成果概要
恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服[1] 臓器間ネットワークによる恒常性メカニズム解明と治療・診断法の開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目は、プロジェクトの中で、(i)代謝や循環の恒常性を維持する臓器間ネットワーク機構(下図参照)の解明、(ii)それを基に糖尿病や併発疾患に対する新たな予防・診断・治療法の開発を担っています。この研究開発テーマの達成により、生物が本来備えている臓器間ネットワークの仕組みを利用した糖尿病の予防・診断・治療法が開発され、本プロジェクト、目標2に貢献します。
この達成に向けては、臓器間をつなぐ求心性神経、中枢神経、遠心性神経の情報伝達に関わる分子やその制御メカニズム解明のための詳細な解析が課題となっており、この点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。従来とはまったく異なる、神経系を介した臓器間ネットワークを用いた糖尿病の予防・診断・治療法開発という発想で、シングルセルRNAシークエンス、オプトジェネティクス、fMRI、人工神経接続、血漿リピドミクスなどの手法を用いて取り組んでいます。

2. これまでの主な成果
(1) 膵臓の神経刺激でインスリン産生細胞が増加
臓器間ネットワークの制御や膵臓への迷走神経刺激が糖尿病予防・治療法となるPOCを示した重要な成果です。

(2) 加齢による中年太りの仕組みを解明
脳の神経細胞が持つ一次繊毛の長さが「痩せやすさ」を決定し、それが加齢や過栄養によって短くなることが中年太りの原因になることを明らかにした成果です。肥満に起因する糖尿病など様々な生活習慣病の未病段階での予防法や治療法の開発につながることが期待されます。

(3) 細胞増殖を生きたまま観察できるマウスの開発
必要なときにごく少量の採血をするだけで、増殖している細胞を生きたまま観察できるマウスを開発した成果です。インスリン産生細胞を増やす糖尿病の再生治療や、がん細胞の増殖を抑える薬剤開発など、さまざまな疾患における治療法の研究への応用が期待されます。

3. 今後の展開
今後は、マウスで得られた迷走神経刺激の結果をヒトで検証するため、迷走神経刺激装置を埋め込んだてんかん患者での糖代謝解析に挑戦します。これにより、迷走神経刺激を用いた糖尿病の予防・治療法の開発につなげます。
また、求心性神経活性化の分子機序の解明と化合物による制御に向け、求心性神経を活性化し膵β細胞の増殖、基礎代謝の増加、血圧の変動などを制御する分子をスクリーニングすることに挑戦します。これにより、化合物による糖尿病や併発疾患の予防・治療法の開発につなげます。