成果概要
生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化[1] 生体内CAの構築
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目では、生体内サイバネティック・アバター(生体内CA)を実現するために必要となる小型CAの主な機能にかかわる要素技術の研究開発を行います。また、応用課題として、分散遠隔操作による生体内CA(分散CA)および協調遠隔操作による生体内CA(協調CA)に対して、システム統合を念頭において、設計、試作、基礎実験を行います。これまで、生体内CAに必要となる要素技術の研究開発を行ってきました。また、上記の応用課題に対して、システム統合に必要な要素技術を開発しました。
2. これまでの主な成果
分散CA では、ヘリカル・リング型の例として、Shape Memory Polymer(SMP)製ヘリカル構造体を用いた基本構成を示し、ジュール加熱により展開する機構を実証しました。また、ステント型の実装技術として、新規材料を被覆膜としてステントに固定する技術を開発しました(図1)。
協調CA では、Endoscopic Submucosal Dissection/内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を想定し、内視鏡先端に固定した足場モジュールを協調動作させるシステムによって、剥離する組織の牽引動作が有効に作用することを確認しました(図2)。足場の固定方法としてはバルーン形状やらせん形状を試作し、固定力を評価しました。臓器モデルを用いた評価実験により、牽引動作の効果が医師によって確認されました。また、牽引動作による局所的なひずみの計測は、画像計測による方法を提案し、有効性を確認しました。


小型CAに共通する技術として、バイオマテリアル技術、センシング技術、位置計測技術を開発しました。
バイオマテリアル技術として、小型CAの表面の樹脂材料に表面グラフト共重合を実施することで、生体内CAを固定するための表面修飾技術を開発し、小型CAの体内固定技術として有効性を確認しました。また、新規光架橋性ゲルを作製し、フィブリン糊と同等以上の組織接着性を有することを示しました。
センシング技術として、超低待機電力 CMOSプロセスを用いて、消費電力0.9 pWでの温度・pHセンシングを達成し、世界最高クラスの性能を達成しました。今後の低消費電力生体内センシングの発展に寄与すると期待できます。このセンサチップのpH感度を測定するため、半導体集積回路上にシリコンナイトライド膜を保護膜として用いてpHを計測する技術を開発し、超純水と胃酸模擬溶液を判別することに成功しました。さらに、生体適合膜を搭載することにも成功しました。
また、CMOSプロセスを用いて、温度センシング・無線データ送信を達成しました。(図3)。これらは全てサブ平方mm角の回路面積に収め、小型集積化を達成しました。

位置計測技術については、11.3 MHz帯の受信磁界を位置測定に用いたシステムを構築し、送受信間距離160 mmまでの範囲で、位置推定の二乗平均平方根誤差10 mm以下を達成しました。また、複数の生体内CAの同時位置計測に関して、信号到来時間(TOA: Time of Arrival)方式に信号分離技術を適用し、目標推定精度1 cmでの複数生体内CAの同時位置推定方式を実現しました。
3. 今後の展開
生体内での健康モニタリング、診断技術の開発において、時空間的な制約が大きな課題です。ミリ・マイクロ・ナノスケールの小型CAの構築に必要な要素技術が開発できました。システム統合に向けたチャレンジングな技術課題も含めて、今後もシステム統合を念頭において、要素技術の研究開発を継続し、設計、試作、基礎実験を行っていきます。