成果概要
身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放[5] 極低侵襲BMIの研究開発
2024年度までの進捗状況
1. 概要
高度な社会活動を実現してきた人類があらゆる既存の制約や課題から解放されるためには、高次の脳活動の理解、脳活動へのアクセス技術、およびその活用が不可欠です。人類はデジタル技術、量子技術などを理解し、制御することで、優れたサイバー空間を創り出し、実空間とシームレスにつなぐことで、社会の安全安心や利便性を向上させてきました。一方で、脳関連疾患や中枢神経系の疾患患者は著しく増加しており、これまでのデジタル技術、量子技術などでは課題解決の糸口さえ見えていません。これは、高度な脳活動を正確に計測するための計測技術と、脳活動を統計的処理するための計測実績、ブレイン・ビッグデータの構築手段が決定的に不足しているためです。これに対し、脳活動を計測するBMIが開発されていますが、非侵襲であるものの精度が低いシステム(図1(左))や、開頭手術が必要な侵襲性の高いシステム(図1(右))が中心でした。
上記の背景から、本研究開発では、脳情報の高精度な計測を極低侵襲(開頭手術が不要)で実現する「柔軟な極細径BMIシステム」の構築を進めています。

2. これまでの主な成果
本研究開発では、大阪大学産業科学研究所のフレキシブル電子デバイス・システム開発を専門とする研究チームと、大阪大学医学系研究科の脳科医、血管治療専門医チームとの連携により研究開発を進めてきました。これまで、超微細で柔らかい血管内留置デバイスによる「極低侵襲BMIシステム」と、このシステムを血管内の所望の場所に輸送するための「血管内BMI輸送デバイス」の2つの技術の実現を目標とし、それらの開発と検証実験を進めています。
極低侵襲BMIデバイスの開発
本研究開発では、体内の柔らかい血管を傷つけることなく、正確な脳波信号計測を実現するため、図2のような薄膜エレクトロニクス技術を活用した研究開発を実施してきました。具体的には、厚さ 1 µmの超薄膜・超軽量電子デバイスと、伸縮可能な柔軟電極技術、薄膜センサなどを活用し、血管内から生体の身体情報に関わる様々な情報(電気、光、化学、力学など)を獲得することを目的とした、極低侵襲BMIシステムの実現を目指しています。一部技術は、下記の論文成果リストに示すように、学会受賞や学術誌掲載などに至っています。

極低侵襲BMIデバイスの検証実験
図3(左)は開発したデバイスが脳内の血管内に配置されている様子を模式的に示しています。本研究開発では、血管内治療の技術を活用することによって、外科的開頭手術を必要とせず、極低侵襲に脳活動情報へのアクセスを可能とすることを目標としています。現在、開発にあたっている医工連携チームは医療機器研究開発施設においてデバイス検証実験を進めています(図3(右))。極低侵襲BMI用柔軟プローブを脳静脈血管へ輸送する手法を構築し、49日間のプローブの長期埋込を達成するなど研究開発の進展がありました。さらに脳波信号をワイヤレスで体外に送信する実験、および刺激同期信号を体外からワイヤレスで脳波と同時に記録する実験も進行中です。

【代表的な論文成果リスト】
- Advanced Materials, 36, (2024)*表紙類掲載【IF: 29.4】
- 10.1002/adma.202309864
- Science, 380, 690 (2023) 【IF: 63.8】
- 10.1126/science.adf0262
- Advanced Materials, (2023)【IF: 29.4】
- 10.1002/adma.202304048
- Advanced Science, 10, (2023) 【IF: 17.5】
- 10.1002/advs.202204746
3. 今後の展開
フレキシブルエレクトロニクスを基盤とした極低侵襲BMI技術により、脳活動の高精度計測と解析を実現し、脳疾患治療と次世代ニューロテクノロジーの社会実装、脳科学の深化を目指します。認知症や運動障害など深刻化する神経疾患への対応を通じ、健康長寿社会と誰もが安心して暮らせる共生社会の実現に貢献し、持続可能な未来を切り拓きます。さらに医療DX推進、超高齢社会対応、国際展開も視野に入れた技術基盤を構築していきます。