研究開発の概要
生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化
1.プログラムにおける位置づけ
2050年の社会像として、安全安心とゆとりある日常生活を実現することをめざしています。安全安心で健康な日常生活を維持することにも役立ち、生産性の効率だけで生まれる物質的な豊かさだけでなく、余暇や非効率などの精神的な豊かさ、ゆとりとのバランスを保つことにも役立つ社会を実現します。
人の幸福には、身体的・精神的・社会的にも良好な状態を保つこと、つまり、ウェルビーイングが大切です。なかでも心と体を健康に保つことは幸福な生活を維持する上でかかせません。本プロジェクトでは、生体内においてミリ・マイクロ・ナノスケールで動作し、体内温度やpHなどの生体内の情報を取得し、薬を局所的に投与することが可能な生体内サイバネティック・アバター(生体内CA)を実現します。これによって、例えば、時空間的に変化する体内環境の情報をモニタリングしてわかりやすく把握することが可能となります。これを健康見守りに応用すれば、自宅にいながらできる新しい健康モニタリングや診断法が実現します。
生体内CAを実現することで、心と体の健康維持の面において、日常生活が変革される安心社会を実現します。
2.研究開発の概要及び挑戦的な課題
生体内CAとは、安全・安心に外部から遠隔操作して、臓器内や消化器系などの体内の状況を把握し、生体内で相互作用が可能なCAです。生体内CAは、
- 生体内においてミリ・マイクロ・ナノスケールで動作し、生体内情報を取得するための小型CA群
- 小型CA群を遠隔操作して得られる生体内情報を構造化し、個人と一緒に変化・成長する時空間体内環境情報に拡張して呈示する情報システム を統合したものです。
本プロジェクトでは、まずは消化器系を対象としています。消化器系は、健康維持にとって重要であるだけでなく、口や肛門から消化管を介して患部、臓器や細胞に到達でき、ミリ・マイクロ・ナノスケールを包含した生体環境であるためです。消化器系を対象とした小型CA群は以下に示す4つの機能を有するものです。
- 測る(温度,pHなど)
- 届ける(薬,有用細菌など)
- 取り除く(細胞・組織,腫瘍など)
- 取り出す(細胞,細菌叢,分泌物など)
与えられたミッションに応じて、適切な機能デザインが必要です。生体内CAの形状としては、カプセル型、ヘリカル・リング型、ステント型があります。
また、遠隔操作のバリエーションとして、「分散遠隔操作」(分散CA)と「協調遠隔操作」(協調CA)に分類できます。分散CAは、CA単独で生体内の環境状態を計測する機能をもち、複数体が別々の位置で生体内時空間情報を分散して計測できます。一方、協調CAは、複数体の小型CAが互いに協調動作して、細胞や組織などの採取や生体組織診断に必要な判断・処置、生体内時空間情報の計測などを行うことができます。
3.今後の展開
本プロジェクトでは、以下を達成することをめざします。
- 健康状態を詳細に把握するための、健康モニタリング法の確立。
- 誰もがいつでもどこでも、医師や専門家に見守られるための技術の確立。
- 生体内CAで知識拡張し、安全、安心、ゆとりを生むための技術の確立。