成果概要

生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化[3] 生体内CAの健康モニタリング実証

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、生体内サイバネティック・アバター(生体内CA)を実現するため、分散遠隔操作による生体内CA(分散CA)や、協調遠隔操作による生体内CA(協調CA)のプロトタイプの設計を行い、実証課題を明確化し、効果検証のための実験と評価を行います。また、応用例に対応した倫理・経済・環境・法・社会(Ethical、Economic、 Environmental、 Legal、Social Issues: E3LSI)に関わる課題を抽出し、解決方法を示します。これまで、生体内CAのプロトタイプを実現するための課題を明確化し、ニーズを的確に捉えて、その効果を検証する実験を行いました。また、応用例に対応したE3LSI課題を抽出し、それらの解決方法について検討しました。

2. これまでの主な成果

医学的見地から協調遠隔操作による生体内CAに求められるマルチタスク工程を以下のように分類しました。1.体外から異常部位への到達、2.異常部位の観察、3.異常部位の組織・細胞・細菌等の採取、4.採取検体の診断、5.採取部位の修復、6.体外への排出、7.その他。上記のマルチタスク工程に必要な要素技術の検証を行うにあたり、3の工程に着目し、内視鏡トレーニングモデルを用いて、生体内CAを模擬した牽引器具による複数協調操作によって組織採取時間の短縮と術者負担の軽減を示しました。さらに生体豚を用いて、牽引機能を有する内視鏡による複数協調操作を行い、組織採取時間の短縮と安全性の向上を示しました。複数の小型CAの協調操作は、3に加え、2、4、5の工程においても有用と考えられ、今後検証していきます。
また、生体組織診断で必要になる内視鏡の遠隔操作デバイスの操作性を評価する方法を示し、通常では採取が困難な組織・細胞の生体組織診断を行うプロトタイプの仕様を設定し、実証評価方法を示しました。
つぎに、分散CAによる心身健康のモニタリングの指標を得るため、唾液(43検体)、消化管壁(206検体)、膵実質内(11例)の細菌叢と健康状態・治療との関連を調査しました。十二指腸乳頭部腫瘍、炎症性腸疾患、肝細胞癌の進行度、活動性と治療反応性と腸内細菌叢が関係していることが示唆される結果が得られました。胆汁(138検体)、膵液(10検体)のpHと健康状態を調べてみると、疾患による相違はばらつきが大きく、個人の経時的なpH測定が健康状態の把握に有用である可能性が示唆されました。基礎的検討では、抗がん剤の効果は腫瘍周囲環境のpHと関係するという知見が動物実験で得られており、その機序の解明を目指して、癌関連線維芽細胞を中心に調べています。
実証検証として、分散CAでは、深部体温とその時間変動を測定することを目的とした、体温特化型のカプセル型のCAのシステムを試作し、in-vitroにて動作確認しました。また、First in Human (FIH)の実施に向けて、安全かつ高品質を保証できる製造工程の開発を行いました。本生体内CAは、胃酸電池で充電するため、その部分は胃液に触れる必要がありますが、他の部分は、内部を防水するために、樹脂封止する必要があります。そこで、生産性に優れた射出成型を採用し、汎用熱可塑性樹脂を用いてカプセル状に包埋しました(図1)。カプセル型の共通プラットフォームのシステムを15セット試作し(図2)、プロジェクト内で共有して共同開発の体制を整えました。この成果は、医療機器の承認・認証プロセスおよびFIH実施への大きな一歩といえます。

図1 射出成型によって封止した体温特化型生体内CA
図1 射出成型によって封止した体温特化型生体内CA
図2 体温特化型生体内CA共通プラットフォーム(受信器とアンテナ部)
図2 体温特化型生体内CA共通プラットフォーム(受信器とアンテナ部)

また、温度・pHセンシング可能な半導体集積回路チップが、デジタルピルに組み込まれたICチップに搭載可能か、技術的な検証を行いました。ステント型の生体内CAでは、チップ搭載に必要となる実装技術を開発しました。
実証検証として、協調CAでは、複数のE3LSI課題の解決方法を示すとともに、First in human(FIH)試験を実施するための薬事戦略相談を進めました。医療機器開発に関する経験や知見等を基に、医療機器開発の際に遵守すべき安全規格や環境配慮設計への対応を確認しました。E3LSI課題対応として、①生体内CAサービス利用者の個人情報の取得や安全管理等に関する課題、②誤情報・誤操作等により生体内CAサービス利用者に発生しうる不利益に関する課題、③CAサービス利用者・提供者への教育に関する課題について、整理、検討を進めました。

3. 今後の展開

本研究開発項目は、ニーズを的確に捉えて、将来の方向性が正しいかどうかを吟味しながら研究開発を進める上で、重要な役割を担っています。研究開発項目1、2と強く連携し、実証実験を進めます。また、対応するE3LSI課題を抽出し、社会実装を見据えた研究開発を進めていきます。