成果概要

恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服[4][5] 数理モデル解析による恒常性の理解とその応用、糖尿病や併発疾患の未病段階の理解とデータ基盤の構築

2024年度までの進捗状況

1. 概要

2つの研究開発項目(項目4と5)は、プロジェクトの中で、(i)2型糖尿病や併発疾患である心不全を中心に、正常状態や未病段階から疾病状態への移行について、経時的に様々なデータを収集する(項目5)、(ii)これらの動物実験データ、ヒト生体データを用いて、数理モデル解析を進め、重要要素の抽出による包括的な理解につなげる(項目4、下図参照)という役割を担っています。これらの研究開発テーマの達成により、数理モデルをもとに実験科学だけでは見出し得ない機序の発見やターゲットの創出につなげ、真に重要なメカニズムを明らかにします。

健康→未病→病気
https://www.moonshot-katagiri.proj.med.tohoku.ac.jp/research.html

この達成に向けては、数理科学者と医学、生物学の研究者との密な連携が課題となっており、この点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。従来とはまったく異なる、実験・データ取得とモデル解析を連動させるという発想で、生化学、遺伝子発現解析、エピゲノム、メタボローム、臓器別機能解析、数理モデル解析など種々の手法を用いて取り組んでいます。

2. これまでの主な成果

(1) 経口糖負荷試験シミュレーターの実装

手軽にパラメータ操作できる9コンパートメントモデルを用いた経口糖負荷試験シミュレーターを開発しました。このシミュレーターにより様々なパラメータ変化によって血糖値やインスリン濃度の変化や各臓器の代謝状態を評価することが可能になりました。

(2) 甘いもの好きの人の肥満を抑える腸内細菌の発見

ヒト健常者および肥満症患者の便検体を指標に、砂糖(スクロース)誘発性の肥満を抑制するバイオマーカーとして、難消化性菌体外多糖(EPS)を高産生するヒト消化管常在細菌の1種であるStreptococcus salivariusを特定しました。食物繊維様物質であるEPSやEPS産生菌は、腸内環境の改善を指標とした糖尿病等を含む肥満症を超早期の未病段階で検出する技術や、新しいタイプの肥満予防・治療に繋がることが大いに期待されます。

京都大学とJSTとのプレスリリース(2025年1月31日)
(3) 脂肪における熱産生を上げることで太りにくくなる新規抗肥満薬候補の発見

脂肪細胞での熱産生を亢進させる化合物の探索から動物実験にて抗肥満効果が発揮される化合物を見出しました。体重の減量につながるだけでなく、肥満やメタボリックシンドロームに関連する糖尿病や脂質異常症、脂肪肝など様々な疾患への治療応用が期待されます。

岩手医科大学のプレスリリース(2024年1月24日)

3. 今後の展開

今後は、引き続き健常マウスから糖尿病マウスへと遷移するマウスデータを9コンパートメントモデルに適用し、糖尿病特異的に変化する代謝変化を捉え、その代謝変化を起こす主要因子パラメータを見つけることに挑戦します。これにより、マウスにおける糖尿病発症のメカニズムを数理科学的に明らかにします。
また、未病解析データを用いた数理モデリングの構築のため、腸内細菌叢と肥満の関係に注目した数理モデリングに挑戦します。これにより、健康から病気へと推移するパラメータを捉え、未病の候補となる因子を探索します。