設置は非常に不安定で危険な環境下で人手によって行われています。この問題を解決するため、遠隔での排水ホース設置の実現を目指した「i-Centipot Ammonite」試作機を開発しました(図2)。

このロボットは、クローラロボットを用いて排水ポンプとホースの運搬を行います。大きな特徴は、ホースを引きずる際に生ずる地面との摩擦を軽減するため、蛇腹のホースを空気圧で伸ばす機能を有する点です。このロボットは、九州大学フィールドにおける実証試験でデモンストレーションが実施され、コンセプト実証が行われました。
また、精密作業を実現するため、電動モータ駆動のアームを備えた建設ロボットを開発しました。このロボットは、掘削動作のみならず、アーム先端の力覚制御を行うことができるため、楊重アシストやU字溝設置などを可能とします。さらに、パワーソフト技術を活用した、物体に絡みつくことで把持が可能なグリッパを、この建設ロボットの手先へ搭載しました。これにより、ロボットは、様々な形状の物体を把持することが可能となります。このロボットならびにパワーソフトグリッパの動作検証は、2023年夏の九州大学フィールドにて実施しました(図3)。この実験において、コンクリート柱や流木の把持を行い、このグリッパの有用性確認を行いました。

以上が、今年度のハードウエアに関する成果の一部のご紹介ですが、この他にも、「クローラ形状を変更することが可能な柔軟双胴クローラの機能検証機」や、「水没対応も可能な排水ポンプ設置を行う3tクラスの小型油圧ショベル」、「地形計測および水文観測用の遠隔設置型センシング機器」等の要素技術開発を行いました。
3. 今後の展開
本研究プロジェクトの2030年の目標は、複数台の小型ロボットを使用して、時々刻々と変化する状況下における災害応急復旧作業を実現することです。そのため、2025年までに、これまでに開発した要素技術を統合したシステムを用いて、模擬環境における災害対応デモンストレーションを実現する予定です。