成果概要

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身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放[5] 極低侵襲BMIの研究開発

2025年度までの進捗状況

1. 概要

高度な社会活動を実現してきた人類が、身体や脳に由来する制約から解放されるためには、高次の脳活動を正確に理解し、必要に応じて活用するための技術が不可欠です。一方で、脳関連疾患や中枢神経系疾患は今後も増加が見込まれ、これらに対しては、脳活動を高精度に計測し、制御や支援へと結びつける新しい技術が求められています。これに対し、従来のBMIは、非侵襲であるものの精度が十分でないシステム、あるいは高精度だが開頭手術を必要とする侵襲性の高いシステムが中心でした。
本研究開発項目では、こうした課題を克服するため、脳情報の高精度な計測を極低侵襲で実現する「血管内BMI」の構築を進めています。特に、柔らかい薄膜エレクトロニクスを活用した極細径デバイスを脳静脈血管へ留置し、開頭手術を伴わずに脳活動へアクセスする技術の開発を進めています。さらに、単なる脳波計測にとどまらず、将来的には刺激、可視化、化学量計測なども統合可能な血管内プラットフォームへ発展させることで、次世代の体内CA基盤を構築することを目指しています。

2. これまでの主な成果

本研究開発では、大阪大学産業科学研究所のフレキシブル電子デバイス・システム開発チームと、大阪大学医学系研究科の脳外科医・血管内治療専門医チーム、さらに豪州メルボルン大学の研究チームとの連携により、血管内BMIの実現に向けた研究を進めてきました(図1)。これまで、超微細で柔らかい血管内留置デバイスによる「極低侵襲BMIシステム」と、そのデバイスを脳血管内の所望の位置へ輸送する「血管内BMI輸送デバイス」の二つを中核技術として研究開発を推進してきました。

図1
図1:血管内BMIの取り組み[文献1]
極低侵襲BMIデバイスの高度化

厚さ1 µm級の超薄膜電子デバイス、柔軟電極、薄膜センサ、有機電気化学トランジスタなどを活用し、血管内から脳活動だけでなく電気・光・化学・力学など多様な生体情報へアクセス可能なデバイス開発を進めてきました。特に、皮質静脈および深部静脈から高精度な脳波を取得できることを実証し、従来の頭蓋内脳波以上の信号品質を有する可能性を示しました。また、長期留置についても、49日間にわたる安定計測を達成し、さらにブタで63日規模の安全性確認が進むなど、ヒト適用を見据えた段階へと研究が進展しました。

計測・解読・刺激技術の進展

血管内脳波を用いた視覚意味情報の解読、頭蓋内記録を用いた機械学習アルゴリズムの高度化、ならびに血管内および硬膜外アレイを用いた刺激研究が進展しました。特に、ヒツジモデルにおいて意味的視覚情報のデコードや刺激応答解析を進め、血管内BMIが「計測」だけでなく「解読」「刺激」へと展開できる可能性を示しました。さらに、光ブレイン・コンピューター・インターフェースや広視野光学デバイスの研究も進展し、今後の多機能化へつながる基盤が整いつつあります。

化学量センサとプラットフォーム化への展開

s血液・体液中で長期利用可能なイオンセンサの改良が進み、抗血栓性コーティングを施した化学量センサが比較的安定に動作することを確認しました。また、超細径カメラ、微細LSI、体表脳波・血液オミクスとの統合的計測に向けた連携も進み、血管内BMIを中核とした血管内プラットフォーム、さらには次世代体内CAへと発展させるための基盤が形成されました。加えて、血管内BMIの社会実装を担う大阪大学発スタートアップivecを創業し、研究成果の出口戦略を具体化できたことも大きな成果です。

【代表的な論文成果リスト】
  1. Advanced Intelligent Systems 8, e202500487 (2026).
    10.1002/aisy.202500487
  2. Advanced Materials, 36, (2024). 10.1002/adma.202309864
  3. Science, 380, 690 (2023). 10.1126/science.adf0262
  4. Advanced Materials, (2023). 10.1002/adma.202304048
  5. Advanced Science, 10, (2023). 10.1002/advs.202204746