第36回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。
ショウジョウバエの栄養生理に関する研究で知られる小幡史明博士(京都大学)にご講演いただきました。
講演要旨:
動物の一生におけるほとんどのプロセスが、食事(餌)由来の栄養に依存している。個体にとって最適な栄養環境にいられる可能性は高くないため、動物には本来、栄養素を適切に感知し、その過不足に対して適応する機構が備わっている。しかし、構造や特性において多岐にわたる栄養分子をどのような機構で感知し、栄養不良にどのように適応するのかについては不明な点が多い。我々は、遺伝学的および栄養学的研究の優れたモデル動物であるショウジョウバエを用いて、食餌中の単一栄養素の増減に対する生体応答の分子機構を解析してきた。その結果、ショウジョウバエ幼虫においては、非必須アミノ酸であるチロシンが、タンパク質欠乏応答の中心的栄養素であることを見出した。チロシン低下を感知したショウジョウバエ幼虫の脂肪組織では転写因子ATF4が活性化し、翻訳低下や食欲亢進などの栄養適応機構を発動した。逆にチロシン過多を感知した上皮組織では、転写因子FoxOを介したチロシン分解経路の亢進により高タンパク質の毒性を減弱させる。さらに、ビタミン様栄養素であるコリンの欠乏に対しては、コリンに類似した代謝物からリン脂質代謝経路を発動したり、共生微生物由来のコリン代謝物を利用することで、致死性を回避することも明らかとなった。本発表では、これらの知見を紹介しながら、動物が単一の栄養素の増減に対して適応する多様なメカニズムについて議論したい。