成果概要

生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化[1] 生体内CAの構築

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、生体内サイバネティック・アバター(生体内CA)を実現するために必要となる小型CAの主な機能にかかわる要素技術の研究開発を行います。また、応用課題として、分散遠隔操作による生体内CA(分散CA)および協調遠隔操作による生体内CA(協調CA)に対して、システム統合を念頭において、設計、試作、基礎実験を行います。これまで、生体内CAに必要となる要素技術の研究開発を行ってきました。また、上記の応用課題に対して、システム統合に必要な要素技術を開発しました。

2. これまでの主な成果

分散CAでは、生体内で利用する際の考えうる形態を分類し、体内環境を動的かつ正確に計測、モニタリングし、必要に応じてピンポイントに投薬する技術課題を明確化しました。カプセル型、ヘリカル・リング型、ステント型に関して基盤的な技術を開発し、体内環境を動的かつ正確に計測、モニタリングし、必要に応じてピンポイントに投薬するために必要な、デバイス、計測、通信、加工、材料等のハードウェアを開発しました。
センシング技術としては、世界最小クラスのサイズ・消費電力での温度・pH・画像センシング技術の開発に成功しました。ステント搭載に向けて、0.3 mm角以下の温度・pHセンシングを開発しました。22nm ULL(超待機電力) CMOSプロセスを用いて、0.000005 mm2と世界最小クラスの温度・pHセンシング回路の開発に成功しました。
生体内CAの位置計測に関しては、準静磁界を磁気インピーダンスセンサにより高感度に測定する位置計測システムを試作し、1 cm以下の位置計測精度が達成できました(図1)。さらに、複数の生体内CAの位置計測のため、準静磁界の信号を効果的に分離する信号技術を開発し、有効性を確認しました。

図1 図1
図1 位置計測の概念と磁気インピーダンスセンサ

ステント型CAへのピンポイント投薬システムに実装可能なサイズが200 nm以下の薬物キャリアを開発し、抗がん剤を80%以上の内封率で封入することに成功しました。
分散CAの実施形態の1例として、65nm LP(低消費電力) CMOSプロセスを用いて、胃酸充電型pH・温度モニタリング機能付きデジタル錠剤(図2)の開発に成功しました。チップ面積については、米国で実用化済みの服薬モニタリング用デジタル錠剤と同等の1 mm角を実現しました。消費電力は極めて小さく、従来の全集積型無線送信機能付きセンサチップと比較して世界最小クラスを達成しました。
協調CAでは、通常では採取が困難な組織・細胞の生体組織診断のための機構、計測、制御、通信、エネルギー供給、材料などに関して基盤的な技術を開発しました。牽引機構を用いて組織を採取する際の操作性を向上するための基礎技術を開発しました(図3)。また、これを体内無線通信で遠隔操作する技術を開発し、ブタによる動物実験により通信評価を行いました。

図2
図2 温度センシング・無線データ送信デバイス
図3 図3
図3 協調CAによる体内操作:牽引力の調整と視野拡張

3. 今後の展開

生体内での健康モニタリング、診断技術の開発において、時空間的な制約が大きな課題です。ミリ・マイクロ・ナノスケールの小型CAの構築に必要な要素技術が開発できました。システム統合にも着手しました。今後も要素技術の研究開発を継続し、システム統合を進めます。