成果概要

身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放1. IoBインターフェース開発(IoB:Internet of Brains)

2022年度までの進捗状況

1.概要

このテーマでは、さまざまなデバイスを活用して脳活動から思考や精神状態を抽出する技術を開発し、アプリとして社会実装することで、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術の普及を目標としています。具体的には、ヘッドフォンのようなガジェット型脳波センサーや、携帯電話のカメラ映像などを組み合わせて、日常環境で思考や精神状態を短時間抽出できるアルゴリズムを開発しています。これらを用いて、自分では意識できない日々の体調変化を見える化して自己調節を可能にするアプリケーションや、自分の意図が外部表出できない状態や状況にある利用者の意思伝達を支援するアプリケーションを作成することで、BMI技術を社会に普及させることを目指します。

2.2022年度までの成果

「スタイリッシュなデザインで、身につけることがかっこいい。誰でも、いつでもどこでも使える。」をコンセプトに昨年度開発したウェアラブル型脳波センサーのソフトウェア面の改良を進め、「突発的なノイズ混入への対応」と「脳波反応の個人差への対応」について、波形分類AIや推論AIを開発し、システムに搭載しました(国内特許出願完了、現在PCT出願手続中)。

アバターのコントロール

脳性麻痺や神経筋難病の当事者と中高生たちがこの脳波センサーを使って、人気ゲーム「Fortnite」内のアバターをコントロールしてタイムを競い合う「BMIブレインピック」を開催し、大好評を得ました(YouTubeで公開後、3ヶ月で日米合わせて3.3万回視聴を達成)。

最近ではさらに、人が無意識のうちにしてしまう「クセ」、たとえば、進みたい方向に体を傾けたり視線を向けたりしている様子をセンサーで読み取って、アバターのBMIコントロール精度を高めることに成功しました。また、アバターの周囲にある障害物をAIに認識させて、フルオートで衝突回避する技術も組み合わせることに成功しました。「思い通りにスイスイ動かせる」IoBインターフェースは今後、メタバースだけでなく実環境への応用も考えています。

アバターを通じた脳のモニタリングとトレーニング

脳の制約からくる困りごとは、音楽家・音楽愛好家の間で広く共有されています。日によってパフォーマンスが安定しない、運動記憶が定着しにくい、過剰訓練によって疾患兆候が亢進する…。こうした課題の解決に向け、民生マイクで収録した演奏時音響の分析や民生カメラによる手指姿勢の分析と見える化アプリを開発しました。国内ではミュージック・エクセレンス・プロジェクト・アカデミーでの試用を開始し、ハノーファー音大、ミュンヘン音大との共同研究も計画中です。また、トラウマ記憶に悩む当事者を対象に、記憶定着の正常化を図る認知行動アプリも開発し、検証を進めています。
さらに私たちは、精神疾患兆候のある当事者を対象に、機能的磁気共鳴画像、歩容データ、診断データの多次元大規模データベースの整備を進め、歩き方から心身のコンディションを推し量る技術を構築しました。脳波計測が困難な歩行中でも、綺麗に脳活動成分を分析することができるようになってきました。

3.今後の展開

今年度は、世界トップレベルの学術論文の出版、国際共同研究活動の実施、技術標準化ができました。今後は産学連携活動をアドオンしながら急進的イノベーションを進めて、「誰もが夢を追求できる社会」の実現と「100歳まで健康不安なく、人生を楽しめる社会」の実現を目指します。