東アジアのパンコムギ遺伝資源から第2の緑の革命へ

倍数体マルチオミクス技術開発による環境頑健性付与モデルの構築

(紹介動画)

紹介動画

研究代表者

清水 健太郎(横浜市立大学 木原生物学研究所 客員教授)

キーワード

コムギ、温暖化、倍数体、開花


有用植物には、パンコムギ、セイヨウアブラナ、ワタ、アラビカ種コーヒーをはじめとして、倍数体種が多数存在します。近年、パンコムギの収量が気候変動によって減少していた上に、ウクライナ戦争によって流通が滞り、食糧安全保障における重要性が増しています。六倍体のパンコムギなど倍数体種は、広い環境に応答できる性質である環境頑健性や、進化可能性(育種可能性)を高める性質である突然変異頑健性などの長所を持つことが古くから指摘されていました。しかし、倍数体ゲノムの複雑さと、野外環境でのデータ不足から、倍数体の頑健性の分子基盤はほとんど分かっていませんでした。
本研究では、まずシロイヌナズナ属の異質四倍体ミヤマハタザオを実験に適したモデル倍数体種として用いて、幾つかの技術開発を行いました。まず、異質倍数体の同祖遺伝子を区別して高精度でDNA配列解析するためのソフトウェアEAGLE―RCなどを開発しました。また、野外変動環境で長期に形質を測定するための撮影システムと機械学習による画像解析ソフトウェアPlantServationを開発しました。そして、これらを用いた解析により、異質倍数体種は両親種の比較的少数の環境応答遺伝子を組み合わせることで環境頑健性を獲得し、広い環境条件で生育できるという仮説を支持する結果が得られました。
また、パンコムギはゲノムサイズが16Gb(ヒトの約5倍)と巨大であり、高精度のゲノム情報が不足していました。そこで、10+コムギゲノムプロジェクトの国際コンソーシアムと共同して、日本を代表するパンコムギ品種農林61号の高精度ゲノム解読を行いました。農林61号のゲノムには、「緑の革命」で世界の食糧生産を飛躍的に向上させた半矮性遺伝子など、東アジア特有のDNA配列がみられました。さらに、出穂を調節するフロリゲン遺伝子には、コピー数変異や機能欠損がみつかりました。二倍体種ではフロリゲン遺伝子は必須であるために変異が少ないですが、異質倍数体種は突然変異頑健性のため、変異が致死にならず、むしろ形質の微調整が可能だと考えられました。本研究では、ゲノム変異を育種用の大規模解析に展開するために、簡便かつ高精度にDNAの変異を検出する手法PRIMAや、カートによる大規模高解像度撮影法を開発しました。東アジアのユニークなゲノム変異や大規模解析技術は、現在求められている「第2の緑の革命」による食糧安定供給に貢献することが期待されます。

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参考URL

https://www.ieu.uzh.ch/en/staff/member/shimizu_kentaro.html
https://kentaroshimizu-ycu.tumblr.com

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