プロジェクト概要

生物界において微生物との共生関係は普遍的にみられ、重要な生物機能を担っており、基礎のみならず応用、医学的にも近年大きな注目を集めています。しかし高度な共生関係の大部分は非モデル生物間の密接な相互作用および共進化の帰結であり、その成立過程や機能解明へのアプローチは容易でなく、重要であるが未探索の研究領野として残されています。

「共生進化の現場を実際に観察し、詳しく調べた例はない」「共生進化の帰結としてゲノム縮小し、もはや培養できない共生微生物では遺伝子操作や機能解析が困難である」といった言明は、共生研究の難しさを端的に表現しています。私たちは、これらの困難を克服するブレークスルーを実現し、共生研究分野に画期的かつ飛躍的な進展をもたらすことをめざします。

具体的には、私たちが近年独自に確立した昆虫―大腸菌人工共生系を用いた大規模進化実験、および培養困難な共生細菌の遺伝子操作や全ゲノムクローニングを可能にする新規技術開発を突破口として、共生進化の過程および機構の本質に関する具体的な理解を従来なし得なかったレベルに到達させます。さらに無菌マウス腸内での相互進化系に展開し、昆虫から哺乳類までを俯瞰した共生関係の進化と機構を解明し、無脊椎動物から脊椎動物にわたる共生機構の共通性と多様性の理解に挑み、共生という生命現象の理解における1つの究極の形を提示します。その波及効果は私たちの生命観へのインパクトから、利用可能な生物遺伝子資源の範囲拡大、さらには腸内細菌叢制御による医療や健康維持への貢献まで、広範囲にわたると期待されます。

共生進化機構プロジェクト概念図