成果概要

生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化[4] 生体内CAの基礎研究・技術

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、生体内サイバネティック・アバター(生体内CA)に関連する競合技術、新規技術の動向を把握することを目的としています。生体内CAの動向に基づき、現行のコンセプト・計画を適切な状態にアップデートします。消化器系を対象とした生体内CAで想定していない課題が顕在化した場合、それを解決する要素技術の調査・特定、適宜コンセプト改良、実現可能性実験を行います。また、消化器系以外の循環器系・脳神経系などを対象とした生体内CAについて、それらの社会課題、要求仕様、技術的制約条件、要素技術課題の特定、課題解決のためのコンセプト設計や、消化器系を対象とした生体内CA技術とのギャップ・不足技術、競合技術・新規技術動向を整理します。異なる社会課題を想定した新規コンセプトを考案するため、必要に応じて要素技術や統合化技術の実現可能性実験を行います。例えば、高齢化に伴い、異常となるリスクが増大します。それらの予防・診断・健康維持などにも生体内CA技術は貢献できると考えられます。これらに必要な要素技術、生体内CA技術とのギャップ・不足技術を明らかにし、適宜コンセプト設計、実現可能性実験を行います。
これまで、競合技術、新規技術の動向を把握するため、最新の論文誌の精査や、学会等への参加により、調査活動を行いました。これまでの調査結果により、消化器系で起こる物理・化学反応に基づく相互作用をデジタル情報変換するインタフェースの重要性が高まりました。この基盤技術を構築する上で、人の健康維持に大きく関与するIgA抗体に着目しました。図1に示すように、IgA抗体は善玉菌と悪玉菌を見極めて悪玉菌が増えすぎないように制御します。IgA抗体は、粘膜防御の要であり、外敵の侵入しやすい粘膜を守っています。IgAがないと腸内環境が悪化(dysbiosis)し、免疫が過剰に活性化=慢性炎症を引き起こすといわれ、IgA抗体の重要性が指摘されています。特に高齢者の腸管IgA抗体は、病原性や炎症性を起こす細菌が属しているエンテロバクテリアッセへの反応が弱いといわれています。このような理由から、IgA抗体に着目し、腸炎惹起菌の分布を可視化する研究を2024年度からスタートしました。

図1
図1 IgA抗体の役割

2. これまでの主な成果

国内外の学会講演会や、最新の論文誌の精査を進めました。生体内CAのコンセプトに類似するような研究事例や、本プロジェクトの計画を大きく変える影響を有するような研究事例は見つかっていませんが、生体内CAと関連するカプセル型デバイスにおいて高機能化が進んでいます。論文誌の調査においては、柔軟磁性体コンポジットによる磁気駆動ロボットの研究例が増えています。また国際学会2024 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2024), Yokohama, Japanに参加し、関連研究の調査と、将来、生体内CAの要素技術に関連する研究発表を行いました。生体内CAに不足している技術としては外部制御による移動機構が挙げられます。生体内CAの駆動技術が今後重要になるため、新規コンセプトの提案準備を進めました。
また、腸炎惹起菌の分布を可視化するための基礎技術の研究開発として、腸炎惹起菌を選択的に認識し結合するIgA抗体クローン候補を蛍光標識し、腸管内でのIgA抗体の分布を可視化するための基礎研究を行いました。特定の腸内細菌により誘導される慢性炎症が、大腸がんの原因の一つであることがわかってきました。

3. 今後の展開

今後も、生体内CAに関連する現行の競合技術・新規技術に関する技術調査を行い、不足技術の有無、解決案を検討します。必要に応じて、生体内CAのコンセプト・計画をアップデートし、消化器系以外を対象とした生体内CAへの適用可能性も検討します。
また、腸炎惹起菌の分布を可視化する研究を加速します。生体内CA技術と組み合わせることで、早期大腸がん病変の検出につながることが期待されます。