戦略目標
「大きな可能性を秘めた未知領域への挑戦」(PDF:14KB)
平成9年度採択分
超高圧プロセスによる天然ダイヤモンド単結晶・多結晶体の成因解明
研究代表者(所属)
赤石 實(物質・材料研究機構物質研究所 超高圧グループ ディレクター)
概要
世界トップレベルの超高圧合成装置を駆使し、5-10 GPa, 1000-3000℃の広範囲の圧力温度領域で天然ダイヤモンド単結晶・多結晶体の成因解明研究を行った。その結果、天然ダイヤモンド単結晶の成因をほぼ 解明することに成功するとともに、解明研究を発展させて、天然の高純度ダイヤモンド多結晶体"バラス"類似の高純度透光性ダイヤモンド多結晶体の合成に成 功した。
磁気力を利用した仮想的可変重力場におけるタンパク質結晶成長
研究代表者(所属)
安宅 光雄((独)産業技術総合研究所人間系特別研究体 グループリーダー)
概要
超伝導マグネットがタンパク質結晶成長(あるいは製造や反応の過程一般)に及ぼし得る作用としては、磁場 による配向の効果と、不均一磁場だけが作れる磁気力による浮上などの効果の双方が考えられる。しかし従来、cm立方程度の空間内でさえ磁気力を均一化させ たマグネットはなく、両効果を区別して論じることも磁気力で対流などを抑制することも至難であった。そのようなマグネットを初めて設計・製造すると共に、 双方の効果がそれぞれタンパク質の良質単結晶の合成に役立つ例と理由を示した。
深度地下極限環境微生物の探索と利用
研究代表者(所属)
今中 忠行(京都大学大学院工学研究科 教授)
概要
深度地下極限環境から新規微生物の探索を進め、-10℃でも生育可能な低温菌、至適生育温度が95℃で酸 素を利用する好気性超好熱始原菌などを分離した。一方、超好熱始原菌Thermococcus kodakaraensis KOD1株由来タンパク質の諸特性を解析することにより、新規構造を有する酵素や新しい代謝経路を発見した。また耐熱性酵素特有の熱成熟という現象を見出 すとともにタンパク質の耐熱化機構を解明することができた。KOD1株に関してさらに、全ゲノムの塩基配列を決定するとともに、超好熱菌としては初めて特 異的遺伝子破壊系の構築に成功した。
新しい量子自由度・軌道の動的構造の解明
研究代表者(所属)
遠藤 康夫(東北大学金属材料研究所 教授)
概要
多様な電子物性を示す遷移金属酸化物のスピン、軌道、電荷、格子などの複数の自由度の協調もしくは競合の 探究の為に中性子、放射光X線の性質の異なるプローブを利用する新技術を開発した。世界最強の光源を持つSpring8 にX線非弾性散乱装置を建設し、軌道の動的構造の研究を開始した。巨大磁気抵抗効果を示すMn酸化物中の共鳴X線非弾性散乱によって電子励起を観測した。 その上、中性子散乱による高温超伝導銅酸化物のスピンの1次元的なゆらぎ構造と運動の存在を発見した。このような新奇な動的構造の発見は強相関電子の協調 現象のミクロ機構の解明に重要な役割をもたらす。
超過冷却状態の実現と新機能材料創製
研究代表者(所属)
戸叶 一正((独)物質材料研究機構 超伝導センター 技術参事)
概要
大きな過冷却状態を利用して、超伝導、磁性、光学等の機能特性を改善する新しい材料プロセスを開発するの が本研究の目的である。その結果、浮遊溶解によるNb、Mo高品質球状単結晶の作製、Nd-123系超伝導体、YIG光学材料、Nd2Fe14B強磁性体 等包晶反応系機能材料での調和成長と単相化の成功、Bi-2212超伝導ひげ結晶を使った交叉接合型ジョセフソン素子の開発などの成果を挙げた。またその 間、静電浮遊溶解装置など過冷却を効果的に得るための技術開発を行うなど、材料開発への新しいアプローチを切り開いた。
局所高電界場における極限物理現象の可視化観測と制御
研究代表者(所属)
藤田 博之(東京大学 生産技術研究所 教授)
概要
本研究では、超高分解能電子顕微鏡の狭い試料室内に収まる数mm角のチップ中に、マイクロマシンの技術を 用いて、精密なナノ構造とその動きをnmの精度で自在に制御するアクチュエータ、外部への接続端子などを全て集積化したデバイスを新たに創り出した。これ に基づき、局所高電界場に特有の量子現象である電界電子放出現象、真空 トンネル現象などを、構造や電界分布の可視化手法および電気計測を用いて観測した。さらに第一原理に基づく計算手法を考案し、局所高電界場における新規の 現象の予測と、実験結果の正しい解釈を可能にした。
強磁場における物質の挙動と新素材の創製
研究代表者(所属)
本河 光博(東北大学 名誉教授)
概要
30 Tハイブリッド磁石および無冷媒型超伝導磁石を使って、1)磁気浮上効果による塩化アンモニウムの容器なし結晶成長、ガラスの坩堝なし溶融と球状微粒子作 成、および2)磁場配向効果による高温超伝導体特性改善、蛋白質の良質単結晶育成、ポリマーの磁気電解重合、有機半導体の結晶成長、磁性薄膜の創製が行わ れた。またそれに関連した強磁場技術として高強度Nb3Sn線材開発と無冷媒型23Tハイブリッド磁石の開発がなされた。
平成8年度採択分
低次元金属・超伝導の超異方性強磁場効果
研究代表者(所属)
石黒 武彦(京都大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
層状導体の層面に沿って強磁場を掛けることによって実現される、強磁場極限状態にある超伝導を、輸送現象並びに熱力学的特性の測定により解明し、超伝導体の磁場による破壊効果に関わるスピン分極の寄与を明らかにした。特に、二次元金属であるSr2RuO4が三重項超伝導体であることをスピン状態の解明によって決定づけ、磁場下における超伝導多相現象を見出した。さらに、層面に平行に掛けられた磁場下での磁束状態を解明した他、Ru酸化物、分子性導体の新物質を開発した。
複合極限の生成と新現象の探索(超高圧・超強磁場・極低温)
研究代表者(所属)
遠藤 将一(大阪大学 極限科学研究センター 教授)
概要
超高圧・極低温下にある極微少試料の電気抵抗と精密磁化測定法、さらに外部磁場を加えた下でのメスバウ アー分光法、80テスラ非破壊パルスマグネットなどの極限科学を強力に推進する技術を開発した。酸素や鉄の高圧相における超伝導発現に初めて成功し、バナ ジウムのTcが17Kに達することを確認した。水素結合型結晶KDP、DKDPの強誘電相転移機構の解明に貢献し、氷の融点の圧力依存から超イオン伝導相 の存在の可能性を見出した。
準結晶の創製とその物性
研究代表者(所属)
蔡 安邦(物質・材料研究機構 材料研究所 チームリーダー)
概要
本研究は新しい準結晶合金の開発と準結晶の構造と物性の本質解明を主な目的とした。20種以上の安定な準 結晶合金を発見し、特に2元素からなる安定準結晶合金の発見は準結晶研究分野に大きなインパクトを与えた。また世界に先駆けて多くの良質単準結晶の育成に 成功し、構造解析および物性解明に貢献した。構造解析では準結晶用のワイセンベルクカメラ自動測定システムおよび解析手法を開発し、高分解能電子顕微鏡と 併用して多くの準結晶の構造を精密に解析した。単準結晶の物性解明では準結晶に特有な磁気相関および力学的性質を明らかにした。準結晶粉末が高い触媒活性 を示すこと、および単準結晶を基板に用いて新物質が創出できることを発見した。これらの成果は今後の準結晶研究に新しい展開をもたらす。
低次元異常金属の開発
研究代表者(所属)
佐藤 正俊(名古屋大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
高温超伝導銅酸化物の異常金属相を表す相図を、実験的に決定付け、その超伝導を含めた物性が、本質的に は、Cuスピンの反強磁性相関とsinglet電子対相関(擬ギャップ)とが織り成すものであるとした。さらに、理論的にも相図を再現した。これは超伝導 発現機構を特定するものである。また、singlet基底状態に沈み込む多くの低次元量子スピン系、抵抗の巨大圧力効果のBaCo1-xNixS2、フラストレーションを持つモット転移系のパイロクロア型酸化物、スピンアイス系、non-trivialな磁気構造と特異な異常Hall効果が注目される強磁性物質等々、多種多様な物質・物性開拓がなされた。
合金クラスター集合体の極限構造・磁性制御
研究代表者(所属)
隅山 兼治(名古屋工業大学 工学部 教授)
概要
サイズ1-5nmの高機能クラスターを集合させる新しい物質合成をめざした。気相・溶液法で効率よくサイ ズの揃ったクラスターが作製できるようになった。また、クラスターの安定性、クラスター集合体の磁気・電気伝導・光学特性の明瞭なサイズ依存性や温度変化 が観測され、物質科学的基礎が確立した。特に、II-VI族半導体クラスター集合体は、エネルギー・環境上重要な光触媒化学反応(高効率水素発生)を示 し、実用的に有望である。
銅酸化物超伝導体単結晶を用いる超高速集積デバイス
研究代表者(所属)
山下 努(東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授)
概要
超伝導単結晶集積回路とテラヘルツデバイスの開発に成功した。開発した両面加工プロセスは、様々なデバイ ス構造とその集積回路を作製することを可能にした。150ミクロン×170ミクロンの領域に積層スタックを256個直列接続したものを作製することによ り、10,000以上もの固有ジョセフソン接合を形成させることに成功した。さらにその成果をもとにそれらのテラヘルツデバイスを試作した。例えば、 2.5 THzまで観測されたシャピロステップは、テラヘルツ帯の電波天文観測の手段となり、3 Vまで観測された零交差ステップは、高温動作電圧標準器の実現を可能とさせるであろう。さらに、10,000もの固有ジョセフソン接合から成る大規模ア レーは、コヒーレント放射に基づく連続発振テラヘルツレーザーとして特に有望視されている。
平成7年度採択分
超高圧下における水素結合の量子力学現象の創出と発現
研究代表者(所属)
青木 勝敏(物質工学工業技術研究所 首席研究官)
概要
水素結合対称化を伴う氷(VII、VIII)-X転移は温度に依らず、H2O氷では~60GPa、D2O 氷では~72GPaで起こることが観測された。大きな同位体効果はこの転移がプロトントンネリングによって支配されていることを示している。水の一次相転 移とその臨界点が存在する可能性を示し、仮説「水の一次相転移とその臨界点の存在」を支持する初めての実験結果を得た。臨界点は氷IIIとIVの融解曲線 に挟まれた圧力温度領域(230K、50MPa付近)に存在することが示唆された。
超高純度ベースメタルの科学
研究代表者(所属)
安彦 兼次(東北大学 金属材料研究所 助教授)
概要
ベースメタルを限りなく高純度化すると、既知ではない本来の性質が現れる。例えば、鉄を99.999%以 上に高純度化すると、塩酸等の酸に反応しにくくなるばかりか、粒成長挙動や変形機構が変わってくる。また、高純度のクロムと鉄を合金化するとこれまで考え られなかった可塑性を有する特性を有する金属になる。このような本研究成果から、ナノメタラジー(金属を限りなく高純度化し、有用元素を添加し、ナノス ケールで組織制御して、本来の性質を有する金属を創出するメタラジー)の概念が生まれた。
極限環境を用いた超伝導体の臨界状態の解明
研究代表者(所属)
門脇 和男(筑波大学 物質工学系 教授)
概要
超伝導の基礎概念の新構築を試み、超伝導工学の発展に貢献することを目標とし、高温超伝導体の磁束状態や 電子状態を、高品質単結晶を用いた様々な物性測定手段を通して解明してきた。その結果、長さ数cm、幅8 mm、厚さ約0.2 mm程の大型の高品質なBi2Sr2CaCu2O8+δ単結晶の育成に成功し、高温超伝導体の磁気相図の確立、その全貌の解明、固有ジョセフソン接合系の ジョセフソンプラズマ現象の発見、微小素子としてのマイクロ波の発振現象など広範囲にわたる電磁波と超伝導状態の強結合状態の解明を行った。
電子波の位相と振幅の微細空間解像
研究代表者(所属)
北澤 宏一(東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 教授)
概要
位相観測用として1MVの高輝度干渉型電子顕微鏡を完成し(従来の世界最高は0.35MV)、線分解能で49pmの世界記録を達成した。高温超伝導体のボルテックスがハイコントラストでその場観察可能になり、従来のピン止めのようすとの違いが観測された。また、振幅観測用として超高真空・300mK極低温・強磁場型のその場へき開可能なAST(原子位置指定型トンネル分光装置)装置を完成、nmの距離スケールでのピン止めポテンシャルの空間変調に対する情報が得られるようになった。
衝撃波面形成過程と新化学反応プロセス
研究代表者(所属)
近藤 建一(東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授)
概要
衝撃圧縮に伴う極短時間変化過程の微視的描像を明らかにするため、卓上型繰り返しレーザー衝撃圧縮技術と ピコ秒X線回折、ナノ秒ラマン分光、ナノ秒赤外放射測定などを用いた新しい時間分解型測定技術を開発し、Si結晶の衝撃波面形成と緩和、ベンゼン分子の過 渡配向と応力緩和、NaCl結晶の非熱的エネルギー局在などを見い出し、物質科学におけるメゾスコピックドメインダイナミクス研究への道を拓いた。さら に、レーザーガンやガスガンあるいは爆薬によって、未踏圧力の発生と計測及び回収技術を確立し、テラパスカル高圧科学の道を拓いた。
反強磁性量子スピン梯子化合物の合成と新奇な物性
研究代表者(所属)
高野 幹夫(京都大学 化学研究所 教授)
概要
低次元格子を舞台とする新奇な電子物性を探索した。2本脚梯子系典型物質であるSrCu2O3や Sr14-xCaxCu24O41における新奇な磁性と超伝導の機構の解明、高濃度鉛置換したBi-2212超伝導体における臨界電流密度の大幅な改善、 電子ドープ系Nd2-xCexCuO4の超伝導ギャップの直接観測、高温超伝導機構に迫る新しい研究材料であるCa2-xNaxCuO2Cl2の単結晶の 作製、YBa2Cu4O8における磁場中での劇的な鎖内への電荷の閉じ込めの発見、LiV2O4における3d遷移金属化合物では初めてのヘビーフェルミオ ン状態の発見、層状六方晶構造をもつMgB2における転移温度40Kの超伝導の発見などの成果を得た。
画素の小さいX線検出用CCDの開発
研究代表者(所属)
常深 博(大阪大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
入射X線のエネルギー、画像、時刻を同時に測定できるX線用CCDの開発を進めた。これは、厚い空乏層、 低雑音、小さな画素を目指したもので、エネルギー毎のX線画像を取得できるX線カラー撮像装置となります。空乏層厚さは50μm程度、雑音レベルは電子換 算で3個程度とX線を能率よく検出できる他、入射位置精度はサブμmを達成した。また大面積を達成できるようになっており、8素子をほぼ稠密に並べること ができ、5×10cm2を実現した。将来的には、宇宙プラズマの観測や新しいX線顕微鏡の開発などへの応用が期待される。
極限ストレス土壌における植物の耐性戦略
研究代表者(所属)
森敏(東京大学 大学院 農学生命科学研究科 教授)
概要
イネ科植物で3価鉄イオンのキレーターである「ムギネ酸」生合成経路を確定し、その経路上の8つの関連遺 伝子を同定した。その中のニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子をイネに遺伝子導入して、石灰質アルカリ土壌耐性イネの作出に成功した。一方、酵母の3価 鉄還元酵素遺伝子、Fre1、の至適pHをアルカリ側に進化工学的手法で改変して、これを双子葉植物の代表としてタバコに遺伝子導入して、石灰質アルカリ 土壌耐性タバコの作出に成功した。以上で得られたイネとタバコは今後の石灰質アルカリ土壌耐性品種の育成のための母本の候補となるものである。