成果概要
身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放[3] IoB コア技術
2024年度までの進捗状況
1. 概要
高精度な脳信号を安全に長期間安定して計測できることは、すべてのBMI開発のコアとなる技術要素です。特に我々がめざす高精度のBMIの開発には、侵襲的な計測手法を、安全かつ安定して運用できることが重要となります。IoBコア技術では、ユーザーが希望すれば、安全な外科的手術によって日常生活における能力拡張を実現できるBMI技術を目指し、人や動物を対象にした計測・解読技術の研究開発を行っています(図1)。

我々は、マーモセットやサルの脳に電極を長期間留置し、高精度な神経活動の記録・操作技術を開発しました。さらに、マウスの脳を刺激して情報を入力する技術を開発しました。また、ヒトが意図した画像を画面に提示し、意図した言葉を脳信号から解読し、アバターに発声させることにも成功しました。IoB ミドルウェア開発グループと共同して、侵襲的脳信号にAI技術を活用した意思伝達技術を開発しヒトへ応用します。
2. これまでの主な成果
【霊長類の大脳皮質から多様な脳情報の抽出に成功】
高精度な脳信号を長期に安定して計測できるようにするために、東京科学大学の小松三佐子特任准教授らのグループは、音声コミュニケーションを行う霊長類であるマーモセットを対象にして、動物が人のようにオンラインでコミュニケーションを取ることができるシステムを開発しました。マーモセットの広域皮質脳波の無線計測システムを立ち上げ、他個体との音声コミュニケーション中の発話・行動・神経活動を計測し、行動カテゴリと発声の種類という異なる情報の読み取りに成功しました(図2)。

(Komatsu et al, BCI Meeting, 2023)
【神経細胞レベルでの情報伝達に成功】
脳へ詳細な情報を入力できるようにするため、生理学研究所和氣グループはホログラフィック2光子顕微鏡を用いて、これを光遺伝学的手法(オプトジェネティックス)と組み合わせ、人為的な感覚の創出に成功しました(図3)。さらに個体間の情報伝送に成功しつつあります。

複数のマウス間の情報伝送(下)
【人が意図した画像や言葉を出力するBMIを開発】
AIを用いて人の意図を解読し意思伝達に応用するため、大阪大学栁澤琢史教授らのグループは、てんかん患者さんの頭蓋内脳波を用いて、ヒトが画像を想起することで、意図した画像を画面に提示するBMIを開発しました(図4)。今後、IoBミドルウェアグループと共同で、多様な概念を抽出して意思伝達する技術へ応用します。

(Fukuma et al., Comm.Biol., 2022)
また同様に、UCSF Edward Chang教授らのグループは、病気で発話が難しい患者さんの脳に電極を留置し、皮質脳波を計測し、患者さんが発声を意図した際の皮質脳波をAIが解読することで、毎分78単語の速さで文章が生成され、これをアバターが発声することに成功しました(図5)。この成果はBMIによる意思伝達が実用的レベルになったことを示しています。

(Metzger et al., Nature, 2023)
3. 今後の展開
- 長期間安定して侵襲的脳計測を計測し、多様な情報を脳へ入力する技術を開発しました。今後はさらに信号の精度や入力の情報量を増やしつつ、より低侵襲にBMIを実現できる技術を開発します。
- 人の皮質脳波から、想起や言語に対応した情報を推定し音声や画像を生成する手法を構築しました、今後ともは、より実用的な意思伝達技術となるよう精度や出力を改善します。
- 個体間の情報伝送技術にAIを組み合わせることで、新しい意思伝達技術を実現します。