本テーマは令和2年度をもって終了しました。
所属・役職は終了当時の情報に基づきます。
2.技術テーマの概要
Nd-Fe-B磁石の発表から35年が経過しました。この間、Nd-Fe-B磁石の特性を超える新永久磁石の探索や製造が試みられてきましたが、これを超える新永久磁石の開発には至っておらず、次世代永久磁石の開発が強く望まれています。また、磁石性能に加えて資源的な観点からも既存永久磁石の飛躍的特性改善や新永久磁石の開発が必要とされています。
本技術テーマでは、革新的次世代永久磁石の創製のための基盤技術とそれに繋がる指針を確立するために、大学・公的研究機関等での基盤研究を推進し、我が国の産業競争力の維持・強化と社会基盤の強化に資する成果を得ることを目指します。
3.POによる公募・選考・技術テーマ運営にあたっての方針(平成28年度)
永久磁石の開発・製造技術では、我が国は最先端を走っています。Nd-Fe-B磁石の普及により、高性能永久磁石が産業・民生・医療機器等に広く使用されるようになり、これらの機器の小型・高性能化が達成されています。優れた永久磁石の製造技術が我が国の社会基盤を支える技術の一つとなっていると言っても過言ではありません。
一方で、海外諸国の追い上げも極めて急速です。永久磁石生産量では、既に一位の座を中国に譲っています。もし、永久磁石の開発・製造技術における我が国の優位性が失われることになれば、その影響は永久磁石製造の分野を越えて我が国の産業全体に広がり、我が国の産業、特に製造業の国際競争力の低下へと繋がることにもなりかねません。
従来、Nd-Fe-B磁石の特性を超える新永久磁石の探索や製造が試みられてきましたが、現時点では、これを超える新永久磁石の開発には至っていません。平成23年には希土類資源偏在の問題も浮上し、磁石性能に加えて資源的な観点からも既存永久磁石の特性改善や新永久磁石の開発が必要とされています。このような状況に対応するためには、革新的な次世代永久磁石の創製に向けて、我が国の産学がその英知を結集して戦略的に取り組むことが必要不可欠です。
上記の背景の下、平成23年度より本技術テーマがスタートしました。
現在までに9課題を採択し、現在以下の5課題を実施中です。
- 磁気構造可視化に基づく保磁力モデルの構築
- ナノスケール構造制御による高性能磁石創製への指針獲得
- ラティスエンジニアリングによる高磁化磁性材料の創製および高性能永久磁石材料の開発
- 遷移金属元素の価数に着目した鉄系酸化物磁石の実用材周辺の基礎科学とその高性能化に向けた物質設計指針の提案
- 電子論に基づいたフェライト磁石の高磁気異方性化指針の確立
本技術課題がスタートした平成23年当時は、希土類資源の安定供給が極めて深刻な状況になったことを背景に、脱希土類の磁石開発が強く望まれる傾向にありました。現在では、Ndについては短期間での資源枯渇の恐れはないと考えられるようにはなっていますが、DyやTbについては、電気自動車やハイブリッド自動車の利用が進めば、将来、安定供給に不安がでると予測されます。このような背景から、現存のNd-Fe-B系磁石の高性能化(主に高保磁力化)も確実に進んでいます。
5年間の本技術テーマにおける研究の中では、磁石材料の新しい評価法が確立されつつあると共に、希土類フリー次世代磁石及びNd-Fe-B磁石の高性能化について、薄膜試料を用いて、その可能性が示されてきました。また、我が国の技術的優位性が保たれているLa-Co置換Srフェライトについての基礎研究も進みつつあります。
今回、本技術テーマを一層加速するために、革新的次世代永久磁石の創製のための基盤技術とそれに繋がる指針構築のための基盤研究を追加募集します。今回の募集においては、希土類資源の供給状況、本技術テーマでの成果、現存磁石材料における技術革新状況を考慮し、バルク磁石と開発技術の産業化を強く念頭においた、下記の例のような提案を求めます。
- 永久磁石の革新に繋がる磁石評価技術の開発
評価技術の利用を念頭においた研究を進める観点から、評価技術を利用する研究者との共同研究を歓迎します。 - 資源リスクを回避する観点から、現存のバルクNd-Fe-B磁石を代替できる磁石材料の研究
ターゲットとする特性を明確にした研究を歓迎します。
高エネルギー積の磁石だけでなく、例えば、優れた等方性磁石、高温対応磁石等も考えられます。 - 現存磁石の特性を飛躍的に改善することを目的とする基礎研究
改善すべき特性を明確にした研究を求めます。
応募いただく提案は例示に限定するものではありませんが、審査に際しては、研究目的、独創性、計画の妥当性、実現性等に加えて、本技術テーマとの関連性(研究提案書 「4.技術テーマの設定趣旨との関連性」)も重視します。すなわち、「産業界への貢献」を視点に入れた研究目的と研究遂行計画が必要です。
本プログラムで対象とする研究は、大学・公的研究機関等の研究者による基盤研究であり、応用研究・製品化研究ではありませんが、将来的には研究成果が応用技術・製造技術へと繋がり、我が国の産業競争力が維持・強化されることを目指しています。この目的の達成を促進するために、「産学共創の場」というプラットフォームを設けます。この場において、各研究課題の進捗状況や成果創出状況、産業界の要望等を議論していただきます。各研究者には、そこで産業界からの要望も取り入れながら研究を進めていただくことになります。産学共創基礎基盤研究プログラムの趣旨を踏まえた提案をお願いします。
4.研究課題
◆令和2年度終了◆
(五十音順)(※所属・役職は終了当時)
- 研究代表者:中村 哲也(高輝度光科学研究センター 研究プロジェクト推進室 客員主席研究員)
- 研究課題名:永久磁石の微細組織とその局所磁気特性の解析による高保磁力化の指針構築
- 研究概要:
Nd-Fe-B磁石やSm-Co磁石をはじめとする高性能永久磁石では、磁石内部の微小な磁石粒子の粒径や結晶方位が不均一に分布しており、この不均一組織が保磁力性能に影響すると考えられている。本研究では、大型放射光施設(SPring-8)を活用して粒子毎の結晶方位と磁気特性を詳細に解析することで、高保磁力化の指針を構築する。
- 研究代表者:宝野 和博(物質・材料研究機構 理事/フェロー)
- 研究課題名:ネオジム磁石の超微結晶化による高温磁石特性の飛躍的改善
- 研究概要:
結晶粒径を液体急冷/熱間加工法ならびに水素吸蔵分解反応法で超微細化したNd-Fe-B系磁石を試作し、それらの結晶粒界を700oC以下の低温プロセスで改質することにより、室温での残留磁化1.35T、保磁力2.5Tのネオジム磁石を実現するための基礎研究を推進する。微結晶化により保磁力の温度低下改善し、160oCにおいても保磁力0.8Tを確保できる磁石を目指し、同時に特性改善のメカニズムを解明する。
◆令和元年度終了◆
- 研究代表者:嶋 敏之(東北学院大学 工学部 教授)
- 研究課題名:軽元素添加による高磁化磁性材料の創製ならびに革新的永久磁石材料の開発
- 研究概要:
高性能永久磁石の需要は増加し続けており、従来型Fe系希土類系磁石の性能を超えるブレークスルー技術が要求されている。本研究開発では、高機能性が期待される軽元素添加による新しいマンガン(Mn)基高飽和磁化・高磁気異方性磁性材料の創製の可能性を、エピタキシャルモデル薄膜および第一原理計算から得られた知見を基にバルク材料へ展開することによって革新的次世代高性能永久磁石の開発を目指す。
- 研究代表者:柳原 英人(筑波大学 数理物質系 教授)
- 研究課題名:電子論に基づいたフェライト磁石の高磁気異方性化指針の確立
- 研究概要:
立方晶スピネルフェライトは、OP磁石として実用化された最初の酸化物磁石です。この研究では、磁気異方性の起源に立ち返って物質設計をおこない、結晶場とスピン軌道相互作用を制御することでスピネルフェライトの磁気異方性を最大化させ、スピネルフェライトの磁石としてのポテンシャルを引き出すことを目指します。大きな一軸性磁気異方性を発現させる指針を確立することで、スピネルフェライトの新たな高性能磁石材料としての可能性を示します。
◆平成30年度終了◆
- 研究代表者:齊藤 準(秋田大学 大学院理工学研究科 附属理工学研究センター 教授)
- 研究課題名:磁石破断面の3次元磁場イメージングが可能な高分解能・交番磁気力顕微鏡の開発による保磁力機構の解明
- 研究概要:
研究代表者が開発した高分解能・交番磁気力顕微鏡技術を基盤に、直流磁場により磁化状態を連続的に変化させた破断面などのさまざまな表面状態の磁石に交流磁場を印加することで、印加磁場に対して可逆的および不可逆的に変化する磁化から発生する磁場を試料表面からの距離を連続的に変化させて3次元イメージングする技術を新たに確立し、磁性結晶粒の表面から内部に渡る断面方向の磁気情報を解析することで保磁力機構の解明に取り組む。
◆平成28年度終了◆
- 研究代表者:小野 寛太(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 准教授)
- 研究課題名:磁気構造可視化に基づく保磁力モデルの構築
- 研究概要:
ハイブリッド自動車などの高性能駆動モーターには高保磁力の磁石が不可欠です。一般に広く用いられている磁石の保磁力は、理論限界値の15%程度であり、これを50%程度へ飛躍的に特性改善することや新規高保磁力磁石の創製が産業界から求められています。本研究では、放射光・中性子を用いた磁気構造可視化と、マイクロ磁気学と非平衡統計物理学の手法の融合により、保磁力メカニズムの解明を目指します。さらに、保磁力モデルの構築を行い、産学共創の場を通じて、次世代の高保磁力磁石の設計指針を産業界に提案します。
- 研究代表者:加藤 宏朗(山形大学 大学院理工学研究科 教授)
- 研究課題名:ナノスケール構造制御による高性能磁石創製への指針獲得
- 研究概要:
現在最強のネオジム焼結磁石は、産業用や医療機器などに広く用いられていますが、更なる高性能化や高耐熱性が求められています。本研究では、薄膜プロセスおよび強磁場プロセスを用いたナノスケールの構造制御によって、ネオジム磁石を上回り、レアメタルであるNdやDyの使用量を大幅に削減した最強の希土類磁石を創製するための指針を獲得します。更に、産学の対話のもと、高性能磁石の厚膜化やバルク化に取り組みます。
- 研究代表者:嶋 敏之(東北学院大学 工学部 教授)
- 研究課題名:ラティスエンジニアリングによる高磁化磁性材料の創製および高性能永久磁石材料の開発
- 研究概要:
新たな材料設計に基づいた原子・分子単位でのナノ構造制御による高性能永久磁石材料の開発は、高性能モーターを開発する基盤技術として必要不可欠です。本研究では、キーマテリアルである従来型の鉄系強磁性体を遥かに凌駕する、あるいは従来の枠を超えた高機能性が期待される新しいマンガン系高飽和磁化および高磁気異方性磁性材料の創製の可能性を、エピタキシャル単原子交互積層法を用いて検討し、その後バルク材料へ展開し高性能永久磁石材料開発を目指します。
- 研究代表者:中村 裕之(京都大学 大学院工学研究科 教授)
- 研究課題名:遷移金属元素の価数に着目した鉄系酸化物磁石の実用材周辺の基礎科学とその高性能化に向けた物質設計指針の提案
- 研究概要:
フェライト磁石では母物質の鉄原子の一部をコバルトに置換することで性能を高めていますが、従来の常識と異なり、鉄やコバルトの価数が不安定で、そのことが磁石の性能に深く関わっている可能性があります。本研究ではコバルト置換磁石の鉄・コバルトの価数を実験的に明らかにするとともに、価数を積極的に制御することで磁石の性能を向上できないか検証します。その結果を前提に、産学共創の場を活用して、高機能鉄系酸化物磁石の開発を目指します。
◆平成27年度終了◆
- 研究代表者:石尾 俊二(秋田大学 大学院工学資源学研究科 教授)
- 研究課題名:L20FeCo及びL10FePt-bccFeCoに着目した革新的磁石創成に関する基礎研究
- 研究概要:
高結晶磁気異方性と高飽和磁化を有するL20FeCo系金属合金並びにL10FePt-FeCo系金属合金に着目して、希土類元素フリーで高エネルギー積を有する革新的な永久磁石材料を、産学共創の場を活用して開発します。第1原理計算による物性予測と薄膜合成/微細加工を用いた実験研究によりL20FeCo系金属合金の永久磁石特性を明らかにし、また薄膜合成/微細加工およびウェットプロセスによりL10FePt-bccFeCo系金属合金ナノコンポジット磁石を開発します。
◆平成26年度終了◆
- 研究代表者:小林 久理眞(静岡理工科大学 理工学部 物質生命科学科 教授)
- 研究課題名:3次元磁区構造観察装置を用いた、永久磁石の微構造と磁区構造の相互作用の研究
- 研究概要:
永久磁石の3次元的磁区構造を観察することは、その保磁力発現機構解明の最重要課題の1つです。本研究では、粒界における磁壁の安定性を中心に、微構造と磁区構造の相互作用をエネルギー論的に解明します。微小なNd-Fe-B系焼結磁石粒子(20-100μm径)を雰囲気制御下で成形し、その全表面に各種金属をスパッタ、熱処理して調製する試料の磁気特性測定と3次元的磁区構造観察を行うことで、同磁石の保磁力向上の方策を見出します。
◆平成25年度終了◆
- 研究代表者:高梨 弘毅(東北大学 金属材料研究所 教授)
- 研究課題名:貴金属フリーL10型規則合金磁石創製の指針構築
- 研究概要:
本研究では、Fe、Co、Niのみから成るL10型規則合金を作製し、産業界の要望である希少金属を用いない高性能磁石材料としての可能性を探究します。そのために、薄膜試料を用いた基礎研究と、新しい製造法として巨大ひずみ加工技術を用いたバルク試料の研究を、連携して推進します。また、放射光を用いた構造・磁性の高精度評価および第1原理計算による最適物質設計により研究を支援し、産学の対話のもと、新磁石創製の指針を構築します。
- 研究代表者:中村 裕之(京都大学 大学院工学研究科 教授)
- 研究課題名:鉄系酸化物磁石の飛躍的高機能化を目指した微視的評価技術の開発と保磁力機構の解明
- 研究概要:
フェライト磁石では母物質の鉄原子の一部をコバルトに置換することで性能を高めていますが、置換原子の占有位置や置換に伴う電子状態の変化について統一見解がなく、そのことがより高性能な磁石の開発を阻んでいます。本研究では、多元多サイト化合物の原子レベルの解析法を確立し、置換サイトや電子状態変化を明らかにします。その結果を前提に保磁力の機構や合理的な物質設計指針を提案し、産学共創の場を活用して、高機能鉄系酸化物磁石の開発を目指します。
5.アドバイザー
(敬称略 氏名五十音順)
氏名 | 所属機関/役職 |
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入山 恭彦 | 大同特殊鋼(株)技術開発研究所 理事 |
大橋 健 | 信越化学工業(株)研究開発部 主席研究員 |
佐久間 昭正 | 東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 教授 |
眞保 信之 | TDK(株)技術・知財本部 技術企画グループ 基盤技術支援部 シミュレーション室 担当課長 |
杉本 諭 | 東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 教授 (レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センター センター長) |
徳永 雅亮 | 電気学会 次世代永久磁石の研究開発動向と応用に関する調査専門委員会 副委員長 |
西内 武司 | 日立金属(株)機能部材事業本部 機能部材研究所 磁性材料研究部 主管研究員 |
森迫 昭光 | 信州大学 名誉教授 |