産学共創の場

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技術テーマ「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」
令和元年度産学共創の場 開催レポート

国立研究開発法人科学技術振興機構
産学連携展開部 テーマ型研究グループ

 産学共創基礎基盤研究プログラム(以下、本プログラム)では、産業界で共通する技術的課題を「技術テーマ」として設定し、技術テーマの解決に資する大学などによる基礎基盤研究を10年度に渡り実施する。

 大学などの基礎基盤研究を企業主導の実用化フェーズに繋げるためにはどのようなマネージメントが有効であるか。基礎基盤研究を実施中の段階から産業界のニーズ、視点や知見などを生かしていくためにはどのような方策があるか。これらの研究を推進する上で直面する課題の解決を目的に、本プログラムでは産と学の対話を促す「産学共創の場」を構築する。

 産学共創の場は技術テーマごとに年に1回程度開催し、産業界の研究開発担当者と研究者が非公開で研究計画・進捗に関するディスカッションを行う。いわゆる研究成果発表会とは異なり、産業界のニーズなどを研究開発にフィードバックするほかに、研究成果を早期に産業界が活用できる機会を提供することが目的である。この場をきっかけに企業との共同研究に発展したケースは数知れない。

 技術テーマ「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」(以下、「テラヘルツ」)は平成22年度に設定され、令和元年度末に終了を迎える。令和元年11月28日(木)に東京工業大学ディジタル多目的ホール(東京都目黒区)で最後の産学共創の場を開催し、研究者、産業界の研究開発担当者など総勢112名(うち、産業界からの出席者は32社46名)が参加した。研究者と産業界が10年かけて構築した産学共創の場の最終回をレポートする(※1)。

産学連携における基礎基盤研究の意義

 開会にあたり、JSTで本プログラムを運営する産学連携展開部 部長 笹月俊郎は、「10年の長きに渡って本テーマを引張って頂いたプログラムオフィサー(PO)はもとより、アドバイザーや産業界の皆さまには大変感謝している」、「産業界の方々からご意見を頂きながら大学の基礎基盤研究を行うという本プログラムのような制度は大変重要である」、「産業界の方々には、本テーマの成果を含めて「テラヘルツ波」に係る研究開発・技術の発展へのご支援をお願いしたい」と開催挨拶を述べた。

 技術テーマ設定当初からPOを務める東北大学 名誉教授 伊藤弘昌氏は、「本プログラムで一番重要なのは産学連携で基礎基盤研究を行うこと」、「産学連携研究は普通、研究のスタート時に産業界とある程度の関係を持って提案するが、本プログラムではアカデミアの基礎基盤研究に産業界から自由にご意見を頂く」、「基礎基盤研究は新しい分野を切り開くのに本当に重要、将来の日本の技術を立ち上げるためにご協力頂きたい」と述べた。

 さらに、「研究成果がなかなか産業化に結びつかないのは、研究成果を使う方からのフィードバックがきちんとなされてないため」とし、テラヘルツテクノロジープラットフォーム(TTP)の取り組みを紹介した(※2)。「テラヘルツ波の応用には新たな可能性とその展開には明るい未来があると思っている、それを感じてもらえる1日としたい」と結んだ。

  • 会場の様子
    会場の様子
  • PO
    伊藤 弘昌プログラムオフィサー

産業界のニーズを研究開発に生かす

 「テラヘルツ」では10年間で4回の公募を実施し、24件の研究課題を採択した。研究期間は2~5年で、平成28年度の公募を最後に順次、研究期間の終了を迎えている。令和元年度の継続課題5件の研究代表者が研究開発の進捗状況を報告し、協議(ディスカッション)を行った。

 協議では、しばしば研究内容に関する質疑に加え、「こうしたら研究が進展する」、「このような特性データがほしい」、「サンプルを提供したい」といった具体的な提案がある。この日も、電子スピン共鳴(ESR)法を用いたイメージング開発に対して「サルファ系金属化合物の観察」といった用途の提案、MEMSボロメータ開発に対して「中赤外線への適用可能性」、フェルミレベル制御バリア(FMB)ダイオードを用いたテラヘルツ波検出器開発に対して「パッシブイメージングの欧米製品に対する優位性の明確化」といった要望が会場から多数寄せられた。

令和元年度継続課題の研究代表者(発表順)

  • 梶原 優介
    東京大学生産技術研究所 准教授
    【研究課題名】エバネッセント波のナノスコピーによる新規物質計測法の開拓
  • 研究代表者1
  • 大道 英二
    神戸大学大学院理学研究科 准教授
    【研究課題名】テラヘルツ電子スピン共鳴イメージング法の開発
  • 研究代表者2
  • 加藤 和利
    九州大学システム情報科学研究院 教授
    【研究課題名】大規模半導体モノリシック光集積技術によるテラヘルツギャップの打破
  • 研究代表者3
  • 平川 一彦
    東京大学生産技術研究所 教授
    【研究課題名】MEMS共振器構造を用いた非冷却・高感度・高速テラヘルツボロメータの開発
  • 研究代表者4
  • 伊藤 弘
    北里大学一般教育部 教授
    【研究課題名】ヘテロバリアダイオードを用いたテラヘルツ波イメージャーの開発
  • 研究代表者5

キーデバイス開発に向けた応用展開

 本プログラムの終了課題から2件の招待講演を行った。理化学研究所 光量子工学研究センター テラヘルツ光源研究チーム チームリーダー 南出泰亜氏より、「社会実装に向けたテラ・フォトニクス研究開発」と題して、高輝度テラヘルツ光源の開発の概要と、社会実装に向けた非線形テラヘルツ波発生検出による高速危険ガスモニターの実証実験、光源の小型化への取り組みをご講演頂いた。

 これまでに非線形光学効果を用いた波長変換による高効率・高出力(100キロワット級)テラヘルツ波発生を実現し、コンパクトで高性能なテラヘルツ波光源を開発した。ガス検知では、空港などのセキュリティゲートを想定した高感度(<1ppm)・リアルタイム(1秒以下)で検知可能な検出システムのデモンストレーション動画を紹介した。光源の小型化では手のひらサイズのプロトタイプ発振器を開発し、構造物や工場におけるその場観察の適用例を示した。動画やプロトタイプのデモンストレーションは将来の製品化をイメージできるテラヘルツ波研究の進展を肌で感じられるものであった。

 続いて、東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授 浅田雅洋氏より、「超小型・高効率RTD発振器」と題して、共鳴トンネルダイオード(RTD)によるテラヘルツ波の室温発振特性と、応用展開として分光測定、テラヘルツレーダー(透過性を利用した3Dイメージング)への取り組みをご講演頂いた。

 RTDの電子遅延短縮とアンテナの導体損低減により、直近では1.98THzでの発振(室温単体デバイスで最高)を実現し、さらに高周波と高出力化に取り組まれている。吸収スペクトル測定では、分光用マイクロチップへの展開可能性を示した。レーダーへの応用は、欧米の研究グループが進めているトランジスタを用いた技術と比較して、高周波に対応可能、回路が容易な点で優位性があり、製品化が大いに期待できるものであった。

  • 招待講演者1
    招待講演の南出泰亜氏
  • 招待講演者2
    招待講演の淺田雅洋氏

産業応用展開と将来展望

 「テラヘルツ」の産学共創の場の特徴として、産業界の製品開発事例を紹介する取り組みも行ってきた。今回は、テラヘルツのアドバイザー(外部有識者)である、株式会社アドバンテスト 新企画商品開発室TASプロジェクト 担当課長 山下友勇氏より、「テラヘルツ製品の開発と産業応用展開」と題し、同社の製品開発の取り組み、産業利用の展開例、将来展望をご講演頂いた。

 同社は、2004年にテラヘルツ波技術の研究開発を開始した。当時、社内ではテラヘルツ波応用システムに必要な要素技術の見極めに注力し、高速測定技術、超短パルス光発生技術、広帯域テラヘルツ発生技術の3点を要素技術と見定め、自社開発を推進したと言う。その後、2010年よりテラヘルツ分光イメージングシステムの販売を開始し、テラヘルツ波応用市場向けに事業を展開してきたことなどを紹介頂いた。最後に、今後注目すべき産業応用分野と必要な要素技術・システム化技術について、短期視点(2年後)から長期視点(5~10年後)で提示し、「テラヘルツ」の研究課題の多くが産業応用に直結する要素技術であり今後の活躍が期待されると述べた。

 質疑応答では、大学などの研究者が強化すべき技術開発要素として、欧州が独占状態にあるテラヘルツ波発生・検出素子である1.5um帯光伝導スイッチの国産化を挙げるとともに、6G(第6世代移動通信)でのテラヘルツ帯域の利用見込みを踏まえ、テラヘルツ分光を含む計測技術の国際標準化の必要性についても言及した。

特別講演者
特別講演の山下友勇氏

ポスターセッションと製品展示

 会場をメディアホールに移し、終了課題を含む全採択課題のポスターセッションを行った(※3)。北里大学 教授 伊藤弘氏の研究成果であるFMBダイオードの製品展示を受託製造元であるNTTエレクトロニクス株式会社が実施した。

  • ポスターセッション
    ポスターセッションの様子
  • 製品展示
    フェルミレベル制御バリア(FMB)ダイオードの製品展示

全体協議・まとめ

 伊藤POの進行により、1日の議論のまとめとして産業界の方々からコメントを頂いた。

「企業単独ではできなかったデバイス開発がJSTのサポートのお陰で実現できた」
「アプリケーションとして色々なことに使える」
「社会実装、実用化のためには半導体をベースとしたテクノロジーが必要だと皆さん思っていたと思うが、実際にデバイスを作り、検証したことが産学共創の10年の素晴らしさである」
「テラヘルツ波研究は次のフェーズに移り、確実にシステムベースの社会実装や新しいシステムが生まれるであろう」
「大学や研究機関の先生方がわからない製品のコスト構造の部分を協力して解決していきたい」

といった期待の声が寄せられた一方で、

「JSTだから先端的なことをもっとやって欲しい」
「日本の半導体デバイス開発を危惧する、日本のオリジナリティを生かしてほしい」
「異物検査で有機体の中に異物である有機体が含まれるようなものを検出したい」
「今後6Gでテラヘルツ帯域(100~300GHz)を使うと言われているので、ここで産学共創が終わって良いのか、これから本当に必要な基礎研究をJSTで10~15年やるべきではないか」
「産業応用の場面では基礎研究段階では思いもよらないスペックを要求されることが多々あるので、応用に入る段階では耳を傾けて頂くと最終的により良いものができる」

といった意見や、さらなる特性向上に対する要望の声があがった。伊藤POはTTPの登録デバイスを増やして皆さんに使っていただけるようにしたいと産学共創の場をしめくくった。

1128集合写真
産学共創の場恒例の集合写真も今回が最後

結び・謝辞

 実用化に資する様々な研究成果に対して産業界の方々から高い評価を頂き、本プログラムが果たした役割の大きさを実感した1日であった。ある研究者が「研究に「ナノ」がつけば持て囃された時代があったが、今ではナノレベルの研究は当たり前になった、「テラヘルツ」研究も直にそのような時代を迎えるだろう」と話されていたのが印象的だった。「共創」という言葉も同様で、今では巷にあふれているが、本プログラムが始まった平成22年度当時はまだ世間では馴染みの薄い言葉であった。10年「共創」に取り組んだからこそ普及したようにも思える。

 最後に、産学連携でありながら基礎基盤研究を推進する希有なスキーム対して、共創のコンセプト「研究成果を共(とも)に創(つく)る」の実現にご尽力を頂いた伊藤PO、アドバイザー、研究者の先生方、ならびに「産業界」としてご支援を頂いた各企業の皆さまに、この場をお借りして深謝する。

 今回の産学共創の場は、シンポジウム「テラヘルツ科学の最先端Ⅵ」(令和元年11月28日(木)~30日(土))との併催で開催した。同シンポジウムの主催団体である、日本分光学会 テラヘルツ分光部会、応用物理学会 テラヘルツ電磁波技術研究会、テラヘルツテクノロジーフォーラム、電子情報通信学会テラヘルツ応用システム特別研究専門委員会には併催の機会を頂き、多大なご支援を頂戴した。ここに感謝の意を表する。

※1 当日のプログラム

※2 テラヘルツテクノロジープラットフォーム(TTP):https://www.jst.go.jp/kyousou/ttp/index.html
  研究開発・試作中の先進的な素子や装置・システムを使用頂き、供試結果を素子や装置・システムの研究・開発者にフィードバック頂くことで実用化を推進する取り組み令和元年12月現在15機器を登録、申請方法は上記URLを参照

※3 研究課題のポスターデータ:https://www.jst.go.jp/kyousou/theme/kb.html

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