成果概要

恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服[2] 糖尿病における多臓器変容メカニズムの解明と制御

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目は、プロジェクトの中で、糖尿病における多臓器変容(下図参照)のメカニズムの解明と制御法の開発に向けた研究を担っています。この研究開発テーマの達成により、糖尿病併発疾患の予防・診断・治療法が開発され、本プロジェクト、目標2に貢献します。
この達成に向けては、心・肝・脳・腎などの臓器や血管において、臓器の変容を機能・形態の両面から解析すること、さらに、炎症細胞などの制御機構との関連やケトン体の投与効果などの検討が課題となっており、これらの点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。従来とはまったく異なる、併発疾患の間には密接な相互作用が関与するという発想のもと、シングルセルRNAシークエンス、フローサイトメトリー、二光子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、光シート顕微鏡、組織透明化技術などの手法を用いて取り組んでいます。

糖尿病合併症・併存症

2. これまでの主な成果

(1) 心不全の再発と多病のメカニズムを解明

糖尿病の主な併発疾患として知られる心不全は、「一度心不全を発症すると、入退院を繰り返す」、「他の病気にも影響する」という特徴をもっています。このような心不全の再発、多病のメカニズムを明らかにした画期的な成果です。
心不全の際に、そのストレスが脳や神経系を介して、造血幹細胞に蓄積されます。ストレスが蓄積した造血幹細胞から様々な臓器に供給される免疫細胞は、各臓器の保護作用を失い多臓器不全が生じます。心不全の再発予防法、新しい治療法の開発につながり、生命予後の改善に貢献することが期待されます。

東京大学、千葉大学とJSTとのプレスリリース(令和6年5月25日)
(2) ケトン体産生とサルコペニア発症の関連を発見

腎臓の近位尿細管でのケトン体産生低下が高齢者での尿濃縮力低下とともに、糖尿病併発疾患であるサルコペニアの発症にも関わる可能性を示した成果です。

(3) 脂肪組織における形質芽細胞の存在を発見

肥満マウスの精巣上体脂肪のBリンパ球から炎症性疾患に強く関与する形質芽細胞を検出しました。また、免疫細胞の移動を司るケモカイン受容体の新たなシグナル伝達分子COMMD3/8複合体の阻害薬、セラストロールが形質芽細胞の生成を抑制することが明らかとなりました。セラストロールは抗肥満作用および耐糖能改善作用を有することから、COMMD3/8複合体の機能阻害が、糖尿病の病態を制御できる可能性があります。

大阪大学とJSTとのプレスリリース(令和5年3月22日)

3. 今後の展開

今後は、高脂肪食負荷による造血・免疫系への影響を明らかにするため、心臓組織マクロファージ、造血幹細胞、末梢血のシングルセルRNAシークエンス解析に挑戦します。これにより、代謝異常がどのように造血・免疫系へ作用するのか、そのシグナル経路を含む機序を明らかにし、糖尿病併発疾患の診断・治療標的の同定につなげます。
また、腎臓でのケトン体産生とサルコペニア発症との関連をさらに解明するため、近位尿細管でケトン体を過剰に発現するマウスを作製し、サルコペニア改善が起こるかという解析に挑戦します。これにより、ケトン体代謝を標的とした糖尿病併発疾患の予防・治療の可能性を探索します。
さらに、肝類洞内皮細胞の篩板孔の役割を解明するため、篩板孔の大きさや数のより詳細な解析とその制御機序の解明に挑戦します。これにより、食後血糖値を決定するメカニズムとして、篩板孔の大きさや数の関与の有無を明らかに出来ると考えられます。