成果概要
身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放[1] IoBインターフェース開発(IoB:Internet of Brains)
2024年度までの進捗状況
1. 概要
このテーマでは、さまざまなデバイスを活用して脳活動から思考や精神状態を抽出する技術を開発し、アプリとして社会実装することで、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術の普及を目標としています。具体的には、ヘッドフォンのようなガジェット型脳波センサーや、携帯電話のカメラ映像などを組み合わせて、日常環境で思考や精神状態を短時間抽出できるアルゴリズムを開発しています。これらを用いて、自分では意識できない日々の体調変化を見える化して自己調節を可能にするアプリケーションや、自分の意図が外部表出できない状態や状況にある利用者の意思伝達を支援するアプリケーションを作成することで、BMI技術を社会に普及させることを目指します。
2. これまでの主な成果
ヘッドフォン型ワイヤレス脳波センサーの開発
牛場らのグループでは、「スタイリッシュなデザインで、身につけることがかっこいい。誰でもいつでもどこでも使える。」をコンセプトに、ヘッドフォン型のワイヤレス脳波センサーを開発しています(図1)。電極素材、電極保持機構、筐体構造などの改良を集中的に進め、どんな頭の形の人に対してもワンタッチで即座に脳波が計測可能なユーザビリティと連続使用に耐える耐久性を向上させました(意匠と国際特許の出願を完了)。これにより、大規模社会実験をトラブル少なく実施することが可能になりました。

アバターのコントロール
牛場らのグループではさらに、ヘッドフォン型脳波センサーを使ってユーザーの運動意図を読み取って、メタバース空間ゲームFortnite内のアバターを「念じて操作」する技術を開発しています。脳波にはさまざまな理由で多様なノイズが混入しますが、それぞれのノイズに特化した「ノイズ認識AI」を用意して、計測信号の中からノイズを取り除く「ノイズクレンジング技術」を開発。このほかにも、Fortnite空間のなかの障害物を識別し、衝突を回避するようにアバター操作を補助してくれる「AIアシスト機能」や、アバター操作に必要な脳波の出し方が脳内で自然と強化されていくように、タイミングよくサウンドやビジュアルのエフェクトを生成する「脳機能強化AI」を開発。こうした複数のAIを組み合わせた「コンポジットAI」によって、さまざまな障害物があるFortnite環境内のアバターを思い通りにスイスイ動かせる技術を生み出しました。今後、AIを活用したIoBインターフェースは散策、情報検索、対話といった日常生活を支える技術としての応用を進めます。
”ありありとした自分自身”という感覚を伴ってアバターをコントロールするためには、アバターに自らの身体性や所有感覚を宿すことが重要です。渡邉克己らのグループでは、アバターに対する自己を投影するための条件分析を進めています。また、時々刻々と変化するこうした感覚を定量的、客観的に数値化する検査法の開発にも取り組んでいます。
アバターを通じた脳のモニタリングとトレーニング
脳の制約からくる困りごとは、音楽家・音楽愛好家の間で広く共有されています。トレーニングを重ねた結果獲得した技能が頭打ち状態になることを「天井効果」といいますが、この状態に至ったとしてもなお、脳には伸びしろが残されていることを明らかにしました。具体的には、古屋らのグループは外骨格ロボットを使って指を高速に動かすことで高速動作感覚を脳にインプットすると、ロボット脱着後の運指技能が高まることを発見しました。この成果は国内外で大きな反響を呼び、論文が掲載されたScience Robotics誌では表紙カバーを飾りました(図2)。
最近ではさらに、前述のヘッドフォン型ワイヤレス脳波センサーを使って音楽演奏中の脳波計測を実施し、演奏の質を左右する皮質活動の特徴を捉えることに成功し、脳波フィードバックによる脳状態の自己調節によって「ジストニア」とよばれる指のぎこちなさを緩和することに成功し、芸術と科学のハーモニーがこれまでにない新たな魅力を生み出しています。また、小泉愛らのチームは、トラウマ記憶に悩む当事者を対象に、自己の脳状態が投影され、脳に適切な記憶形成を促すアバターアプリについても開発と検証を進め、脳波計測やMRI計測を通じて脳内機構の理解を推進しました。

出典:Science Robotics (2025)
社会実装の取り組み
研究成果の一部は、ミュージック・エクセレンス・プロジェクト・アカデミー(国内)でのトライアル、ハノーファー音楽大学、ミュンヘン音楽大学でのトライアル(海外)、大学発スタートアップ株式会社LIFESCAPESを通じた事業化など、着実な社会還元を進めています。
3. 今後の展開
得られた研究成果の知財化、技術標準化を推進することで利用価値を高め、学理の探究と社会実装を調和させた急進的イノベーションを進めます。