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第25回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

コケをめぐる群集生態学の研究で知られる今田弓女博士(京都大学)にご講演いただきました。

講演要旨:被子植物を食べる昆虫は、陸生生物の種多様性の大きな割合を占める。一方で、コケやシダを食べる昆虫が少ないということは、Ehrlich & Raven (1964)をはじめ、しばしば指摘されてきたものの、その実態と原因は明らかになっていない。また、Thienemann (1919)は、林床に広がるコケの絨毯を、鳥などの多くの動物が見られない天敵不在空間であると評した。このように過去の研究では、コケと動物との相互作用についての知見は少なく、またそもそも顕著には生じていないと考えられてきた。
 私は、これまでコケを食べる多様な昆虫の自然史を研究してきた。とくに、コケへの巧妙な隠蔽型擬態として知られる「シリブトガガンボ亜科」の昆虫の幼虫形態について、エコモルフォロジーの観点から研究している(Imada 2021)。コケに似た幼虫形態の進化は、コケの絨毯を狩場として昆虫を捕食する視覚的な動物が存在することを示唆しているが、そのような天敵は未だ特定されていない。
 そこで当研究室では、近年、コケの繁殖に寄与する節足動物、採餌・営巣にコケを用いる鳥など、多様な分類群を対象としたコケと動物との相互作用研究をおこなっている。いくつもの栄養段階と空間スケールをまたぐ知見を繋ぎ合わせることで、「森林生態系において、コケがいかに多様な動物の生活を支えており、また、コケの進化の過程にいかに動物が寄与してきたか」を解き明かしていきたい。
 本講演では、森林生態系の様相を知る一つの窓としてのコケと動物との関係について、私の研究室で得られた知見と今後の展望をお話しする。

参考文献
Imada, Y. Moss mimesis par excellence: integrating previous and new data on the life history and larval ecomorphology of long-bodied crane flies (Diptera: Cylindrotomidae: Cylindrotominae). Zoological Journal of the Linnean Society, 2021, 1156–1204.