成果概要

生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化[2] 時空間体内環境情報の構造化と遠隔操作

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、個人の生体情報と履歴情報(診療、服薬他)が紐づいた、生体内の“時空間体内環境情報”を、わかりやすく提示する技術の研究開発を行います。また、小型サイバネティック・アバター(小型CA)群を自由自在に操作するために、操作性に優れたインタフェースの技術の研究開発を行い、評価に必要な患者シミュレーション環境を設計し、試作します。これまで、生体内の環境状態や生体内の振る舞いを詳細にシミュレートしたサイバー空間、生体内CAを操作するインタフェースや、生体特性を忠実に再現した生体モデルの技術を研究開発しました。

2. これまでの主な成果

個人の生体情報(計測データ)と履歴情報(診療、服薬等)を紐づけて、生体内の“時空間体内環境情報”を提示するための基礎技術を開発しました。まず、検診等で得られるCT画像から、消化管の形態に関する情報を構築しました。限られた学習データでも臓器ごとに分類する手法を開発し、1万例超のCT画像から大規模解剖学的構造データベース(CT DB)も構築しました。これにより、消化管を含む体内環境情報を人体外形画像から推定できるようになりました(図1)。また、生体内CAから得られる計測情報を腸管情報へマッピングできるようになりました。個人の体内環境情報から消化管3Dメッシュを構築し、腸管の芯線情報を得ることができます。さらに、体内CAの位置から芯線上の位置を推定し、取得情報を腸管内座標にマッピング・可視化することができます。これにより、個人の臓器の形状や状態を直感的に理解・観察できるようになりました。

図1
図1 大規模解剖学的構造データベースに基づく時空間体内環境推定

生体内CA操作を直感的に行う操作インタフェースの開発を進めています。生体内空間に没入し、直感的に手指でCAを操作する際に、組織の牽引力や方向感覚などを想起させるための布型ロボティックスーツを開発しました(図2)。直感的な動作誘発が可能な触覚刺激を用いて、動作誘導を行うアルゴリズムを着衣型能動デバイスに実装しました。また、拡張ハプティクス技術による重力感覚提示により、汎用ロボットアームによる生体内CA(内視鏡型)の模擬操作を実現しました。

図2
図2 組織の牽引力や方向感覚などを想起させるための布型ロボティックスーツ

生体内CAの機能評価技術の一環として、ハイドロゲル製の透明生体モデルを作製する方法を確立しました(図3)。3Dプリンタによる直接造形技術により、三次元構造を高精度に加工することができます。これにより、大腸に代表されるような複雑な管腔構造の再現が可能となりました。加えて、作製した生体モデルには、生体の動態模倣を可能とする蠕動運動機構および定量的評価を可能とする圧力センシング機構を統合しました。さらに、生体モデルのヤング率、熱伝導率、電気インピーダンスといった物理特性も調整可能になりました。本生体モデルは、従来のエラストマー製臓器モデルと比べて、生体に近い物理特性を持ち、従来のハイドロゲルモデルよりも精緻な構造再現性を実現しているため、実際の生体環境に近い条件下で、生体内CAの機能評価が可能となりました。社会実装を見据えた次世代型評価プラットフォームとして活用が期待されます。

図3
図3 透明化処理を行ったハイドロゲル製大腸全体モデル

3. 今後の展開

生体内CAを実現するには、システムからの情報を呈示し、小型CAを操作する人を繋ぐためのインタフェースや、評価技術が必要です。今後は、生体内CA実現に向けたシステム統合を促進するため、要素技術の研究開発を継続していきます。