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第30回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

ハダカデバネズミの老化抑制機構の研究で知られる三浦恭子博士(熊本大学)にご講演いただきました。

講演要旨:ハダカデバネズミ(Naked mole-rat、Heterocephalus glaber、デバ)は、アフリカの北東部に生息する最長寿齧歯類であり、哺乳類では極めて珍しい、昆虫のアリやハチのような分業制の真社会性をもつ。デバは、マウスと似た体サイズながら異例の長寿命(最大寿命37年)であり、老化耐性や発がん耐性をもつことが知られている。我々は2010年にデバの飼育・研究を開始し、発がん耐性、老化耐性、社会性など、デバ固有の様々な特徴に関する研究を進めてきた。例えば、世界に先駆けてデバiPS細胞を樹立し解析した結果、がん遺伝子ERASの機能喪失型変異とがん抑制遺伝子ARFの活性化により、種特異的な腫瘍化耐性を示すことを明らかにした (Miyawaki et al., Nat. Commun. 2016)。最近我々は、デバ個体において初となる発がん剤投与実験を行い、炎症応答の減弱を伴う強い化学発がん耐性を示すことを見出した。解析の結果、炎症誘導性細胞死ネクロプトーシスの誘導に必須なRIPK3およびMLKL遺伝子の機能喪失型変異が、本種の発がん耐性の一因であると考えられた (Oka et al., Commun.Biol. 2022)。さらに、デバは細胞老化誘導時に、本種特有の「セロトニン代謝スイッチ」を介して細胞死を活性化させる機構をもつことを解明した。本機構は、“Natural senolysis”として体内での老化細胞の蓄積を抑制することで、本種の抗老化や発がん耐性に寄与していると考えられる(Kawamura et al., EMBO J. 2023)。今後は、これまでに確立した研究基盤を活用して、デバがもつ耐性機構の解明をさらに推進する。また、デバ個体の遺伝子改変技術を開発するとともに、様々な分野の方との共同研究を展開し、デバを含めた長寿動物の理解を深めていきたい。これらの研究を進めることで、寿命制御や老化、発がんの生物学的理解と進化学的考察の深化、また、将来的に新たな観点からの抗老化・抗がん戦略の開発につながることが期待される。