成果概要

恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服[2] 糖尿病における多臓器変容メカニズムの解明と制御

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目は、プロジェクトの中で、糖尿病における多臓器変容(下図参照)のメカニズムの解明と制御法の開発に向けた研究を担っています。この研究開発テーマの達成により、糖尿病併発疾患の予防・診断・治療法が開発され、本プロジェクト、目標2に貢献します。
この達成に向けては、心・肝・脳・腎などの臓器や血管において、臓器の変容を機能・形態の両面から解析すること、さらに、炎症細胞などの制御機構との関連やケトン体の投与効果などの検討が課題となっており、これらの点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。従来とはまったく異なる、併発疾患の間には密接な相互作用が関与するという発想のもと、シングルセルRNAシークエンス、フローサイトメトリー、二光子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、光シート顕微鏡、組織透明化技術などの手法を用いて取り組んでいます。

糖尿病の主な併発症

2. これまでの主な成果

(1) 心不全の再発と多病のメカニズムを解明

糖尿病の主な併発疾患として知られる心不全は、「一度心不全を発症すると、入退院を繰り返す」、「他の病気にも影響する」という特徴をもっています。このような心不全の再発、多病のメカニズムを明らかにした画期的な成果です。心不全の再発予防の開発につながります。

東京大学、千葉大学とJSTとのプレスリリース(2024年5月25日)
(2) マウス臓器の透明化と解析のプロトコルを確立

糖尿病における多臓器変容を解明するため、多臓器全細胞アトラスを作成し、解析のプラットフォームを完成しました。これを活用して、糖尿病モデルマウスで超早期に生じる形態的変化などを網羅的に解析します。

理研のプレスリリース(2024年12月3日)
(3) 脂肪組織における形質芽細胞の存在を発見

肥満マウスの精巣上体脂肪のBリンパ球から炎症性疾患に強く関与する形質芽細胞を検出しました。また、免疫細胞の移動を司るケモカイン受容体の新たなシグナル伝達分子COMMD3/8複合体の阻害薬、セラストロールが形質芽細胞の生成を抑制することを明らかにしました。セラストロールは抗肥満作用および耐糖能改善作用を有することから、COMMD3/8複合体の機能阻害が、糖尿病の病態を制御できる可能性があります。

大阪大学とJSTとのプレスリリース(2023年3月22日)

3. 今後の展開

今後は、高脂肪食負荷による造血・免疫系への影響を明らかにするため、心臓組織マクロファージ、造血幹細胞、末梢血のシングルセルRNAシークエンス解析に挑戦します。これにより、代謝異常がどのように造血・免疫系へ作用するのか、そのシグナル経路を含む機序を明らかにし、糖尿病併発疾患の診断・治療標的の同定につなげます。
また、肝細胞でのインスリン作用や糖取り込みとその協調で行われるグリコーゲン合成を効率よく進め、食事由来のブドウ糖の末梢血流入を減らすことが糖尿病の予防・治療に重要です。肝での糖取り込み制御に関わるメカニズム解明から制御法開発につなげます。