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第29回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

哺乳類腸内マイクロバイオームの機能に関する研究で知られる長谷耕二博士(慶應義塾大学)にご講演いただきました。

講演要旨:腸内細菌は宿主が分解できない⾷物繊維やオリゴ糖などを発酵分解することで、授乳期や成⼈期において宿主のエネルギー恒常性維持に貢献することはよく知られている。さらに腸内細菌由来の短鎖脂肪酸、ポリアミン、AhRリガンドなど代謝物は宿主の免疫系や代謝系を制御することが明らかになってきた。このように腸内代謝物は腸内細菌のバランス維持は宿主動物の健康維持において重要な役割を果たしている。しかしながら、⽣後における腸内細菌の生理作⽤はよく知られているものの、胎⽣期への影響については不明な点が多いのが現状である。近年、⽣後早期の抗⽣物質投与がアレルギー疾患やメタボリック症候群のリスクを⾼めるという科学的エビデンスが疫学調査や動物実験によって多数⽰されている。⼀⽅、妊娠期における抗⽣物質投与や感染もまた、児の疾患感受性に影響を与える可能性が⽰唆されている。我々は、妊娠期に無菌飼育または通常飼育したマウスの産仔を、全く同じ条件で仮親に育成させた場合、無菌マウス由来の産仔の⽅がより肥満体質を⽰すことを⾒出した。腸内細菌によって産⽣される短鎖脂肪酸は宿主のエネルギー源であるのみならず、シグナル分⼦として腸管外組織の機能を制御している。すなわち、⺟体腸内細菌由来の代謝物は産仔の発達を促進し、⽣後の疾患感受性に⼤きな影響を与えることが判明した。これより、⺟親由来の腸内代謝物が胎児エネルギー代謝系へのプログラミングを介して、DOHaD(developmental origin of health and disease)現象に寄与していると言える。