P700酸化システムによるROS酸化障害の危機診断

活性酸素生成抑制システムの非破壊評価系の確立とフィールドへの応用~危機早期診断システムの構築~

(紹介動画)

紹介動画

研究代表者

三宅 親弘(神戸大学 大学院農学研究科 教授)

キーワード

光合成、光化学系I (PSI)、P700、ストレス、チッソ、低温、必須栄養素、乾燥、活性酸素、ROS


増加し続ける人口を支える食糧、中でも作物の増収には大きな期待が寄せられています。生産性の増大を目的に、これまで交配選抜育種、分子育種、栽培管理の高精度化など多様な取り組みが行われてきました。このような状況の中、私たちは作物の生産性を抑制するストレスの早期検知に着眼しました。生育環境が最適ではないため、作物は潜在的能力を100%発揮できません。生産性の低下には、低温、水不足、必須栄養素不足等のストレスが挙げられます。ストレス環境では、植物の生長・生産性を支える光合成(CO2同化)は抑制され、葉緑体で活性酸素(ROS)の生成蓄積による酸化障害が生じ、光合成効率が低下します。本課題では、光合成抑制に鋭敏に応答する生理マーカー「ROSマーカー=P700酸化」を見出し、そのストレス検知能力の検証と農業の現場で有効な「P700酸化測定機器」(ROSフィールドマスター)の開発を行いました。
まず、生理マーカーであるP700酸化を活用するため、分子メカニズムの理解を図りました。P700は光合成電子伝達系の光化学系I(PSI)反応中心クロロフィルです。葉緑体に吸収された光エネルギーはP700を励起し、光合成反応のために電子を放出し、P700+へと酸化されます。光合成能が抑制された状況では、励起されたP700のもつ電子は酸素(O2)へ流れ、ROSが生成され、PSIの機能は酸化障害を被ります。野外の作物は光合成が抑制されると速やかにP700を酸化型(P700+)に保つことで、ROSを生成する励起P700を抑える戦略(P700酸化システム)をもつことを明らかにしました。次に、P700酸化は、必須栄養不足、水不足、低温にすみやかに応答すること、そしてこれらのストレスの長期化による酸化障害で生じる生葉の褐変化、成長抑制の顕在化前に早期に応答することを明らかにしました。また、これと並行して、 光合成能抑制とP700酸化を同時に簡便に生葉で検知する機器の開発を行い、現在、携帯性の高い小型機器の開発を進めています。
本研究によって、生育抑制をもたらすストレス下ではROSマーカーが速やかに応答することを明らかにし、酸化障害の危機を早期検知できる方法を確立しました。これにより、栽培環境を早期に改善することで、作物生産性を安定化する道を開くとともに、劣悪環境に強いエリート品種を選抜育種する際にROSマーカーを指標とする可能性を示すことができました。

もっと知りたい
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参考URL

三宅 親弘
https://www.p700-oxidation-system.com/home
鈴木 雄二
http://www.agr.iwate-u.ac.jp/teacher/鈴木%E3%80%80雄二/
野口 航
http://www.ls.toyaku.ac.jp/~ecology/
伊福 健太郎
http://www.npk.kais.kyoto-u.ac.jp/

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