[生物の発生] 生物の発生・分化・再生

戦略目標

技術革新による活力に満ちた高齢化社会の実現」(PDF:13KB)

研究総括

堀田 凱樹(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 機構長)

概要

 生物の発生・分化の過程をとおして分子・細胞・器官等さまざまなレベルでみられる分子機構、生物の巨視的な姿・形の形成を支配する法則、及び失われた組 織や細胞の復元・再生過程にみられる生物自身が示す調整性やその分子生物学的メカニズムに関する研究、さらには器官形成の研究等を対象とするものです。
 具体的には、発生・分化・再生過程における形質発現プログラムの解析、細胞の個性と多様性の分子機構の解明、幹細胞の増殖・分化に関わるプロセスの解 析、器官形成・組織形成やそのメカニズムの解明等のテーマについて、遺伝学・分子細胞生物学や遺伝子工学等のさまざまなアプローチによる研究を取り上げま す。

平成14年度採択分

細胞周期の再活性化による再生能力の賦活化

研究代表者(所属)
中山 敬一 (九州大学 生体防御医学研究所 教授)
概要
成人において細胞周期に入っている細胞は1%以下の少数の細胞で、その他大部分の細胞は細胞周期から逸脱 して休止状態にあります。幹細胞は細胞周期に再進入する能力を有していますが、最終分化を遂げた神経・心筋細胞は、傷害があってもほとんど再生せず、その 組織の欠損は生命の危機に直結します。本研究では、細胞周期への再進入の分子メカニズムを解明することによって、神経・心筋細胞を細胞周期へ再進入させる 技術の理論的基盤を構築することを目指します。
 

細胞内パターニングによる組織構築

研究代表者(所属)
広海 健 (情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 教授)
概要
組織構築に必要な細胞の運命決定や形態・運動の制御は、細胞間相互作用や細胞外の分泌因子による長距離作 用によって担われていると考えられています。しかし、神経細胞のように長い突起を持つ細胞では、細胞「内」の物質の分布が広い範囲に位置情報をあたえてパ ターン形成を司ることが可能です。本研究では、組織構築というグローバルな現象の根源を細胞内輸送を介した細胞内の分子の局在に求め、新しいパターン形成 パラダイムの確立を目指します。
 

脳構築の遺伝的プログラム

研究代表者(所属)
松崎 文雄 ((独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター グループディレクター)
概要
脳の発生に際だった特徴である神経細胞の多様性はどのような遺伝的プログラムによって形成され、どのよう に機能的な脳構築に組み込まれるのでしょうか。複雑な脳の構築と機能を理解するうえで、これらは根本的な問題です。本研究では、神経幹細胞が多様な神経細 胞を生じる機構と、多様な神経細胞が秩序構造を形成する仕組みを追求し、脳発生に共通の論理を導き出すと同時に、脊椎動物に固有な仕組みを発見することに より、幹細胞応用技術の基盤を構築します。
 

平成13年度採択分

脂肪細胞の分化・形質転換とその制御

研究代表者(所属)
門脇 孝 (東京大学 大学院 医学系研究科 教授)
概要
我が国の第一の死因である心血管疾患の最大の原因であるメタボリックシンドロームの根本的な病態は肥満で 認められる脂肪細胞の肥大すなわち、脂肪細胞の脱分化・形質転換ととらえることが出来ます。本研究では、脂肪細胞肥大に伴うアディポネクチンの低下が形質 転換の本質であることを明らかにし、アディポネクチン受容体AdipoRを世界ではじめて同定し、発生工学的手法によりアディポネクチン・AdipoR経 路が糖・脂質代謝、炎症や酸化ストレス制御に生体内で重要や役割を果たすことを示しました。そしてアディポネクチンやAdipoRを増加あるいは活性化す る化合物・天然分子を見出し、これらがメタボリックシンドロームの根本的治療法となることを示しました。
 

嗅覚系における神経回路形成と再生の分子機構

研究代表者(所属)
坂野 仁 (東京大学 大学院 理学系研究科 教授)
概要
嗅覚系では数百種類の嗅覚受容体遺伝子により、数十万種類の匂い分子が識別されています。この識別を司る 神経回路の形成は、1嗅覚受容体遺伝子-1神経-1投射部位という、基本ルールによって支えられています。本研究では、嗅覚受容体遺伝子の選択的な発現を 支える分子機構と発現される受容体に規定されて生じる神経回路形成の解明を行いました。本研究で得られた成果により、生体の持つ鋭敏なセンシングシステム の新しい技術への応用、嗅覚及び味覚障害の治療などが期待されます。
 

特異的・新規発生遺伝子の機能の網羅的解析

研究代表者(所属)
佐藤 矩行 (京都大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
動物の体は数多くの遺伝子の働きによって作られてきます。この過程は非常に複雑で、体づくりに関わるもの のまだその機能がよくわかっていない遺伝子がたくさんあります。本研究では、ホヤを使ってそうした新規発生遺伝子の機能を網羅的に解析し、80以上の新規 機能遺伝子を発見しました。また、遺伝子の発現と機能をネットワークとして捉えていくことに成功しました。これにより、私達ヒトの体づくりと健康に関わる 遺伝子の理解の飛躍的な進展が期待されます。
 

網膜内領域特異化と視神経の発生・再生機構

研究代表者(所属)
野田 昌晴 (自然科学研究機構 基礎生物学研究所 教授)
概要
網膜神経節から伸長する視神経は視中枢に対し領域特異的な投射を行う。本研究では、この領域特異的神経結 合形成の基盤をなす発生過程における網膜内の領域特異化の分子機構、また、その後に生じる領域特異的神経投射の分子機構を明らかにした。更に、哺乳動物に おける視神経再生の可能性を探る為、魚類を使って再生のための初期遺伝子を探索した。本研究で得られた知見は再生医療への応用が期待される。
 

平成12年度採択分

単一細胞レベルのパターン形成:細胞極性の制御機構の解明

研究代表者(所属)
上村 匡 (京都大学 大学院 生命科学研究科 教授)
概要
個々の細胞は、個体の正常な活動に必要な機能を遂行するために、それぞれの使命に応じた非対称的なパター ン/極性を発達させます。この研究では、神経突起のパターン形成や上皮細胞の極性化に注目して、それらの細胞が組織内における自分の位置と向きを解読し、 細胞骨格を再編成させて極性を顕在化させる仕組みを明らかにしました。またその仕組みを支える新しい細胞認識分子や酵素を発見しました。この研究の成果 は、細胞極性の発達不全が原因で起きる、遺伝病の発見につながることが期待できます。
 

幹細胞システムに基づく中枢神経系の発生・再生研究

研究代表者(所属)
岡野 栄之 (慶應義塾大学 医学部 教授)
概要
この研究では、神経幹細胞から神経系を構成する多様な細胞集団が発生・分化していく過程の分子機序を明ら かにするとともに、神経幹細胞あるいは胚性幹細胞から特定の細胞への分化誘導法、および神経幹細胞や特定種のニューロンの同定・分離法を開発し、これらの 技術を集約して神経変性疾患や脊髄損傷の新しく有効な治療法に結びつく基礎技術の確立に成功しました。
 

Genetic dissectionによる神経回路網形成機構の解析

研究代表者(所属)
岡本 仁 ((独)理化学研究所 脳科学総合研究センター グループディレクター)
概要
神経回路網形成の分子機構を明らかにするため、ゼブラフィッシュを用いて神経細胞(特に運動神経)の分化 に異常を持つ突然変異の大規模スクリーニングを行い、それらの原因遺伝子を同定しました。さらに、時期と場所に特異的な遺伝子の異所性発現を行うために ケージドmRNA技術を開発し、脳形成に関わる遺伝子の相互作用を解析しました。これらの研究によって神経細胞の分化、移動、軸索伸展の新たな仕組みを明 らかにすることができ、得られた結果を今後脳神経の修復治療に役立てます。
 

生殖細胞形成機構の解明とその哺乳動物への応用

研究代表者(所属)
小林 悟 (自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 教授)
概要
脊椎・無脊椎動物に共通する生殖細胞形成機構を明らかにするため、発生運命を生殖細胞に限定させる働きを 持つ母性因子の解析を行ってきた。この中でNanosタンパク質は、ショウジョウバエとマウスに共通して生殖細胞形成に関与することが明らかになった。さ らに、生殖細胞形成過程で働く遺伝子を網羅的に同定することもできた。これらの研究は今後の生殖細胞形成機構解明の基盤となる。
 

器官形成における細胞遊走の役割及びそのシグナリングと再生への応用

研究代表者(所属)
竹縄 忠臣 (東京大学 医科学研究所 教授)
概要
シグナルで制御された方向性を持つ細胞遊走は発生や器官形成に必須です。WASPファミリー蛋白質が細胞 外刺激によって活性化され、細胞遊走に必要なダイナミックで極性を持った細胞骨格再編を引き起こし、糸状仮足や葉状仮足を促進することを示しました。また N-WASP活性化による筋肉再生への手がかりを明らかにしました。
 

形態の非対称性が生じる機構

研究代表者(所属)
濱田 博司 (大阪大学 大学院 生命機能研究科 教授)
概要
形態の非対称性を生じることは、生物の体がつくられる過程で必須な機構である。この研究では、主に体の左 右非対称性に焦点を当て、実験生物学と理論生物学を組み合わせることにより、対称性が破られる最初のステップから非対称な形態形成に至る一連の過程の分子 機構を研究し、その重要な部分を明らかにした。この研究で得られた成果は、発生学に新たな概念をもたらすとともに、ヒトの先天性奇形の早期診断に貢献する と期待される。
 

発生における器官・形態形成と細胞分化の分子機構

研究代表者(所属)
松本 邦弘 (名古屋大学 大学院 理学研究科 教授)
概要
発生過程におけるMAPキナーゼカスケードを中心とした細胞運命、細胞極性、形態形成の制御機構の解明を 第1の目的とし、発生・分化を規定するシグナル伝達ネットワークの解明を目指した。その結果、Wnt5A がCa2+→CaMKII→TAK1→ HIPK2→NLK経路を活性化し、この経路がWnt1等の標準的Wntシグナルを負に制御することを見出した。さらに、皮膚特異的TAK1の欠損マウス を作成した結果、TAK1の欠損によって皮膚ケラチノサイトの細胞死が引き起こされることが明らかとなり、TAK1が哺乳動物の皮膚表皮の細胞生存に必須 の働きをしていることを示した。

 

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