戦略目標
「大きな可能性を秘めた未知領域への挑戦」(PDF:14KB)
平成9年度採択分
完全フォトクロミック反応系の構築
研究代表者(所属)
入江 正浩(九州大学 大学院 工学研究科 教授)
概要
フォトクロミック分子は、光の照射により可逆にその分子構造を変えます。この分子系を対象に、反応空間、 反応時間、エネルギーなどを規制して副反応を完全に排除した高耐久・高感度可逆光反応系を構築することをめざします。この完全フォトクロミック分子系は、 光スイッチ素子をはじめとするオプトエレクトロニクス分野への応用の可能性を秘めています。
超臨界流体溶媒を用いた反応の制御と新反応の開拓
研究代表者(所属)
梶本 興亜(京都大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
超臨界流体は、臨界温度直上の条件下にある流体で、圧力を調整することによって密度や極性を自在に変え、 溶解している分子が感じる「ミクロな反応環境」をコントロールすることができます。本研究は、超臨界流体中で反応している分子のミクロな反応環境や反応中 間体を直接観測し、これと反応速度・反応分岐率を系統的に結びつけることによって反応を制御し、新しい反応を開拓する道を開き、新物質の合成などにつなげ ることをめざします。
金属クラスター反応場の構築とクラスター触媒反応の開発
研究代表者(所属)
鈴木 寛治(東京工業大学 大学院 理工学研究科 教授)
概要
従来用いられてきた合成化学的手法では達成することのできない新しく効率的な分子変換反応の開発を目的と して、金属クラスター反応場を設計・構築します。さらに、固体触媒と錯体触媒の両者の長所、すなわち反応の高速性と高選択性を兼ね備えたクラスター触媒の 開発をめざします。
超天然物の反応制御と分子設計
研究代表者(所属)
平間 正博(東北大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
ビラジカルを発生してDNAを切断する低分子とそれを安定化して運ぶ蛋白質複合型抗癌抗生物質や、イオン チャンネル蛋白質に結合して猛烈な神経毒性を発揮する天然物の蛋白複合体の立体構造と機能発現原理を明らかにします。更に、天然物の機能を超えるラジカル 発生分子や蛋白複合体を化学合成する新しい方法論を開拓して、機能性材料や医療応用への可能性を探ります。
遷移金属を活用した自己組織性精密分子システム
研究代表者(所属)
藤田 誠(東京大学 大学院 工学系研究科 教授)
概要
生体構造の形成にも見られる自己組織化のしくみを人工的な系に利用することで、高次な構造や機能を持った 分子を複数の小分子から自発的に組み立てることができます。本研究では、適度な結合力と明確な方向性を持った配位結合に誘起され精密分子構造体が一義的に 自己組織化する系を研究し、従来の合成化学では到達できない新しい分子・物質の構築法を創成します。これにより、将来的には機能性材料や医療応用への展開 が期待されます。
生体分子解析用金属錯体プローブの開発
研究代表者(所属)
松本 和子(早稲田大学 理工学部 教授)
概要
生体分子の高感度時間分解蛍光検出用希土類錯体ラベル剤、近赤外域用エルビウム蛍光ラベル剤、核酸の二重 鎖を塩基配列選択的に光切断する白金(III)二核錯体の合成と検出器の開発を行い、生体分子を分子レベルで解明するための高感度検出システムと核酸の塩 基配列特異的検出法を開発します。これにより、将来的には医療分野への展開が期待されます。
平成8年度採択分
ダイヤモンド-有機分子の化学結合形成機構と制御
研究代表者(所属)
安藤 寿浩(物質・材料研究機構 物質研究所 主任研究官)
概要
我々のグループではダイヤモンドおよびその類似物質に関する合成および表面の化学修飾に関する研究を進め ている。ダイヤモンド表面の炭素原子は通常、水素あるいは酸素などの異元素によって終端されている。この終端構造は、有機化学の官能基のごとく様々な化学 構造が存在し、この表面の化学吸着状態によってダイヤモンド結晶の表面物性(例えば、電子親和性、表面電導性、表面電位、仕事関数といった物性値)にも 様々な変化が認められる。我々のグループではダイヤモンド表面を有機化学的な観点から、表面化学吸着状態を制御し、ダイヤモンド表面への有機分子の化学結 合を試みている。さらにダイヤモンド表面(特に酸化ダイヤモンド表面)上での微量金属元素の触媒活性について検討し、ある種の金属が酸化ダイヤモンド表面 との弱い相互作用によって特異な触媒活性を示すことを明らかにしている。また、これらダイヤモンド表面での反応を応用することにより、気相中あるいは液相 中で、ダイヤモンド表面へのカーボン・ナノチューブ、ナノウィスカー等炭素ナノ材料の形成、複合材料開発を行っている。と期待される。
低次元超構造のコンビナトリアル分子層エピタキシー
研究代表者(所属)
鯉沼 秀臣(東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授)
概要
一つ一つ作っては評価する従来の物作りに代って、組成や作製条件を系統的に組み合わせた一連の物質・材料 群(マテリアルライブラリー)を、高速に作り高速に評価するシステムを提案し実証した。特に、ライブラリー構成成分のナノ構造体を設計する高速計算化学プ ログラム、ナノ構造を集積合成するコンビナトリアル分子層エピタキシー法、および2、3のナノスケール高速物性評価技術、を世界に先駆けて開発した。これ により、新しい機能材料として期待される酸化物と有機半導体を中心に、電子、光、磁気、誘電、熱電、超伝導、およびこれらの複合機能が期待される新物質、 材料、超格子、分子層コンポジット、接合素子ライブラリーのスクリーニングを行い、従来の10~100倍の研究開発効率の向上を達成した。さらに、コンビ ナトリアル手法でなければ得られなかった成果として、透明磁性体の発見や新電界効果デバイスの開発も特筆される。本プロジェクトにより、世界のコンビナト リアル材料科学研究の中核となる前進基地を築いた。
多種類化合物群の効率的合成を指向した分子レベルでの反応開発
研究代表者(所属)
小林 修(東京大学 大学院 薬学系研究科 教授)
概要
我々は、1.有機合成化学における「効率性」向上と、2.環境調和型触媒系の開発について研究を行った。 前者の研究により、固相合成法や不斉触媒等の、化合物ライブラリー合成のための新手法の開発を行うことができた。また、後者の研究により、従来とは異なる 反応媒体(水など)を用いる合成反応を開発した。水は、多くの有機反応を阻害してしまうなどの問題点を有しており、反応溶媒(特に有機金属を用いる反応の 溶媒)としては適さないことが多い。一方我々は、水を溶媒として用いる幾つかの触媒反応系を開発した。これらの反応により、有害な有機溶媒の使用を低減化 できる。また、超臨界二酸化炭素を反応媒体とする触媒系も開発した。これらの一連の研究成果は、将来の有機合成化学の発展に大きく寄与するものと期待され る。
生体機能分子の設計と精密分子認識に基づく反応制御
研究代表者(所属)
齋藤 烈(京都大学 大学院 工学研究科 教授)
概要
DNAや蛋白の構造が、近年X線やNMRにより原子のレベルでとらえられ、複雑な生体分子間同士の分子認 識を化学のレベルで追求できる段階に達し、世界の最先端の化学のターゲットは生体分子へと向かっている。本研究は、遺伝子DNAのかかわる分子認識を化学 のレベルで精密にとらえ、これに基づいて極限機能を発揮できる機能分子を設計合成し、将来のゲノム産業に役立てる事を目的とする。本研究は、精密ゲノム化 学に基づく生体機能分子の創製をめざしたもので、学術的にも実用的にも重要な研究成果が得られた。具体的には、1)任意のDNA塩基配列をアルキル化する テーラーメイドの次世代ドラッグの開発、2)DNAミスマッチ認識分子のデザインとこれを利用する1塩基多型(SNPs)検出チップの開発、3)光を用い る遺伝子操作法の開発、4)特異な構造と機能をもつ人工DNAの合成とバイオテクノロジーへの応用、5)GGスタック則の発見とDNAのHOMOマッピン グ法の開発などDNAの持つ本質的な化学的性質の解明、6)DNAを媒体とする電子移動とその制御に関する研究、7)人工DNAナノワイヤーの開発、8) 抗ガン剤アンプリファイアーの開発、などである。
ヘテロ原子間結合活性化による新物質・新反応の開拓
研究代表者(所属)
田中 正人(東京工業大学 資源化学研究所 教授)
概要
ホウ素、ケイ素、スズ、リン、イオウ等のいわゆるヘテロ原子を含む物質群は、有機合成化学において重要な 役割を果たしつつある。一方、医薬・農薬、触媒もしくは触媒助剤、機能性高分子、高分子添加物、半導体材料、金属抽出剤等、ヘテロ原子化合物自身の機能に 着目した応用に関しても研究が進展しつつある。しかし、炭素-遷移金属結合の化学を基礎とする有機金属化学とそれを基礎とする触媒技術の隆盛に比較して、 ヘテロ原子-遷移金属結合を基礎とする無機金属化学や触媒反応への応用は未開拓である。本研究においては、ヘテロ原子系物質群の無機金属化学、触媒技術の 有用性を示すことに力点を置きつつ、これらの物質群の持つ機能探索を行ってきた。この中から、ホウ素、ケイ素、リン、ビスマス、テルルを含む物質の合成と 機能に関して到達点を総括する。
大分子糖蛋白質の極微細構造制御
研究代表者(所属)
中原 義昭(東海大学 工学部 教授)
概要
現在では糖蛋白質に結合する糖鎖が多くの生物現象に関与していることはよく知られている。しかしながら、 天然から得られる糖鎖サンプルが微量であることとその糖鎖構造が不均一であることからそれら糖鎖の機能を分子レベルで研究することには障害があった。した がって純粋な糖鎖および複合糖質サンプルの効率的な化学合成法の確立が真に望まれていた。本研究では1)オリゴ糖と糖ペプチドの新規な方法論確立、2)プ ロテオグリカン関連複合糖質の合成、3)糖蛋白質の全合成、4)非天然型糖鎖の合成を課題として研究を行った。合成したEMMPRINのIg様ドメインⅠ 糖ペプチドがガン転移に関わるコラゲナーゼ産生に活性を示したことは糖鎖機能解明に向けた本研究の特筆すべき成果である。
平成7年度採択分
新規"有機ゼオライト"触媒の開発
研究代表者(所属)
青山 安宏(九州大学 有機化学基礎研究センター 教授)
概要
回収・再利用可能な高活性の多孔質固体触媒を水中で用いることは究極の触媒反応であろうと考えられる。ラ ンタンをネットワ-ク化した金属・有機ゼオライトは水で分解することなく、基質のミカエリス・メンテン型の取り込みと酸・塩基の共同作用に基づく二官能的 活性化能を持ち、まさに酵素様の触媒作用を示した。これにより、アルド-ル縮合やマイケル付加などの基本的な炭素-炭素結合生成反応を固体触媒を用いて水 中で効率よく触媒的に進行させることが可能となった。この成果は、廃棄物を出さない物質変換プロセスの開発に光明を投げかけるものである。
極微細構造の化学設計と表面反応制御
研究代表者(所属)
岩澤 康裕(東京大学 大学院 理学系研究科 教授)
概要
本研究では、反応条件下での動的な表面極微細構造反応解析法を開発して表面化学過程を直接捕らえ、単一分 子やその集団の反応特性と活性表面創出に関する基本原理を明らかにし、固体触媒表面における完全反応制御を目指した。その結果、複合放出電子顕微鏡、多素 子半導体検出器型全反射蛍光X線吸収微細構造測定装置、および時間分解エネルギ-分散型X線吸収微細構造測定装置の開発に成功し、表面ナノ~ミクロ領域の 相転移伝播現象の発見や、3次元異方性表面活性金属構造の解析に成功した。そしてそれらの知見から、高活性高選択性レニウム系触媒の発見や、新触媒概念 “SurfaceCatalytic Reactions Assisted by Gas Phase Molecules”の発見、などの成果をあげた。
X線解析による分子の励起構造の解明
研究代表者(所属)
大橋 裕二(東京工業大学 大学院 理工学部 教授)
概要
本研究では物質を構成する分子が光や熱で励起した状態の構造を解析して、物質の物理的・化学的性質をその 構造から解明することを目標とした。まず短寿命で不安定な構造を解析するために、イメ-ジングプレ-トを二次元検出器として利用した迅速X線解析装置 (R-AXIS RAPID)を製作した。この装置でこれまで1週間必要であった測定時間を2時間程度まで短縮した。この装置は理学電機(株)から市販されている。さらに 新たな二次元検出器(MSGC)を開発し、わずか1秒で全デ-タを収集して構造解析することができた。これらの迅速X線解析装置を利用して、光照射によっ て生じる不安定なラジカルやカルベンやナイトレンの構造を解析し、また光照射で生じた白金錯体の励起構造を解析することに成功し、準安定な中間体や励起状 態の構造に基づく新たな科学を確立した。
オキシジェニクス(高分子錯体)
研究代表者(所属)
土田 英俊(早稲田大学 理工学部 教授)
概要
オキシジェニクスとは、“酸素の分子科学とその利用技術全般、さらにはそこから派生する材料や広範な応用 の全ての総称”である。酸素の一段階多電子過程を利用すると、室温大気下、空気吹き込みだけで効率よくエンプラ(Polytiophenylene)合成 が可能となる。また、本研究で解明された微小空間を利用する電子移動制御法の採用により、固相膜だけでなく、水溶液系においても酸素の配位濃縮と促進輸送 が実現できる。本研究からは、耐熱性や耐放射線性で、且つプロトン伝導度に優れた高分子や生命維持に必要不可欠な組織細胞の呼吸と生存を保障できる酸素輸 液などの新技術が誕生している。
高次構造を有する有機分子の極微細触媒構造を機軸とする立体選択的構築
研究代表者(所属)
福山 透(東京大学 大学院 薬学系研究科 教授)
概要
新規インド-ル合成法、および二級アミンの合成法を基盤とした効率的な合成経路により、 (±)-vincadifformine、(-)-tabersonine、(±)-catharanthine、(-)-vinblastine、等の インド-ルアカロイド、および( + ) – l i p o g r a m m i s t i n e – A 、H O – 4 1 6 b 、a g e l – 4 8 9 、philanthotoxin-343等のポリアミントキシンの全合成を達成することができた。また、(-)-gelsemine、(-)-CP- 263,114、(+)-K252a、(-)-FR-900482等、複雑な構造を有し医薬的に重要な天然物の全合成を達成することができた。
フェムト秒領域の光反応コントロール
研究代表者(所属)
山内 薫(東京大学 大学院 理学系研究科 教授)
概要
分子が波長の短い紫外線を吸収したり、強い光子場と相互作用すると、その化学結合が切断され、よりサイズ の小さい分子や原子に解離する。したがって、この解離過程を理解することは、化学反応を光でコントロ-ルするための貴重な第一歩である。本プロジェクト は、光の強度が比較的低い場合における分子内振動エネルギ-再分配(IVR)の機構を解明するとともに、光の強度が分子内のク-ロン場の大きさに匹敵する 場合における光と分子の混合状態の理解を目指した。そして、光パルスの持つ強度、波長、パルス幅、2つのパルスの間の時間差をパラメ-タとして取り扱い、 実験と理論の両者の立場から、IVRの詳細な解明とそのコントロ-ル法の提案、強い光子場における分子の変形現象の発見と追跡、さらには、光子場による分 子配向、変形、イオン化の競合過程の同定を行い、光による反応コントロ-ルへの指針を与えた。その過程において短パルス極端紫外レ-ザ-光源、短パルス電 子回折装置、質量選別運動量画像法、代数論的振動力場展開法など新しい実験装置や実験手法の開発に成功した。
次世代精密分子制御法の開発
研究代表者(所属)
山本 尚(名古屋大学 大学院 工学研究科 教授)
概要
有機物質の炭素骨格を効果的に作り上げる上で重要なルイス酸触媒の研究に新展開を生み出した。反応剤どう しの会合を抑え、高い反応性を与えると同時に、固有の反応場を与え、必要な選択性を与えるための反応場を獲得することを目的として、様々なルイス酸触媒、 ブレンステッド酸触媒、及びそれらの組み合わせ触媒等を開発した。その結果、従前の技術では不可能であった触媒的な不斉プロトン化、エステル化、アミド 化、不斉アルド-ル合成等が可能となった。さらに、これによって、今後一層進化したルイス酸触媒設計のための重要な指針を示した。