成果概要

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生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化[3] 生体内CAの健康モニタリング実証

2025年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、生体内サイバネティック・アバター(生体内CA)を実現するため、分散遠隔操作による生体内CA(分散CA)や、協調遠隔操作による生体内CA(協調CA)のプロトタイプの設計を行い、実証課題を明確化し、効果検証のための実験と評価を行います。また、応用例に対応した倫理・経済・環境・法・社会(Ethical, Economic, Environmental, Legal, Social Issues: E3LSI)に関わる課題を抽出し、解決方法を示します。これまでに、生体内CAのプロトタイプを実現するための課題を明確化し、ニーズを的確に捉えて、その効果を検証する実験を行いました。また、応用例に対応したE3LSI課題を抽出し、それらの解決方法について検討しました。

2. これまでの主な成果

医学的見地から協調CAに求められるマルチタスク工程の分類と、それぞれに必要な要素技術を挙げました。これらの要素技術のうち、操作機能・協調機能の検証においては、協調CAを模擬した牽引デバイスTRACMOTIONTM(富士フィルム)を用いて、生体ブタとヒトに対する組織採取の時間短縮と安全性の向上が期待できることを示しました(DEN Open 2025)。また、組織採取部位の修復工程において、創傷治癒促進と瘢痕なき再生を目指した、高分子マトリックスと幹細胞培養上清とを含有するゲル組成物を開発しました(特願2025-162285)。
分散CAに関しては、異常を検知するための有望な遺伝子マーカーや、細菌叢に関する知見が得られてきており、体内のpH変化の影響解析が進んでいます。
測定すべき有望な遺伝子マーカーに関して、以下の知見が得られてきました。

  1. 胃癌粘膜における代謝物を解析し、107個の代謝物が周囲の健常粘膜と有意差を認めることを確認し、Prostaglandin E2(PGE2)および、その代謝に関連する酵素である15-hydroxy prostaglandin dehydrogenase(HPGD)は胃癌検出のマーカーとなる可能性を示しました。
  2. 炎症性腸疾患の治療薬に不耐患者の大腸粘膜を対象として、遺伝子発現を解析したところ、不耐例では、上皮系細胞から間質系細胞への細胞間シグナル伝達の増強がみられることがわかりました。

投薬に関しては、腫瘍内pH制御と抗がん剤の効果に関する理解が進み、新しい治療戦略の可能性が得られました。腫瘍内pH中性化は、癌細胞や免疫細胞の形質をがん抑制的方向へ変化させる一方で、癌関連線維芽細胞(CAF)に関してはがん促進的形質への転換を引き起こし、治療効果を相殺してきた可能性が指摘されています。我々はこれまでにCAFを線維化抑制性の形質に転換する薬剤として合成レチノイドの一種であるAM80を同定しています。AM80存在下ではCAFを制御することで従来は治療上のジレンマと捉えられてきた腫瘍内pH中性化が、AM80との併用により治療効果を相乗的に増幅させる積極的な治療条件へと転換し得ることを示しています。この仮説の妥当性を検証するため、膵癌マウスモデルを用いて治療効果の評価を行いました。その結果、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、抗がん剤、Kras阻害剤とアルカリ化剤、AM80の併用療法を行ったところ有意な腫瘍縮小効果が観察されました。この結果は、腫瘍内pH制御とCAF制御の統合が膵がんにおいて革新的な治療戦略となる可能性を示唆しています。
また、腸内細菌叢と疾患の関連に関しては、肝疾患症例の認知機能検査結果と腸内細菌叢の関連において、アンモニア産生菌や口腔由来細菌の増加と認知機能悪化の関連を示唆する結果などが得られました。今後は腸管バリア機能、肝機能、制酸剤やプレバイオティクス内服と認知機能の関連について解析を進めていく予定です。

また、カプセル型生体内CA(図1)に関しては、加熱に弱いボタン電池電源を生体適合性樹脂で密封する量産工程を開発し、製品としての形が見えてきました。今後、消化液に対する耐久性や機械的強度などの評価試験を経て安全性を確認し、ヒト適用を目指します。より安全で、安価に、誰もが健康管理に生体内CAを使える未来に向けて、社会実装への準備が着実に進んでいます。

図1
図1 カプセル型生体内CA

さらに、プロジェクトから生み出された技術を製品に搭載する際に遵守すべき安全規格や環境配慮設計、また社会実装する際に生じうるE3LSI課題について課題抽出と課題克服案の検討を行いました。また、PPI(Patient and Public Involvement)の一環として、大阪・関西万博の展示会場で来場者にアンケートを実施し、生体内C Aの希望する利用目的や不安・懸念事項等に関する一般市民の意見を聴取し、社会的受容性について調査しました。

3. 今後の展開

本研究開発項目は、ニーズを的確に捉えて、将来の方向性が正しいかどうかを吟味しながら研究開発を進める上で、重要な役割を担っています。研究開発項目1、2、4と強く連携し、実証実験を進めます。また、対応するE3LSI課題を抽出し、社会実装を見据えた研究開発を進めます。