成果概要

身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放5. 極低侵襲BMIの研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

高度な社会活動を実現してきた人類があらゆる既存の制約や課題から解放されるためには、高度な脳活動の理解、脳活動へのアクセス技術、およびその活用が不可欠です。人類はデジタル技術、量子技術などを理解し、制御することで、優れたサイバー空間を創り出し、実空間とのシームレスにつなぐことで、社会の安全安心や利便性を向上させてきました。一方で、脳関連疾患や中枢神経系の疾患患者は膨大に増加しており、これまでのデジタル技術、量子技術などでは課題解決の糸口さえ見えていません。これは、高度な脳活動を正確に計測するための計測技術と、脳活動を統計的処理するための計測実績、ブレインビッグデータの構築手段が決定的に不足しているためです。

図1. 本研究開発の目標概要
図1. 本研究開発の目標概要

本研究開発では、上記の背景の元に、高い脳情報の計測精度を極低侵襲(開頭手術を必要としない)で実現する「柔軟な極細径BMIシステム」を構築するための研究開発を実施しています。

2.2022年度までの成果

本研究開発では、大阪大学産業科学研究所のフレキシブル電子デバイス・システム開発を専門とする研究チームと、大阪大学医学系研究科・大阪大学高等共創研究院の脳外科医、血管治療専門医チームとの連携により研究開発を進めてきました。これまで、下記の二種類のデバイスの実現を目標として開発を進めています。ひとつは、超微細で柔らかい血管内留置デバイスによる「極低侵襲BMIシステム」と、もうひとつは開発するBMIシステムを血管内の所望の場所に輸送するための「血管内BMI輸送デバイス」の開発です。

図2. 超薄膜・軽量電子デバイスと柔軟電極技術
図2. 超薄膜・軽量電子デバイスと柔軟電極技術

本研究開発では、体内の柔らかい血管を傷つけることなく、正確な脳波信号計測を実現するため、上図のような薄膜エレクトロニクス技術を活用した研究開発を実施してきました。具体的には、厚さ1µmの超薄膜・超軽量電子デバイスと、伸縮可能な柔軟電極技術を活用し、極低侵襲BMIシステムの実現を目指した研究開発を実施してきています。
これまでの研究開発成果の具体例としては、生体適合性を有する半導体材料を利用した信号増幅回路の実現(Advanced Science 2022:IF 17.521)、光技術を利用したフレキシブル電子回路の特性制御技術の開発(ACS Applied Electronic Materials 2022:IF 4.494)などを原著論文として報告しました。その他の論文成果を以下に記します。

図3. 論文成果とCover Pictureへの採用
図3. 論文成果とCover Pictureへの採用
  • Science 380, 690 (2023) 【IF: 63.832】
  • Advanced Electronic Materials 2201333 (2023). 【IF: 7.633】
  • Advanced Science 10, 220474 (2022). 【IF: 17.521】
  • Communication Biology 5, 1375 (2022). 【IF: 6.548】
  • ACS Applied Electronic Materials 4, 6308 (2022). 【IF: 4.494】
  • Flexible and Printed Electronics 7, 44002 (2022). 【IF: 3.768】

3.今後の展開

現在、本研究開発にあたる医工連携チームは、優れた医療機器研究開発施設において研究開発を実施しています。現在開発している極低侵襲BMIシステムによる脳波計測信号品質の検証、デバイス・システムの検証、長期留置によるシステムの安定性検証などを進める予定です。
また得られた脳波計測信号を体外に送出する無線送信システムおよび体内の計測装置に電源を供給する無線給電システムの開発も並行して進めます。
これらにより、開頭手術を必要としない極低侵襲で高度な脳活動を長期的に計測できる新型BMIの実現し、医療やヘルスケアに貢献します。